神官長はかく語りき
「黒騎士様の明日はどっちだ?!」を読んでいないと意味不明です。
この神殿のことから、まずは説明させていただきましょう。
建国の祖である初代国王がみまかられた後、騎士様達を大神の御使として、大神とともにまつる神殿が建てられることになりました。
初代神官長を務めたのは、伴侶をなくされた初代王妃で、以降、王家に連なる者が神官長を務めることが定められました。
ええ、わたくしも先代国王の妹を母に持ち、四代目にあたる現国王は年の離れた従兄にあたります。
この神殿は大神を崇める場所であるとともに、王の決定について神意を問う役割も担っているのです。
戴冠式を王宮ではなく、この神殿で行なうのも、そのためです。
直截に申し上げれば、神意によって王位を継ぐことを認められた、という箔付けをするためですわね。
ですから、先王の戴冠の際、白騎士様が顕現されたことに、先王様は内心たいそう焦っていらっしゃったそうですわ。
結果としては、白騎士様の祝福を得られたことで、王の地盤は強固なものとなり、よりよい治世となりましたのですけれども。
大神の加護を目に見える形で感じられるということは、民の心を安らかにするものなのでしょう。
これまで大きな争いもなく、この国が続いてきたのは、騎士様達の存在ゆえといっても過言ではありません。
しかしながら、実を申せば、わたくしは黒騎士様にお会いするまで、騎士様達の存在を疑っておりました。
騎士様達が建国の礎を築いた英雄であったこと自体は疑っておりませんでしたが、神の御使であろうとは信じておりませんでした。
初代国王や初代神官長の葬儀の際も、先王の戴冠の際も、実は王の密命を受けた人間が甲冑を着用していただけではないかと思っておりました。
それこそ、政治的な思惑のために、ですわ。
伯父である、先代神官長は白騎士様に神殿内を案内して差し上げたとたいそう自慢にしておりましたが、信仰心の人一倍厚い伯父のこと、顕現を願うばかりに夢を見たのではないかとさえわたくしは考えておりました。
そんなわたくしが、黒騎士様にお目にかかったのは、神官長となって二年目の春でした。
あの馬鹿――失礼、今は失脚して幽閉された第三王子の狼藉を黒騎士様がお止め下さったのです。
腹立たしくも、あの愚鈍極まりない下劣な男は、わたくしを強引に我がものにすることで、己が王として大神に認められたと偽りの神意を示させようとしたのですわ。
わたくしは、あの時、おのれの無力を嘆き、騎士様達に助けを求めました。
いえ、正直に申し上げましょう、わたくしは真に大神の御使であるのならば、しもべたるわたくしを救ってみせよと見苦しくも心のなかで喚き散らしていたのです。
黒騎士様はそんな不遜なわたくしを救ってくださいました。
黒騎士様に蹴り飛ばされて無様に気絶したあの男の姿は馬車に轢かれたカエルのようでしたわ!
鮮やかなお手並みに、胸がすっとしましたわ。
おまけに、あの男にふさわしい神罰を与えて下さって。
それを知った時には、快哉を叫びましたわ――もちろん、わたくしにも立場がありますので、心のなかだけでありましたけれども。
――神罰ですか? 白騎士様はご存じないのですね?
……これらの供物は、神罰を恐れる男達と、神罰を願う女達が供えたものでございます。
とはいえ、神罰から逃れたい男達のほうが圧倒的に多いようですわね。
神殿への寄進もこぞって行っておりますし。
道義に反することさえしなければ、怯えることもないでしょうに。
そういえば、わたくし、ぜひお伺いしたかったのですわ。
保身のための浅ましい心からの寄進ですが、受け取ってもかまわないものでしょうか?
かまわない、と? 心が広くていらっしゃいますのね。安心いたしましたわ。
心置き無く、神殿の運営のために使わせていただきます。
――やはり、神罰についてお聞きになりたいのですか?
では、隠さずに申し上げますわね。
白騎士様は男性のようでいらっしゃいますので、お伝えするのはご遠慮しようかと思ったのですけれど。
……あの男は、子孫を残す権利を未来永劫剥奪されたのですわ。
身分をかさに、多くの女達を泣かせてきた男に似合いの罰でございましょう?
――あら、白騎士様、動揺していらっしゃいますの?