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第六十八話:後輩達の困ったお願い

 四回目の任務の翌日、第七十一期訓練生達は休暇を与えられていた。四日間続いた任務に、『ES寄生体』や敵性の『ES能力者』の襲撃。それらの影響に対する肉体的精神的な休養のために、任務と同期間である四日間の休養が与えられたのだ。

 しかし、大半の生徒が部屋で体を休める中、博孝達は平常運転と言わんばかりに自主訓練に励んでいた。『ES寄生体』の相手しかできなかったというのも理由の一つだが、砂原が見せた“本気”の戦いぶりに触発されたのである。だが、自主訓練の休憩中に一つだけ問題が起きた。

 当人以外からすれば問題というほど大げさなものではないが、その当人――博孝達が任務から戻ってきたと聞き、顔を見に来た市原としては大問題だった。


「お願いします岡島先輩! 俺に力を貸してください!」


 訓練中の休憩ということで飲み物を買おうと自販機に向かっていた里香を追いかけ、市原は開口一番にそう叫ぶ。腰を九十度に折るほど頭を下げたその姿を見て、里香は困惑した。


「えと……い、市原君? わ、わたしの力って? 怪我でもしたの?」


 怪我をしているのかと心配する里香だが、顔を上げた市原は首を横に振る。そしてさり気なく里香の分の飲み物を購入しつつ、呻くように話し始めた。


「いえ、その……先輩方に初めて会った時、俺って先輩方に喧嘩を吹っかけたじゃないですか。それ以来、みらい先輩に怯えられてしまって……」


 ぽつりぽつりと話す市原。里香は市原が差し出してくるスポーツドリンクを受け取っても良いものかと悩むが、相談料ということなのだろう。断っても悪いと思い、ドリンクを受け取る。

 市原が相談したのは、みらいについてだった。最近、感情の発露が著しいみらいである。任務から戻った博孝達のもとへと市原達が訪れた際、市原の顔を見るなり『……ヒッ』と小さな悲鳴を上げられたのだ。

 かつての市原は尊大な部分があったが、今では角が丸くなるどころか無理矢理“丸くさせられた”ため、押しが強い部分を除けばだいぶ落ち着いている。だが、自分よりも幼く見えるみらいに心底怯えたような反応をされれば傷つく。いくら自業自得とはいえ、いつまでも敬遠されるのは精神衛生的にも勘弁してほしかった。

 それまでもみらいに避けられている節があったが、はっきりと恐怖の色が浮かんだ瞳で見つめられ、悲鳴の一つも上げられれば膝を突きたくもなる。

 みらいが怯えると、周囲に第七十一期の女子がいた場合は笑顔で“お仕置き”されるというのも、状況の改善を切実に望む一因だったりするが。


「ご機嫌取りってわけではないんですが、過去の無礼のお詫びも兼ねてみらい先輩にプレゼントを贈ろうかな、と思いまして。そこで、みらい先輩から姉と慕われる岡島先輩にご協力をお願いしたいんです!」


 既に詫びの品を送ったことはあるのだが、みらいの態度が軟化することはなかった。それ故に、現状を打破するための一手を市原は求めている。

 勢いよく頼み込む市原に、里香は視線を彷徨わせた。みらいと市原の関係は里香も知っているが、任務から戻って顔を合わせた時のみらいの反応には里香も驚いたものだ。どうやら、みらいの中では市原の顔と苦痛や恐怖の感情が結びついているらしい。

 しかし、しかしである。話の流れを把握した里香は、市原が求めることも理解した。みらいにわざわざプレゼントを贈るということは、売店に売ってある商品から選ぶわけではないだろう。みらいの印象を一気に変えられるようなプレゼントを選ぶために、街へ一緒に来てほしいのではないか。


「ひ、博孝君に聞くとか?」


 考えが外れていたら、赤面して謝ってしまいそうだと里香は思った。だが、里香の脳裏には“外れている”という感覚が浮かばない。そのため代案を出してみるが、市原は全力で首を横に振った。


「とんでもない! 河原崎先輩のことはとても尊敬していますけど、みらい先輩が関わるとなったら話は別です! 俺がみらい先輩にプレゼントを贈るって知ったら、笑顔で叩きのめされますよ! 運が良くても、『射撃』の的にされます! 運が悪かったら、骨の二、三本は折られますよ!」


