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第四十七話:Bloody white day その4

 砂原の『探知』に“それ”が引っ掛かったのは、戦っていた空戦小隊の半数を叩き落とした時のことだった。

 殺しはせず、かといってそれほど手加減もできず、骨の数本を圧し折りつつ撃墜したのだ。残る二人も、あと数分あれば撃墜できる。


(殺すだけならば、数秒あれば十分なのだがな……)


 そんなことを考えた矢先、離れた場所で『構成力』が増大したのを探知した。みらいが『構成力』の暴走を引き起こした時と同様の、『構成力』の増大。それを感じ取り、砂原はみらいの身に何かが起きたのかと思った。

 だが、増大する『構成力』は規則的なものであり、みらいのように『構成力』が不安定な者が起こす暴走とは異なる。『構成力』を増大させているのは、砂原が訓練生の上位程度と判断した敵の二人だ。何が起きているかは、明白だった。


(まさか――自爆だと!? 未熟な者を連れてきたのはこのためか!)


 『ES能力者』の育成や運用については、その国々によって大きく特色が異なる。

 日本では、少ない『ES能力者』の数を質で補う傾向があった。そのため、訓練生の任務にも護衛の『ES能力者』を多く割き、身の安全を確保している。正規部隊員には高い給与と待遇を与え、やる気を引き出しつつその実力を高めていくスタンスだ。

 しかし、全ての国が同じように『ES能力者』を育成しているわけではない。

 例えば、米国などは国柄が『ES能力者』にも表れており、銃器のような遠距離射撃を主体とする『ES能力者』が多い。空戦では、周囲と連携を取りつつ実行する偏差射撃を得意としていた。反対に、日本は接近戦を得意としている。『武神』や『穿孔』などは、その象徴として他国からの畏怖を受けているほどだ。

 ロシアなどは、特徴的な独自技能を持つ者が他国に比べて多い。『猛毒』などもそうだが、独自技能保持者の割合が各国でもトップだった。


(そして、『ES能力者』を捨て駒のように扱う国は一つ、か……)


 砂原の脳裏に、一つの国が浮かぶ。『ES能力者』の保有数は世界で最も多いものの、その練度は最低レベル。かつて砂原が単騎で中隊を叩き潰したのも、“その国”の『ES能力者』だった。

 “その国”では、未熟な『ES能力者』を便利な移動爆弾として使用することがある。今回も、その一環なのだろう。

 砂原は、多少無茶をしてでも押し通ることを決断。全身に『収束』を発現し、被弾を無視して一気に突っ込む。しかし、相手も“それなり”に技量を持つ『ES能力者』だった。砂原の直進を遮るように『砲撃』を撃ち出し、『収束』を削ろうとする。残ったもう一人は、近接戦闘で砂原を足止めすべく動く。

 意思はなくともその技量は健在なのか、砂原は移動速度を制限されてしまう。それでも少しずつ第一小隊の元へと近づき――山の中腹が、白い光に包まれた。

 遅れて届く爆音と、爆発の衝撃波。木々が空に舞い上がり、土砂と共に降り注ぐ。砂原が何度か見たことがある、『構成力』を使った爆発だ。山が丸ごと吹き飛ばなかったのは、自爆を敢行したものの技量が未熟だったからだろうか。


 ――そんなことは、砂原にとって何の慰めにもならないが。


「そこを……どけえええええええぇっ!」


 砂原の怒声が、木々と土砂が降る青空に響き渡る。

 接近戦を挑んできた相手に対し、『瞬速』で接近。右手に『構成力』を『収束』させ、相手の『防壁』を両断。そのまま両手でこじ開け、相手の『防殻』も『収束』を発現した手で引き裂く。

 白熱する思考の中で、砂原は淡々と、冷静に、作業をこなすように相手の防御を無力化。『瞬速』を併用しつつ、相手自体を無力化するために打撃を叩き込む。

 相手の呼吸を阻害するために肺と喉に一撃。意識を断つために鳩尾に一撃。抵抗が出来ないよう、両腕も圧し折る。それらの動作を瞬時に行い、『瞬速』で相手の頭上に移動。踏み砕く勢いで踵を振り下ろし、相手を地表へと叩き落とす。

 驚くべきは、これだけの攻撃を加えても相手に致命傷を与えていない点だろう。砂原は相手が死亡せず、かつ数時間は動くことができないよう手加減を加えつつ、三人目を撃墜した。

