イケメン妖怪ハンターリックの冒険(ライバル編)
リックは古今無双のスケベな妖怪ハンターです。
彼は愛妻の遊魔と共に旅をしています。
今回は、ある町で妖怪ハンターの元締めと会う事になっています。
(嫌な予感がするにゃん)
リックの危険探知の能力がこの先に待ち受ける困難を感じ取っていました。
(元締めが僕を呼ぶにゃんて、ロクな事がないにゃん)
リックは溜息を吐きました。
「どうしたのですか、お前様?」
遊魔が笑顔全開で尋ねました。
「元締めは金の亡者にゃん。儲からない仕事は絶対しないにゃん。だから、嫌な予感がするにゃんよ」
リックは苦笑いして言いました。
「そうなのでございますか」
遊魔はそれでも笑顔全開で応じました。
(だんだん、遊魔はあのお坊様に似て来ているにゃん)
嫌な汗を掻くリックです。
「お前様と元締め様はよく似ていらっしゃるのですね」
遊魔が突然危険球を投げて来ました。リックは危うく転びかけました。
「僕は金の亡者じゃないにゃん。正義の味方にゃん」
平然と嘘を吐くリックです。
「そうでございますか」
遊魔は更に笑顔全開で応じました。顔が引きつるリックです。
そんな夫婦漫才を繰り広げているうちに、リック達は元締めが待つ町に着きました。
「待ちかねたぞ、リック。来ないのかと思ったよ」
町の周囲を囲んでいる城壁を抜けると、どこからか声が聞こえました。
(やっぱりそうかにゃん……)
リックは何故か脱力しました。
「どうなさったのですか、お前様?」
遊魔が心配そうにリックの顔を覗き込みます。
「何だ、お前、そんなに大きな娘がいるのか? 美衣由との子供か?」
更にその声が嫌な過去を思い出させる事を言いました。
「違うにゃん! この子は僕の奥さんにゃん!」
リックはムッとして顔を上げ、辺りを見渡して叫びました。
「お前様、遊魔は嬉しゅうございます」
遊魔は顔を赤らめて喜んでいます。リックはいつになく真顔で、
「遊魔、ボケをかましている場合じゃないにゃん。あの声は僕の宿命のライバルの声だにゃん」
すると遊魔は笑顔全開で、
「そうなのでございますか、お前様」
全然緊張感がない遊魔にリックは項垂れそうになりますが、
「隙あり!」
いきなり猛烈な勢いで影が襲撃してきたので、
「危ないにゃん、遊魔!」
遊魔を突き飛ばして、迎撃しましたが、一瞬出遅れたせいで顔に傷を負ってしまいました。
リックの左頬はスパッと切れ、血が流れ出ました。
「よくぞかわした、リックよ。我が生涯の宿敵に相応しい」
そう言って立ち上がりながら振り向いたのは、リックに負けないくらいのイケメンでした。
「いきなり何するにゃん、ザック!」
リックは血を拭いながら尋ねました。ザックと呼ばれたイケメンはフッと笑い、
「次に顔を合わせた時はお前を殺すと言っておいたはずだぞ、リック」
「元締めが僕を呼んだのは、やっぱりお前が現れたからにゃんね?」
リックはザックを睨みました。
「そうさ。元締めはお前と俺のどっちが強いのか、お知りになりたいそうだ」
ザックは目を細めました。
「どうしてお前はそこまで僕を憎むにゃん?」
リックは震えている遊魔を気遣いながら言いました。するとザックは目を見開き、
「当たり前だろう! 美衣由を俺から奪っておきながら、次から次へと女を誑かしやがって!」
ザックの言葉にまた嫌な汗を掻くリックです。
(遊魔の前でそういう話はやめて欲しいにゃん……)
ザックより遊魔が怖いリックです。
「今日こそ、お前のそのチャランポランな生涯を終わらせてやるよ! 覚悟しろ……」
ザックがそこまで言った時です。
「旦那様に何をする!」
電光石火の早業で、遊魔の渾身の踵落としがザックに炸裂しました。
「ぐげえ!」
ザックはそのまま地面に縦に減り込み、気を失ってしまいました。
(やっぱり遊魔の方がずっと怖いにゃん)
ザックの惨状を見て、リックは顔を引きつらせました。
「お前様、大事ありませぬか?」
遊魔はリックの頬をペロペロ舐めました。
(嬉しいのと怖いのと半々にゃん……)
リックは硬直して遊魔の「手当」を受けていました。
めでたし、めでたし。