 市原の中で、博孝はどんな扱いなのだろうかと里香は思った。尊敬されつつも恐れられている博孝に、里香は内心だけで苦笑する。しかし、現状が打開されたわけではない。

 向けられる視線と懇願は、非常に必死だった。余程みらいの反応が心に刺さったらしく、里香としても、いつまでもみらいが怯えたままというのは気にかかる。


「お願いです岡島先輩! 後輩を助けると思って、どうかご協力をお願いします! 移動費や昼食代も全て持ちますから!」


 そのまま放っておけば、土下座すらしそうだ。その必死さに、里香はどこか懐かしいものを感じてしまう。事情は異なるが、こういった必死さは博孝に重なるものがあった。ついでに言えば、最終手段として土下座をしてきそうなところなどはそっくりである。

 里香としても、市原のことは嫌っていない。無論、後輩としてはという枕詞がつくが、それでも嫌悪感を抱いているわけではない。それに加えて、みらいのために必死になるその姿勢がとても好ましく思えた。


「え、と……うん。わたしで良ければ……」


 それ故に、里香は市原の勢いに押されるようにして承諾したのだった。








「お願いします河原崎先輩! わたしに力を貸してください!」


 翌日、自主訓練ではなく個人的に博孝のもとへと尋ねてきた二宮は、開口一番にそう叫んだ。その後ろには紫藤がついてきているが、呆れたような目を二宮に向けている。

 場所は、男子寮の博孝の部屋だった。二宮達は先輩の男子寮という、女子にとっては入り辛いであろう空間を微塵も気に留めず、談話室にいる男子達の視線を一顧だにせず、博孝の部屋へと突撃してきたのだ。

 そして二宮がまくし立てるように説明を行い、それを聞いた博孝は眉を寄せながらこめかみを指で叩く。


「つまり、お前らの次の休日……明後日に市原が里香と一緒に外出するから、それを尾行するのを手伝ってほしいと?」


 博孝が話をまとめると、二宮は肯定するように勢いよく頷く。それを見た博孝は、額に手を当てながら言葉を絞り出した。


「……ストーカーって言葉、知ってるか?」

「好きな相手のためなら、法律なんてクソ食らえです!」

「それって完全にストーカーの思考だからな!? 明らかに危ないからな!?」


 さらりと犯罪宣言を行う二宮だが、同時に自身の心情を吐露している。二宮にとって市原は気になる――直截に言えば、好意を寄せている異性だ。

 その市原が朝から上機嫌だったために問い詰めてみると、今度の休日に里香とデートに行くと言う。市原はきちんと、『みらいへのプレゼントを買うための買い物に付き合ってもらう』と説明したのだが、二宮がその言葉を脳内で変換した結果、デートという言葉に置き換わったのだ。

 その辺りのやり取りを知らない博孝からすれば、里香が市原とデートをするということに驚く。しかし、何か理由があるのだろうと判断して、それほど気に留めなかった。

 少しばかり、胸の内でもやもやとした感触があったが、努めて無視する。


「というか、尾行するだけなら俺は必要ないだろ? 二人だけで問題ないと思うけどな」


 尾行すること自体が問題だが、博孝はそこには触れなかった。二宮に対する配慮ではなく、単純に触れたくなかったのである。


「河原崎先輩って、街に行ったことがあるんですよね?」

「ん? まあ、一度だけな」


 何故そんなことを聞かれるのかわからず、素直に答える博孝。それを聞くと、二宮は俄然やる気が出たように頷いた。


「わたし達は行ったことがないんです。だから、一度でも街に行ったことある河原崎先輩がいれば、土地勘に問題はないかと思いまして」

「たしかに一通りは回ったけどさ……」

「あと、河原崎先輩なら尾行ぐらいは簡単にできるんじゃないかと思いまして」

「それって褒めてないよな!?」


 里香や市原に気付かれないだけの能力を持っていると言いたいのだろうが、尾行を簡単に行えると言われれば外聞が悪すぎる。


「それと、河原崎先輩なら女の子ふたりぐらいはエスコートできるんだろうなー、と。わたし達も『ES能力者』ですけど、やっぱり女の子二人で歩くのは不安ですし……その点、河原崎先輩なら両手に花だろうと周囲の視線を気にすることなく、むしろ羨ましいだろうと自慢するぐらいの豪胆さを持ち合わせていると思いますし!」

「俺ってどんな評価なの!?」


 女遊びが激しいように思われているのだろうか、と博孝は不安になる。市原達と会うのは自主訓練の時がほとんどだが、そんな風に思われるとは思ってもみなかった。しかし、そんな博孝の様子を見て、二宮は紫藤と顔を見合わせた。