 教え子達の容態が気にかかる。自爆によって発生した『構成力』の妨害によって、教え子達の『構成力』が感じ取れない。無事かどうかも、判別できなかった。

 それでも、残りは一人。相手は遠距離型だが、一分もあれば仕留められる。そこから第一小隊がいた場所まで駆けつけるのに、合計で二分程度。

 そう計算した砂原の『探知』に、新たな『構成力』が引っ掛かる。自爆によって発生した『構成力』がジャミングのようになっている自爆地点の近くで、それを貫くようにして突如巨大な『構成力』が発生した。


「なんだと……」


 感じ取った『構成力』の規模に、砂原は驚きの感情を覚える。


 全力を出した場合の砂原と同等か――僅かとはいえ上回るか。


 それほどの規模の『構成力』が突然現れたことを、砂原は感じ取ったのである。








「おーおー、さすがに二人分の自爆は派手だねぇ。この国だと、たーまやーって言うんだっけか」


 そんなことを言いつつ、ナイフ使いの男は遠くから爆心地を眺めていた。脱出して可能な限り距離を稼ぎ、そのあとは防御を固めて爆発の衝撃に乗って逃げ出したのである。服のあちこちが破けているが、負傷自体はほとんどしていない。


「お前の任務はここまでだ。離脱しろ“ハリド”」


 そんなナイフ使いの男に、一人の男が声をかけた。それを聞き、ナイフ使いの男は肩を竦める。


「あの坊主と黒髪の嬢ちゃんは俺がもらいたかったんですがねぇ……命令には従いますわ、“ラプター”」


 ナイフ使いの男――ハリドと呼ばれた男は、残念そうに顔を歪めた。ハリドにラプターと呼ばれた男は、小さく鼻を鳴らす。


「お前の任務はここまでだ。そして、お前が“仕留めきれなかったのなら”、ここからは俺の任務だ」

「すんませんねぇ。でも、アンタとしては俺が仕留めなかった方が良かったんじゃ? なんつーか、パッと見無表情ですけどそんな顔してますぜ」


 ラプターの顔を見て、ハリドは笑いながら言う。

 ラプターは百八十センチを超える長身に、適度に伸ばした金髪と白い肌。顔の造形は彫りが深く、西洋の人間であることを窺わせる顔立ちをしていた。だが、その顔には表情がない。それでも、ハリドからすればなんとなくではあるものの、ラプターの表情が読めていた。観察力は戦闘において重要な要素であり、ハリドはその点で優れた力を持っている。

 ハリドの言葉に、何も答えないラプター。その様子に頭を掻きつつ、ハリドは確信を込めた声で尋ねる。


「それと……アンタは、あの坊主が独自技能を持ってることを知ってたんですかい?」


 ラプターの様子を見ながら、ハリドはそう尋ねた。そして、ついでとばかりに口を尖らせる。


「知ってたんなら、教えといてほしかったですわ。まあ、俺としては十分に斬り合いができたから満足ですけどねぇ。しかし、あの坊主が独自技能を持ってるってことは」

「――余計なことを詮索するな。お前はまだまだ使える駒だ。ここで“処分”したくはない」


 ラプターの声が一段下がり、それを聞いたハリドは降参するように両手を上げる。


「おお怖い。そんじゃ、俺は“連れ”と一緒に今の内に退きますぜ」


 それだけを言い残し、ハリドは『隠形』を発現して無事だった森の中へと消えていく。ラプターはそれを見送ると、すぐさまその場から姿を消すのだった。








 『ES能力者』二名による自爆に巻き込まれた博孝は、その身を襲う衝撃に必死で耐えていた。

 『射撃』のように指向性がない、全方位に向けての爆発である。その分威力は下がっているのだろうが、『ES能力者』が全ての『構成力』を注ぎ込んで行う自爆だ。大地が裂け、木々が吹き飛び、土砂を巻き上げる。

 博孝は、自身が発現した『盾』が四枚ほど消滅したのを感じ取った。陸戦部隊の三名を守るために発現したものが消滅したのだろう。六枚発現した内の四枚が消滅したということは、最低でも一人の、最悪二人の防御手段が失われたことになる。

 しかし、それを嘆いている暇はない。博孝が最後の足掻きに発現した『盾』も限界であり――それを自覚した瞬間、『盾』が耐えきれずに消滅した。


「里香っ!」


 『盾』が消滅したことで、それまで辛うじて残っていた周辺の地面が吹き飛ぶ。博孝は里香を抱き締めると、消滅した分の『盾』を新たに発現して防御態勢を取った。『活性化』に使うための『構成力』は、そろそろ限界が近い。そのため普通の『盾』を二枚出すのが限界だったのだが、指向性がない爆発を防ぐことは可能だった。

 それでも、博孝は無事ではない。里香に影響が及ばないようにと、『盾』と一緒に自分の体を“盾”にしていたのだ。『防殻』も発現してはいたものの、『盾』に多くの『構成力』を裂いていたため防御力は低い。そして、二人がかりの自爆はそれを破る程度の威力があった。

