第四部
一日空いてしまいました。
因みにこの物語は完全にフィクションです。完全にフィクションです。大切な事なので二回言いました。
【7月16日 午後2時 とある場所にて】
森を抜け、神聖なる場所に辿り着いた。
奥には巨大なゲートが設けられていた。
この墓は自分の墓なのか。
どちらにせよ、助かる方法は……一つ。
俺に課せられた使命を果たす事であった。
【7月17日 午後10時 研究施設にて】
あの後、30分くらいだろうか。
長い道のりを歩き、街外れにある薄暗い研究施設が目についた。
少女によってここまで連れて来られたのだ。
道中は一層、警戒を怠わらなかった。
また幽霊に襲われても厄介なだけだ。
だが実際、俺は少女の方に気を配りすぎた。
(そろそろ仕掛けてくるか…?)
研究施設の外壁には、ツタが生えていた。他にも亀裂が入っていたり、コンクリートが地面に落ちていたり、と若干危険そうだ。
歴史を感じる…というよりも誰も使っていない…廃墟と化したように感じた。
少女は入り口と思われる場所に、俺を誘導する。
「…自動ドアなのか」
電気は生きているようだ。
と言う事は…ここでこの少女が生活している…?
いや、仮にこいつは幽霊だ。
幽霊なら食事だって、寝る必要だって無い……のかな。
「雅雪君…」
「んあ?何だ?」
「疲れて無いですか?」
つくづく心配される。
優しさ、なのだろうか。
「まあ、もう疲れたどころじゃないけどな。最後まで付き合うよ」
折角助けて貰ったんだ。
しかし、彼女は俺を狙うと思っていたが、そうでは無いようだ。
ここまででそんな素振りを見せない所か、逆に他の幽霊を警戒している様に見えた。
「……っ!」
……そうか。結局コイツも俺を欲しがっていたのか。
ここは研究所…例えば、だ。
俺の魂は特殊な物で、幽霊を生き返らせる事ができる…何て単純な話でも今は筋が通る。
結局、か……
中は電気が付いている物の、少し薄暗い。
外から入る風が妙に冷たく、俺を不安にする。
「……教授。連れて来ましたよ」
「教授?」
立ち止まると、目の前にあった大型のコンピュータが一斉に起動した。
そして、コンピュータの前にあった椅子が回転し、こちらに向いた。
そこにはまだ若そうな、白衣を纏った男性が座っていた。
「……ありがとう、紅葉」
紅葉…?
「雅雪君。この人が、教授。何の教授かって言うと……説明しづらい、かな」
「てか、あんたは人、間……?」
紅葉と呼ばれた少女とは違い、身体は透けていない、気がする。
感じる気も、違う。
「ああ、僕は人間だよ」
教授は、ニッコリ笑ってそう言った。
何だか不吉だ。
コイツ等は、一体二人揃ってここで何をしているのか。
そして俺をここに呼んだ理由は何か。
「色々聞きたいことがあるんだが…」
「まあ、座って座って」
俺はぎこちなく、誘導された椅子に座った。
「…突然で悪いね。君を呼んだのは他でも無い。あることを、伝えようと思って、ね」
「あること…?」
俺は首を傾げた。
「そう。って言っても、ここまでの状況で説明する事は少ないかな」
「あの、幽霊…みたいな奴の事ですか…」
俺は少女に目をやる。
先程とは違って大人しく突っ立っている。
「……。そこの女の子から聞いたんだが、俺は……狙われてるのか?幽霊に」
教授と呼ばれた男は頷く。
「まずアレを幽霊と認識するのは正しいだろう。生きてはいない、死者だ」
「じゃあ何で俺は幽霊何かに狙われているんだ?しかも突然。今までそんな事は一切無かったんだが…」
教授は白衣のポケットから一枚の写真を取り出した。
そしてその写真を、こちら向きに机の上に置いた。
「外人…?」
写真に写っていた人物は人間の男性だった。
「そうだ。セシル、と言ってな。古くからの友人だった」
セシル…
その人物が何か、この騒動と関係があるのだろうか。
「その、セシルって人は一体何なんだ?この人も幽霊ってオチか…?」
横に首を振る教授。
「君と……同じだ」
「俺と……同じ…」
「そうだ」
教授は立ち上がり、大型コンピュータの前に立ち寄る。
そして、その横にある一つの大きな箱に手を掛けた。
「君にはある能力が秘められている。それが、幽霊に狙われている理由の一つだ」
「能力…?」
「幽霊、死者が求める物は何か。それを考えてくれ。答えはすぐ出るはずだ」
答えは待たずとも、一瞬で出た。
死者が求めるもの…
財産でも、恋人でも何でも無い…
「……復活…。生き返る、事か…?」
「そうだ。その答えこそが、君の能力だ。……信じ難い話だと思うが、君には、『死者を生き返らせる事ができる魂』を持っているんだ。例えるなら、三蔵法師」
「………はぁ…」
死者を生き返らせる魂、ねぇ…。
「……誰が信じるか!?」
教授、後ろの少女諸共、驚いていたようだ。
「死者を生き返らせる魂?俺はそんなもの信じないね。死んだものが生き返れる事ができたら、今の社会は偉人で溢れているぜ?」
「君は、君みたいな人が何人いるか分かっていないようだね。私の記録では、今まで10人にも満たない。増して、今生きて居る人は……一人、君だけだ」
一人…?
「待ってくれ、一人じゃ話の筋が通らないぞ。じゃあ、セシルは何なんだ」
「セシルさんは……」
少女に悲壮感が漂っていた。
まさか……
「セシルは、死んだよ。幽霊の襲撃によってな。だから、次は君の番って事だ」
「嘘、だ……」
教授は手を触れていた箱を開けた。
そして、中から一本の白い刀が取り出された。
「何だよそれ…」
「白妖刀だ。中々の物だろう?」
「それが…この話に何か関係があるのか?」
教授は再び、こちらに戻ってきた。
「この刀、セシルが作った物で、ちょっと特殊でな。一応尖っているが、君を切ってもただの打撲程度にしかならないだろう」
「弱いな」
「そう、人間である君に使った場合ね。この刀、地球上の素材で作られていないんだ」
地球上の素材じゃない…?
何だ、オーパーツか何かか?
「いつから、幽霊って存在していたと思う?」
「いつからって言われても……宗教が始まって、人が極楽浄土で行ける様に祈った頃くらいか?そして、悪行が働いた人間は、成仏させてもらえ無かった…」
今まで幽霊を否定し続けた俺だ。こちらからの視点となって話すのは、難しい。
「正解とも、不正解とも言いづらいな。昔は祈っても、幾ら良い事をしても、極楽浄土……成仏はできなかったさ。そして魂だけが抜け、実態の無い幽霊となって、彷徨い続けていたんだ」
この人は何者だ。
教授……研究者にしては知り過ぎな気がしてきた。
分かり易い話だが、これが本当の話かどうか分からない。
だが、目の前で起きた事は真実であった。この話を信じるしか無いだろう。俺はそうやって生きてきた。
「教授!近くに幽霊が迫って来てます!」
後ろの少女が声を上げた。
「こんな時にッ…!」