「どんな評価って言われても……ねえ?」

「岡島先輩や長谷川先輩と一緒にいるところをよく見かける。みらい先輩は妹だから外すとしても……二股?」

「ちげえよ! 何もねえよ!」


 自分としては疾しいところは何もないが、周囲から見ると違うのかもしれない。そんなことを思いつつも、博孝は否定する。


「俺じゃなくて三場を連れて行ったらどうだ?」

「この手の話ではミジンコよりも役に立ちませんよ」

「四葉、ミジンコに失礼」


 代案を出す博孝だが、無情かつ無慈悲な返答によって却下される。それを聞いた博孝は、三場のことを思って心の中だけで涙を流した。苦労性な性格をしていると思ったが、ここまで来ると周囲の環境も悪いのではないかとすら思う。

 今度、食事でも奢ってやろう。不憫な後輩の愚痴を聞きつつ、美味しい物でも食べさせよう。そんなことを考え、博孝は諦めたように両手を上げる。


「はぁ……もういいや。それで、さっきも言ってたけど、紫藤もついてくるんだよな?」

「うん。先輩から、任務の話を聞きたい」


 確認のために博孝が問うと、紫藤は頷く。だが、その言葉を聞いて博孝は苦笑してしまった。


「話せる範囲なら、今からでも話してやるぞ? 自主訓練の最中にでも話せるし」


 博孝がそう言うと、紫藤は首を横に振る。


「訓練は訓練。話は話。四葉についていくのなら、その間に“色々”と聞けるから」


 そう言って、紫藤は期待に満ちた瞳を向けた。そんな紫藤を見て、博孝はため息を吐きながら頭を掻く。


「外出許可が間に合うかわからないし、許可が下りるかもわからない。まあ、行けるなら付き合ってやるよ」


 砂原に確認を取ってみて、可能なら付き合うとしよう。許可が下りないのならば、断るしかない。そう判断し、博孝は解散を促すのだった。








 訓練生が休日だろうと、教官である砂原は忙しいことが多い。しかも、四回目の任務で発生した問題に対する報告書の作成があり、砂原は教官室で一人机に向き合っていた。報告書だけでなく各方面に顔を出す必要もあり、訓練校に戻っていたのは本当に偶然である。


「教官、お忙しいところ大変恐縮なのですが、一つご相談がありまして……」


 そんな砂原のもとに尋ねるのは、博孝としても気まずい。それが仕事とはいえ、砂原が様々な案件に手を取られている中での相談なのだ。砂原に聞きに行った“フリ”をしようかと思った博孝だが、さすがに嘘偽りを後輩に伝えるのは気が引ける。

 砂原は、休日だというのに教官室に顔を出した博孝に片眉を上げるが、相談というからには大事な要件なのだろうと判断する。それまで手を付けていた報告書の内容を見られないよう引き出しに仕舞うと、博孝に椅子へ座るよう促す。


「貴様らには休暇を言い渡していたはずだが……相談とはなんだ?」


 椅子に座った博孝に対して、砂原は紙コップに注いだコーヒーを差し出した。博孝はコップを受け取って礼を言うと、どうやって説明したものかと頭を捻る。しかし、結局はそのまま話すことしかできず、博孝の話を聞いた砂原は楽しげに笑った。


「ほう……デートか。後輩から、それも二人にデートに誘われるなど、お前も隅に置けないな」


 口の端を吊り上げ、冗談混じりに砂原が言う。それを聞いた博孝は、思わず頭と手を振って全力で否定してしまった。


「いやいやっ! デートではなく、犯罪を未然に防ぐための犠牲と言いますか、後輩に対する先輩としての責務と言いますか……」


 必死に否定する博孝を見て、砂原は押し殺したような笑い声を上げる。『ES能力者』は外見の加齢が遅いためにそれほど歳を取ったつもりはなかったが、若者の恋愛模様を楽しく感じるのは砂原とて普通の人間と変わらない。

 そういえば、と砂原は思い出す。里香からも同日に外出許可を申請されていたが、似たような用件なのだろう。砂原は笑いを噛み殺すが、これまでの会話の中には博孝が相談を行う必要性を見い出せなかった。