 爆発の衝撃が収まり、舞い上げられた木々の破片や土砂が落下を始める。博孝は歯を噛み締めて意識を保つと、里香の体を解放する。


「里香……無事、か?」


 なんとかそれだけを口にすると、里香はすぐさま反応した。


「う、うん。ありがとう博孝君……っ!?」


 博孝の声が弱々しいことに気付いた里香が視線を向けると、博孝はそれに応えるように口元に笑みを浮かべた。里香を庇うためにその体を盾にしたのだが、その結果、博孝の背中は火傷を負ったかのように爛れている。里香の視線に気づいた博孝は、心配をかけまいと冗談を口にする。


「大丈夫だ。いつつ……ちょっと、背中がレアな感じに焼けただけだよ」

「大丈夫じゃないよ! じっとしてて!」

「いや……そうもいかねぇ。恭介達の無事を確認しないと……」


 博孝は痛む体を押して立ち上がり、他の三人の元へと向かって歩き出そうとする。それを見た里香は表情を悲しそうに崩すと、博孝の腕を掴んだ。


「だめっ! 治療を受けて!」

「それは、あいつらの無事を確認してからだ」


 小隊長としての責任感からか、博孝は体を引きずるようにして歩き始める。里香は唇を噛むと、博孝の体を支えながら『接合』を発現して治療を行うことにした。


「もう……無茶ばっかりして……」

「悪い……」


 申し訳なさそうに頭を下げながらも、歩くことをやめようとしない博孝。その博孝の表情を見て、里香は心の中に不安が渦巻くのを感じた。

 博孝はどんな時でも仲間を守ろうとする。命がけで、身を呈して、守ろうとするのだ。しかし、博孝の姿はまるで――。


「里香! 博孝!」


 そんな里香の思考を切るようにして、沙織の声が響く。それを聞いた博孝は顔を上げ、沙織や恭介、みらいの姿を見つけて笑みを浮かべた。


「全員、無事か……」


 沙織と恭介が力を尽くしたのか、三人に目立った負傷はない。三人は博孝と里香のもとに駆け寄り、その喜びを露わにする。


「博孝、良かったっすよ!」

「……おにぃちゃん、おねぇちゃん、だいじょぶ?」

「おうよ。ちっとばかし背中が焼けたけど、無事だ」

「え? って博孝! それはちょっとって感じじゃないわよ! 手伝いなさい恭介! 治療するわ!」


 博孝の背中の負傷を見た沙織が、恭介の手を引いて博孝の背面に回る。みらいは治療系のES能力を覚えていないため、手が出すことができない。そのため、空から落下してくる木々が博孝達に命中しないよう、『固形化』で作った棒で弾き始めた。

 里香と沙織、そして恭介は三人がかりで『接合』を行い、博孝の背中の傷を治していく。


「まったく、こんな無茶をして……」


 博孝の傷を治しつつ、沙織が不満そうに言う。恭介も『接合』を行いつつ、その視線を博孝の後頭部に向けた。


「あ、博孝……後頭部の髪がちょっと……」

「ちょっとなんだよ!? 何が起きたんだよ!?」


 自分の後頭部を見ることはできず、博孝は焦ったような声を出す。まさか禿げたのか、と内心で恐怖するが、それを誤魔化すように周囲に視線を向けた。敵の姿がないといっても、油断はできない。


「ミサイルの着弾地点みたいになってるな……陸戦部隊の人が無事だと良いけど」


 地面が抉れ、木々が吹き飛び、山だった場所が平野になっている。博孝は『探知』を使って陸戦部隊の三人の『構成力』を探そうとするが、自爆の影響で周囲に薄い『構成力』が漂っており、上手く探ることができなかった。


(『盾』は消滅したけど、この威力なら……正規部隊の『ES能力者』なら、なんとか耐えきれるか?)


 途中までは『盾』で爆発の威力を減衰していたのだ。それを考えれば、陸戦部隊の人間も無事の可能性がある。少なくとも負傷はしているだろうが、全員が生きている可能性はゼロではない。

 言い聞かせるように思考した博孝はそう自分を納得させ。


 ――瞬きをした瞬間、博孝の目の前に見知らぬ男が立っていた。


「っ!?」


 驚愕を飲み込み、博孝の体は反射的に動く。自身の背面にいた三人と丁度地面に着地していたみらいをまとめて突き飛ばし――博孝に対して、見知らぬ男が右足を振るう。

 咄嗟に左腕を折り曲げ、『構成力』を込めて防御。だが、男の脚力は尋常のものではなく、博孝の左腕を圧し折りながら真横へと蹴り飛ばす。


「……え?」


 突然博孝に突き飛ばされ、その博孝の姿が消えたことに里香は呆然とした声を漏らした。


「博孝! この」


 真っ先に反応した沙織が大太刀を発現し、男へ斬りかかろうとする。だが、男は沙織が大太刀を振るうよりも早く間合いを詰めると、砲弾のような拳を叩きつけた。


「ガッ――」


 沙織の体が大きく吹き飛び、口から血を吐きながら地面へと落下する。博孝と沙織という、第一小隊が誇る主力二人が地に伏すまでにかかった時間は、僅かに三秒程度。

 里香と恭介は何が起きたのかを理解できず――みらいは、その感情を爆発させた。


「あああああああああぁぁっ!」


 博孝と沙織が倒れたことが引き金だったのか、莫大な『構成力』を発現しつつ『固形化』で生み出した棒を男へ叩きつける。加減も容赦もなく、生身の人間ならば掠るだけで四散しそうな一撃だった。


「……ふん」


 だが、男は動じない。『防壁』を発現してみらいが振るう棒を受け止め、直撃を許さなかった。

 男――ラプターは獣のような唸り声を上げるみらいに視線を向けると、その姿を上から下までゆっくりと眺め、感情を感じさせない声で呟く。


「“コレ”が乙号の完成体か。しかし、感情を発露させているな。設計思想にそんなものは含まれていなかったはずだが……興味深い」


 まるで、動物を観察する学者のような目だった。ラプターは我武者羅に棒を振るうみらいの手首を取ると、鳩尾に拳を叩きつけて意識を奪う。


「できれば持って帰りたいところだが……さて、どうしたものか」


 ラプターは意識を失ったみらいをしげしげと眺めると、思案するように言った。だが、その顔が横へと向けられる。横合いから複数の光弾が飛来するのを感じ取ったためだ。光弾はラプターが発現している『防殻』に命中すると、打ち破ることができずに空中に霧散する。


「ほう……意識を失っていなかったか」


 僅かに感心するような声を出し、ラプターは光弾を放った博孝に視線を向ける。


「て、めぇ……みらいを、物扱い……してんじゃねぇよ」


 ラプターの蹴りを受け、博孝の左腕は圧し折れていた。左腕は棒のように垂れ、僅かに動くだけでも激痛が走る。それでも瞳に戦意を乗せ、博孝はラプターを睨み付ける。

 博孝は折れた左腕を庇いつつ、必死に思考を巡らせた。

 一体いつ、どうやって目の前に立たれたのかわからない。僅かに緊張が抜けていたとはいえ、それでも周囲の警戒は怠っていなかった。だが、瞬きをした瞬間にラプターが目前に現れていたのだ。

 『探知』が上手く機能しなかったとはいえ、ラプターの『構成力』は非常に強大なものだった。その圧倒的な気配は、例え眠っていても気付いただろう。それだというのに、目の前まで接近を全く悟らせなかったその技量。博孝としては、絶句するしかない。

 眼前の男の技量は、博孝達訓練生とは比べられないほど高い。第七十一期訓練生の中では最も腕が立つ沙織でも、赤子の手を捻るように一撃で倒されてしまったのだ。博孝が倒れた沙織に少しだけ意識を向けると、沙織は体を痛みで震わせながらも立ち上がろうとしていた。ラプターもそれに気づいたのか、沙織に視線を向ける。


「こっちも意識を失っていなかったか。ああ、そういえば『武神』の孫だったな。訓練生にしては頑丈なわけだ」


 沙織も博孝と同様に、戦意を失っていない。全身に走る激痛を堪えながら、大太刀を構える。しかし、ダメージが深刻なのかその切っ先は大きく揺れていた。


(この『構成力』の規模……教官並、か。逆立ちしても勝てる相手じゃねえな)


 博孝はラプターから感じる『構成力』の規模を察して、絶望的な気分に陥る。

 こうなれば、勝つことは諦めて退くことに全力を注がなければならない。しかし、第一小隊の主力である博孝も沙織も、すでに満身創痍。みらいは気を失っており、恭介はラプターが放つ威圧感を前に震えを抑えきれず、里香も敵の技量を見て呆然としている。


(と、なるとだ……逃げるとしても、みんなが逃げられるぐらいの時間を稼ぐ必要があるか……)


 男は博孝の様子を興味深そうに見て、次いでその視線をみらいに移す。


「そういえば、コレはお前の妹ということになっていたか。人間に混じることで感情を獲得したのか……実に興味深いな。もう少し時間を置けば、更なる“変化”が見られるかもしれんな」


 そう言って、男は無造作にみらいを放り捨てる。博孝は物を扱うような態度に怒りを覚えるが、同時にみらいを手放したことに疑問を覚えた。


(さっきの男は、みらいが目的のような口振りだった……いや、でも、本当にそうか?)