「それで? わざわざ相談に来るぐらいだ。何か理由があるのだろう?」


 そのため水を向けてみると、博孝はコーヒーを啜ってから口を開く。


「なんと言いますか……俺って、訓練校の外に出る度に何かしらの問題に巻き込まれてるじゃないですか。外出許可が下りるのかなー、と思いまして」


 眉を寄せ、僅かな不安を覗かせる博孝。その様子を眺めた砂原は、博孝と同じようにコーヒーを啜る。


「『天治会』も、空戦一個中隊を失ったことで迂闊には動けんだろう。任務明けということで、気分転換も大事だ。それに、お前は放っておくと自主訓練に没頭しているからな。たまには羽を伸ばしてこい」


 博孝にちょっかいを出すとすれば、『天治会』あたりだろうと砂原は見ていた。だが、四回目の任務の際に空戦一個中隊を失っている。空戦一個中隊といえば、小国程度ならば容易く落とせる戦力だ。

 『天治会』がどれほどの規模を持っているかは知られていないが、空戦一個中隊を失って即座に動けるほど巨大な組織とも思えない。それで動けるのならば、それは組織という枠には収まらず、中堅国家以上の人員を持っているようなものだ。

 もちろん、警戒するに越したことはない。だが、訓練校から最も近い街は、訓練生が訪れるということで防備も厚い。“以前”のように連れ去られなければ、大きな問題にはつながらないと思われた。

 その点は、わざわざ注意せずとも博孝だって理解しているだろう。普段の行動が少々“アレ”だと砂原は思っているが、観察力や非常時の行動力はその辺の正規部隊員よりも上だ。実戦における対応能力とて、正規部隊員に引けを取るものではない。


「羽を伸ばせるかはわかりませんが……了解です。ありがとうございます」


 頭を下げる博孝に、砂原は鷹揚に頷く。博孝は任務以外で外出する機会が乏しく、最も直近で外出したのは年末年始に帰省したぐらいだ。『ES能力者』の訓練生としては訓練に励むことが責務だが、“学生”としては羽を伸ばすことも必要である。

 ただでさえ、博孝は放っておくと休日だろうと自主訓練に没頭している。日頃の実技訓練に、本来は休息するはずの時間にも自主訓練。挙句の果てに休日も朝から晩まで自主訓練だ。座学の授業が最も休めるというあたり、訓練生どころか正規部隊員と比較してもおかしい。

 砂原も博孝と似たような生活を送っていたため強くは言えないが、それでも教官としては休ませるのも仕事の内だ。


「俺は任務の報告があるため、訓練校にはいない。何かあれば、周囲の『ES能力者』に助けを求めろ。良いな?」


 面倒なことだが、任務での報告を“上”に行う必要があった。そのため、その日は朝から東京まで飛んで行かなくてはならない。それに加えて、拿捕したフレスコ達から情報を吐き出させなければならないのだ。

 フレスコ達は抵抗こそしないものの、両手足を鋼線で縛られた上に二十四時間体制で『ES能力者』の監視下に置かれている。尋問も行われているが、『天治会』について何も話さない。

 自爆を行おうとすれば即座に鎮圧できるが、情報も吐かないとなると面倒なだけだ。強く敵視していた砂原ならば何かを聞き出せるかもしれないため、尋問用の部署にも顔を出さなくてはならない。

 情報の大事さも理解しているため文句は言わないが、こんなことならば拿捕ではなく、全員撃破した方が楽だったのではないか、と物騒なことを考えた。

 『ES寄生体』を撃破し、空戦一個小隊の半数を撃破、半数を拿捕したことで特別報奨金なども出る。鈴木などは昇進を打診されているが、『いなづま』から下ろされるのは嫌だと突っぱねているらしい。

 任務に参加した正規部隊員だけでなく、訓練生にも報奨金が出る。そのため、今月の給与振込日には大騒ぎすることだろう。

 砂原は博孝が退室していくのを見送ると、固定電話の受話器を取った。かける先は、訓練校の防衛を行っている『ES能力者』が待機している詰所である。


「こちら、砂原空戦軍曹だ。第七十一期訓練生の河原崎博孝から外出申請が出ると思うので、護衛を手配してほしい。そうだな……一個分隊もいれば十分だろう」


 博孝が独自技能を発現しているというのは、防衛の任務についている『ES能力者』も知っている。そのため、特に疑問を持たれることもなく承諾された。

 砂原は受話器を下ろすと、懐から煙草の箱を取り出す。煙草を口に咥えると、火を点けて紫煙を吐き出した。そして、自分を誤魔化すように呟く。


「こんなことだから、町田達から過保護だと笑われるんだろうな……」


 つい最近顔を合わせた元部下にも、砂原以外で『収束』を発現できる『ES能力者』を四人集めたことについて笑われたのだ。

 無論、町田達は砂原を相手に笑うなどという無謀なことはしない。しかし、長年の付き合いがある砂原は、町田達が飲み込んだ言葉を全て察し――その上で、そうなのかと頭を抱えた。