 ナイフ使いの男は、里香の身柄の引き換えにみらいを差し出すよう言った。しかし、その時の様子を思い出して博孝は眉を寄せる。

 みらいを差し出せと言った割に、それを重視していたようは思えなかった。博孝に言われてようやく思い出したような口振りだった。

 ラプターは、相変わらず博孝を興味深そうに見ている。まるで実験動物を観察するような視線だが、みらいに対するものよりも熱が込められているように感じられた。


「名前はたしか……河原崎博孝だったか。“オリジナル”のESに適合し、僅か半年程度で独自技能を発現した個体だったな」


 言いつつ、ラプターは博孝に向かって歩き出す。それに合わせて、博孝は少しずつ後ろに下がった。

 ラプターは博孝を威嚇しているわけではない。だが、その身に纏う『構成力』の大きさが、博孝の足を勝手に後ろへと下げるのだ。

 それでも博孝は自分に喝を入れると、さらに下がろうとした足をその場に留める。そして『構成力』を振り絞り、『活性化』を行いつつ『射撃』で光弾を生み出した。その数は十を超え、二十にも届きそうである。しかし、博孝としてはラプターに対して豆鉄砲を向けているようにしか思えなかった。

 博孝は無言で光弾を発射。手加減をする余裕もなく、相手を殺すつもりで狙い撃つ。


 ――だが、ラプターは止まらない。


 『防壁』を発現し、飛来する光弾を気にも留めないように歩き続ける。頭を、心臓を、人体の急所と言われる場所を狙って飛来する光弾を、そよ風でも受けるかのように気に留めない。


「っ……ちく、しょうめ……」


 光弾を全弾撃ち尽くし、博孝は疲労から膝をつく。戦闘が始まって以来、何度も『活性化』を使ってきたのだ。通常のES能力を発現することは可能だが、これ以上『活性化』を使えば疲労で昏倒しかねなかった。

 ラプターは膝をついた博孝を見ると、自身が発現した『防壁』の様子を確認する。博孝の放った光弾は、その効果をほとんど発揮しなかった。僅かに『防壁』を削ったものの、打ち破るには至らない。


「こんなものか。もう少し力を見たいところだが……」


 実験結果を確かめるような口調で呟き、ラプターは周囲を見回す。そして、その視線を里香に向けた。


「“さっき”は必死に守っていたな――そこの娘を殺せば、さらに力を出せるか?」


 その言葉を聞いた瞬間、博孝と沙織は同時に地を蹴っていた。


「恭介! 里香とみらいを連れて逃げろ!」

「わたし達が足止めをするわ!」


 日頃一緒に訓練をしていた賜物か、博孝と沙織は即席ながらも息の合った動きでラプターへと攻撃を加える。沙織は大太刀を振りかぶり、博孝は再度発現した『射撃』を撃ち込みつつ一気に接近した。

 ラプターは、沙織の振るう大太刀を右手で受け止める。懐に飛び込んだ博孝が繰り出す掌底は左手で受け止め、微動だにしない。


「訓練生としては、中々。しかし――弱いな」


 大太刀を握り潰して沙織を殴り飛ばし、博孝には掌底を叩き込む。博孝は肋骨が折れる音が耳に届き、それでも、僅かに後退しただけで踏みとどまった。


「がっ……ぐ……き、恭介えええええぇっ!」


 喉からせり上がってくる血を飲み下し、咆哮し、再度ラプターに挑みかかる。その咆哮を受けた恭介は我に返ると、先ほど受けた指示を守るために気絶したみらいを抱き上げる。そして忘我した里香の手を引き、背を向けて駆け出した。

 それを見たラプターは、恭介の背中に指を向ける。指の周りに『構成力』が集まり、五つの光弾を放った。


「させない!」


 射線上に沙織が割り込み、再度発現した大太刀で光弾を弾く。しかし、五つ全てを弾くことはできない。それほどまでに弾速が早く、威力が高かった。

 沙織は光弾を二つ目まで弾き、三つ目で大太刀が半ばから折れて飛ぶ。四つ目、五つ目を弾く手段はない。


 ――それでも沙織はその身に盾にして光弾を受け、後ろには通さなかった。


「あっ……ぐ……」


 二発の光弾が『防殻』を貫通して着弾し、沙織の体から血が溢れ出る。膝から力が抜け、前のめりに倒れそうになる。


「沙織!?」


 体を張って光弾を止めた沙織を見て、博孝が悲鳴に近い声を上げた。それを聞いた沙織は瞳に力を取り戻すと、足を前に出して倒れることを拒む。


「だい……じょうぶ、よ」


 口元から溢れてくる血を乱雑に拭い、沙織は小さく笑う。博孝はそれに安堵するものの、沙織が受けた傷は重傷だった。戦闘行動を継続できるとは思えないほどに、ラプターの放った光弾は威力があったのだ。

 博孝は地を蹴って沙織の前に移動すると、ラプターを警戒しながら沙織に少しでも治療を施そうとする。だが、『接合』を発現しようとした途端、内臓に違和感を覚えて大きく咳き込んだ。ラプターに折られた肋骨が内臓を傷つけたのか、博孝の口からも血が溢れ出る。

 ラプターは追撃することもなく、博孝の様子を観察している。博孝がどんな行動に出るのか、どんな手を打つのかを待っているようだ。それを薄気味悪く思いつつ、博孝は背後に庇った沙織へ小声で問いかける。


「さ……沙織、まだ、動けるか?」

「全然……平気、だわ。あの男を、殴り飛ばせるぐらいには……元気よ」


 気丈に答える沙織だが、その顔色は悪い。ラプターから受けた光弾が重要な臓器を傷つけたのか、傷口だけでなく口元からも血が溢れ続けていた。それを見た博孝は、このままでは沙織の命が危険だと判断する。


「……沙織は」

「逃げろ、なんて言わないでよね」


 退却を指示しようとすると、沙織はそれを察してすぐさま断った。博孝が沙織の顔を見ると、沙織は激痛を堪えながら唇を尖らせる。


「仲間……なんでしょ? そう言えるようになって、まだそれほど時間は経ってない……でも、ここで逃げるようなら……」


 沙織は口内に溜まった血を吐き出すと、袖で口元を拭う。そして、痛みで頬を引き攣らせながらも微笑んでみせた。


「――わたしは、アンタの仲間だって自分に誇れないわ」


 迷いも何もかも、全てを振り切るように沙織は言う。それを聞いた博孝は、呆気に取られたように目を瞬かせた。沙織が浮かべていたのは、ここ最近になってようやく、少しだけ見慣れた笑顔。


「それに、さっきも言ったでしょ……あの男を、殴り飛ばせるぐらいの元気は……あるってね」


 体をふらつかせながらも、沙織は地面を踏みしめる。それを見た博孝はため息を吐き――それから、沙織と同じように笑う。


「そっか……そいつは奇遇だな。俺も、アイツを殴り飛ばせるぐらいの元気は残ってたんだ」


 残っていた全ての『構成力』を使い、『活性化』を発現。限界でも、底が見えても、全てを絞り尽くすように発現した『活性化』で、博孝は自身と沙織の肉体を強化する。『活性化』によって僅かに痛みが軽減し、博孝と沙織は隣り合って構えを取った。


「あーあ……折角里香の手料理が食べられると思ったんだけどなぁ」

「博孝だけで食べるのはずるいわ。それに……アイツを倒したら、好きなだけ食べられるでしょ?」


 沙織の言葉に、博孝は満足そうに笑う。里香と、沙織と、恭介と、みらいと。みんなで里香が作った料理を囲んで、楽しく話をしながら食べるのだ。


 ――それは、さぞ楽しいだろう。


 ラプターは博孝が瀕死の状態で『活性化』を発現したのを見て、興味の色を濃くする。『活性化』に回す『構成力』も、ほとんど尽きていたはずである。“その事実”に、口元を吊り上げた。

 沙織には、最早『武器化』を使って大太刀を発現する余裕がない。全身に走る激痛が集中力を乱し、『武器化』を発現できそうになかった。そのため、宣言通りに近づいて殴り飛ばそうと考えていた。

 博孝は『活性化』に使う『構成力』が底を尽いたものの、通常のES能力を使うための『構成力』は僅かに残っている。かといって、『射撃』では通じない。そのため、無意識の内に右手に『構成力』を集めていた。

 博孝がイメージするのは、かつて岩を貫いた砂原の姿。砂原が見せた、『収束』の姿。

あれほどの威力がなくてもいい。砂原ほどの強力なES能力は必要ない。ただ――ラプターの防御を貫ければ、それで良い。

 博孝と沙織は同時に地を蹴り、ラプターへと迫る。それを見たラプターは僅かに目を細め、『防壁』を展開。拳どころか、傍に寄ることさえ不可能にする。

 眼前に展開された『防壁』を見て、博孝は歯を食いしばった。こんなものがあっては、ラプターを殴り飛ばすことができない。それならば――。


「殴るのは……沙織に任せる!」


 『防殻』目がけ、『構成力』を集中させた右の掌底を叩きつける。ラプターの『防殻』を打ち破れば、自分は無理でも沙織の拳が届く。そう信じ、博孝は『防殻』の突破を試みる。