 いくら教え子の安全のためとはいえ、『収束』を発現できる『ES能力者』が四人だ。開発者である砂原を含めれば、五人もいる。それだけの人員がいれば、相手が空戦一個大隊だろうと鼻歌混じりに叩き潰せる。それこそ、最精鋭である『零戦』の一個中隊が相手でも互角に戦えると砂原は思った。

 部下ではなく、“教え子”になる生徒達。その生徒達のために、それほどの戦力を集めた自分。砂原はその構図を思い浮かべ、乱暴に紫煙を吐き出す。


「……今度から、訓練をもっと厳しくするか」


 照れ隠しのためか、砂原は八つ当たりのようにそんなことを呟いた。








「え? 二日後っすか? 三場が休みだから、一緒に自主訓練をする予定っすよ。城之内とか、他の防御型の『ES能力者』も参加するっす」

「博孝と街に? 嬉しいお誘いだけど、今は自主訓練に励みたいわ。教官の戦う姿を見てから、無性に体が動かしたくて仕方ないのよ」

「……てれび、みてる」


 さすがに一人では嫌だと思い、恭介や沙織、みらいに声をかけた結果、博孝への回答は無残なものだった。二宮のことは伏せ、『純粋に遊びに行かないか』という名目で巻き込もうとしたのだが、三人は首を横に振ったのである。

 恭介は同じ防御型である三場や城之内、他クラスメートと共に自主訓練を行うようだ。

 沙織は砂原の戦う姿に触発されたのか、高い戦意を振り撒いている。それでいて以前のように誰かに喧嘩を売ることもなく、思う存分体を動かすことでフラストレーションを発散するようだ。

 みらいは、テレビに夢中だった。任務から帰って以来、様々な情報を得られるテレビに夢中なのである。自主訓練も行うが、時間があればテレビにかじりつくようになってしまった。『構成力』は不安定になるどころか、かつてないほど安定している。市原の顔を見れば恐怖を覚えるが、『構成力』自体は不安定になることがない。

 三人からのまさかの回答に、博孝は頭を抱えた。許可は下りなかったと嘘を吐こうかと思ったが、二宮と約束した手前それもできない。一度約束したことなのだからと自分に言い聞かせ、博孝はメールのテンプレートから外出許可願いを作成して送信。許可を認める旨の返信を受け取り、二宮へと電話を入れる。


「もしもし、二宮か? 許可が下りたぞ」

『本当ですか!? ありがとうございます! 当日まで、絶対にバレないようにしてくださいね?』

「そういう類の念押しをされると、犯罪の香りがプンプンとしてくるんだが……」

『お礼もしますから! それでは、当日はお願いします!』


 テンションが上がったというよりは、鬼気迫る様子で念押しされてしまった。博孝は携帯をホルダーに戻すと、妙なことになったなぁ、と呟く。 

 だが、博孝としても気になることが一つだけあった。


「里香と市原がデート、か……いや、俺がとやかく言える話じゃないけどさぁ……」


 言葉に出して、博孝は頭を掻く。二宮が語る情報しか知らない博孝は、真相を知ることもなく“当日”までの時を過ごしていく。

 里香と顔を合わせた時も互いに妙な距離感があるのだが、それが何なのかは博孝も里香も気付かない。なんとなく、雰囲気がおかしくなってしまうのだ。

 微妙なわだかまりを発生させながらも、時間は進む。

 後輩からの願いによって発生した“デート”は、博孝の心境とは裏腹に晴れ渡った青空の下で開始されるのだった。








どうも、作者の池崎数也です。

毎度のご感想や評価をいただき、ありがとうございます。

やる気と言いますか、テンションが上がったので以下のものを投下してしまいました。


・長谷川沙織 ビフォーアフター

http://29.mitemin.net/i106875/


沙織の入学時、博孝と和解以降、博孝からのプレゼント(リボン)を着用した文学少女Verの三つの絵です。いつもの残念クオリティですが、ご興味のある方はどうぞ。


ご感想およびご指摘、評価等をいただけると作者のやる気がますますアップいたします。

それでは、こんな拙作ではありますが今後ともお付き合いいただければ幸いに思います。

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