 だが、ラプターの発現した『防壁』は強固なものだった。博孝の掌底を受けても揺るがず、完全に攻撃を遮断している。

 どう足掻いても、力が足りない。今の博孝では、『防壁』を破ることができない。例え万全の状態でも、届きそうにない。


「お……おおおおおおおおおおおぉぉっ!」


 ならば、命を削ってでも届かせる。全て使い切ったはずの『構成力』が、弱まっていた薄緑色の光が、強く博孝を包む。

 博孝の掌底が僅かに『防壁』を歪ませ、力を込めるごとに前へ進む。それを見たラプターは、僅かに目を見開いた。

 『防壁』に阻まれた博孝の掌底が徐々に前に進み、軋ませ――最後には、突破する。『防壁』を引き裂き、白い光となって霧散させる。


「はああああああぁぁっ!」


 ならば、残りの仕事は沙織のものだ。博孝が打ち破った防御を抜け、拳を振りかぶってラプターの顔面目がけて拳を振るい。


「甘い」


 再度展開された『防壁』に、拳を阻まれた。沙織はその事実に思考を停止させ、ラプターはそんな沙織に指を向ける。


「お前は……“それほど”必要ないな」


 先程沙織を撃ち抜いた光弾が、空中に出現した。そして狙いを沙織の心臓に定め、躊躇なく放たれる。

 狙いは正確で、威力は絶大で、弾速は速い。一枚目の『防壁』を破った時点で力尽きた博孝は、沙織を庇って身を盾にすることもできない。

 避けることも、受けることも、弾くこともできない。沙織にも、そんな力は残されていなかった。


「――そこまでだ」


 静かな、それでいて怒りがこもった声が響く。同時に沙織を守るようにして『盾』が出現し、ラプターの放った光弾を受け止めた。


「ほう……」


 光弾を防ぎ切った『盾』を見て、ラプターは感心したような声を漏らす。視線を上空に向け、『盾』を発現した人物に視線を向けた。


「お前か……『穿孔』」

「…………」


 ラプターの声に、砂原は答えない。『収束』を発現し、激怒の感情を瞳に込めて、静かにラプターを見下ろしている。


「河原崎、長谷川を連れて下がっていろ」


 固い声色で砂原が言う。可能ならば『治癒』を行いたいところだが、ラプターを前にして砂原は一切の隙を見せることができなかった。僅かにでも博孝達に意識を向ければ、どうなるかわからない。


「っ……げほっ……り、了解です、教官」


 無茶をし過ぎたツケか、口から血が溢れた。それでも博孝は頷くと、砂原が到着したことで緊張の糸が途切れ、気を失ってしまった沙織を連れて距離を取ろうとする。


「あ……ぐ……」


 普段ならば容易く持ち上げられただろう沙織の体が、酷く重たい。博孝は限界以上に行使した『活性化』により、激しい疲労で今にも気を失いそうだった。もしも毎日みらいに対して『活性化』を発現し、疲労に慣れていなければ気を失っていただろう。だが、ここで気を失うのは危険だ。

 ラプターは砂原が牽制しているため動けないが、距離が近ければ戦いの余波だけで命を落とすかもしれない。

 博孝は傷口に触れないよう注意しながら沙織の左腕の下に頭を通し、右腕で沙織の体を保持しながら体を引きずるようにして距離を離していく。あまりの疲労に、今にも気を失ってしまいそうだ。博孝は折れた左腕と肋骨と、内臓の痛みで意識を保つと、ラプターから三十メートルほど距離を取る。


「あ……ぐぅ……くそっ、さ、沙織の傷を、どうにかしないと……」


 もっと距離を取りたいが、今は時間がない。距離を取る間にも、沙織の体からは血が流れ続けていた。ラプターを警戒しながらも沙織を地面に寝かせ、容態を確認。そして、博孝は大きく舌打ちした。

 ラプターの放った光弾は、沙織の心臓近くと脇腹に命中していた。脇腹はまだマシだが、心臓付近の傷がまずい。いくら『ES能力者』でも、これでは命に関わる。


(『活性化』……は、さすがに、無理か……)


 荒い呼吸をなんとか整え、博孝は通常の『接合』を発現。沙織の胸に穿たれた傷口に手を当て、少しでも傷口を塞ごうとする。

 博孝は『活性化』に使う『構成力』と通常のES能力に使う『構成力』、すなわち二種類の『構成力』を備えているが、『活性化』に使うための『構成力』は完全に枯渇。先ほど限界を超えて『活性化』を行使したため、これ以上は例え命を削っても発現できそうにない。

 通常のES能力に使うための『構成力』は――あと僅かで枯渇する程度にしか残っていなかった。

 『ES能力者』が死ぬ原因の一つに、『構成力』の枯渇がある。『構成力』の制御に失敗して莫大な『構成力』を爆発に変える暴走とは反対に、枯渇は全ての『構成力』が尽きる現象だ。

 『構成力』が尽きれば、『ES能力者』は死亡する。博孝は、その一歩手前まで足を踏み入れていた。


「それ……でも……」


 まだいける。まだ自分の『構成力』は底を尽かない。沙織の傷を塞ぐ程度には残っている。

 自分にそう言い聞かせ、博孝は『接合』を続けた。


「『穿孔』の砂原。“天治会(てんじかい)”でも要注意人物リストのトップに載っていたな。教官になったと聞いたが、何の冗談かと笑ったものだぞ」


 ラプターは『飛行』を発現して、砂原と同じ高さまで上昇する。砂原はラプターと視線を合わせると、吐き捨てるように呟く。


「天治会……あのテロリスト共か。貴様は?」

「大した者ではないが……ラプターと呼ばれている」


 天治会、と呼ばれる組織がある。それは『ES能力者』による国際的な犯罪者集団であり、各国でも指名手配されているような人間が集まる組織だ。主に要人の暗殺や誘拐、依頼による『ES能力者』の殺害などを行っている。

 『ES能力者』は特別な存在であり、国によって管理されることを拒み、普通の人間は『ES能力者』によって支配されるべきだと標榜している国際犯罪組織だ。その構成員の数は不明であり、各国にシンパが存在するという大規模な犯罪者集団である。


 ――だが、今の砂原にとってそんなものは関係ない。


 砂原は無表情でラプターを見据えると、凍えるような声で宣言した。


「多くは語らん。教え子が受けた痛みを、万倍にして返す。楽には殺さん」


 そう言うなり、『収束』によって砂原の体を覆っていた『構成力』が大きく揺らぐ。砂原の怒りを表すように空気を震わせ、空間が軋みを上げる。

 それを見たラプターは、口の端を僅かに吊り上げた。


「良いのか? 俺としてもお前と戦うのは(やぶさ)かではない……が、戦っている間に下の二人は死ぬぞ? 『武神』の孫は失血死、河原崎博孝は『構成力』の枯渇で死ぬ。あと数分も持つまい」


 その言葉に、激情に支配されていた砂原の脳裏に冷静な思考が過ぎる。

 ラプターの言う通り、このままでは博孝も沙織も死ぬ。博孝は意識を保って沙織の治療を行っているが、身に纏う『構成力』が非常に希薄だった。しかし、発現している『接合』の力は弱く、このままでは沙織の方が先に息絶えるだろう。博孝も、『構成力』を枯渇させて死亡する。

 砂原とラプターの『構成力』の規模は、ほぼ互角。だが、砂原はラプターの戦い方を知らないが、ラプターは『穿孔』の名前を知っている。つまり、砂原の持つ『収束』についても熟知しているだろう。

 それでも、ラプターを仕留めることは可能だと砂原は思った。砂原も無事では済まないだろうが、“本気”で戦えば打倒し得る――その代わりに、非常に多くの時間を失うこととなるが。

 “教官”としての思考が、砂原の思考を冷静にさせる。教え子を思う心が、目の前の敵を倒すことよりも大事なことがあると告げる。だが、このままラプターが砂原達を見逃すか。

 そんな砂原の懸念に気付いたのか、ラプターは砂原から僅かに距離を取った。


「俺の“任務”は達成している。戦わないのなら、これで退こう」

「任務だと? 貴様、何を企んでいる」


 放たれた言葉に疑問を覚え、砂原は僅かに身構える。それを見たラプターは、僅かに肩を竦める。


「それは秘密というものだ。なに、今日は良いものが見られた。“どれ”も“予想以上”だった」


 そんな、砂原には理解できない呟き。それだけを残して、ラプターの姿がその場から消える。『瞬速』を使った離脱だが、その動き目で追っていた砂原は舌打ちをした。


「……敵ながら、見事な逃げ足だ。『構成力』も完全に隠したな……くそったれめ」


 最後に口汚く罵り、砂原は博孝と沙織のもとへと舞い降りる。

 敵は去ったが、これからやるべきことが多くあるのだ。砂原は先ほどまで対峙していたラプターの姿を思い出し、すぐさま振り払う。


「――この借りは必ず返すぞ」


 その言葉と共に激情を全て飲み込み、砂原は博孝と沙織の治療に移るのだった。

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