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平和の守護者(書籍版タイトル:創世のエブリオット・シード)  作者: 池崎数也


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閑話:未だ知らぬ、その感情の名は その2

 その感情が一体何なのか、みらいには理解できなかった。


 “それ”は今まででも覚えることがあった感情だったが、その頻度の少なさから深く考えることはなかった。

 これまでにあったとしても、それは針で胸を突かれたようなチクリとした痛み。それが今では奇妙なほどに暴れる鼓動と共に、ズキズキとした痛みを明確に伝えてくる。


 ――胸が痛い、どうしようもないほどに。


 その痛みは戦闘における負傷とは別物で、得体の知れない気持ち悪さを伴っている。心臓が締め付けられるようで、胃の中で何かが暴れているようで、ただただ不快な衝動が全身へと広がっていく。

 その感情は、断じて喜びによるものではない。怒りに似ていて、哀しさにも似ていて、楽しさとは無縁だ。


 みらいが自覚する喜怒哀楽の情にしっかりと当てはまることはなく、“何か”が致命的にズレている。


 それが何なのか、みらいにはわからない。明確に言葉にすることはできない。だが、その感情に名前が与えられるとすれば、それは――。








「…………」


 その時、美鈴は自然と息を殺していた。


 “お邪魔虫”が席を離れ、敬愛する姉と共に会話を楽しんでいたというのに、今はこの場所から逃げ出したくてたまらなかった。


「……お、お姉様?」


 それでも逃げ出さずに声を出すことができたのは、相手がみらいだからだろう。美鈴は恐る恐る声をかけるが、みらいからの返答はなかった。


「むー……」


 何が不満なのか、リスのように頬を膨らませるみらい。その外見の幼さも相まってやたらと似合っているが、美鈴からすればみらいの放つ気配が恐ろしかった。


 愛らしくも可愛らしい――が、妙に怖い。


 みらいはそれまでは機嫌良く恭介に甘え、恭介が席を立った直後も楽しそうに食事を取っていた。美鈴もみらいに構ってもらえて嬉しかったのだが、突如としてみらいの機嫌が急降下したのである。


(え? なに? なんで? 助けてお兄様!)


 思わぬみらいの反応に、美鈴は心中で博孝へ助けを求めた。しかしながら、その願いに博孝が応えることはない。上官、先達、陸海空軍の将官、さらには政治家と官僚に囲まれ、喧々諤々の会議に飛び込んでいる最中なのだ。


(武倉少尉が何かしたんでしょうか……)


 頬を膨らませたみらいの視線の先。そこには携帯電話を片手に喋る恭介の姿があったが、何もおかしな点はない。

 『ES能力者』の聴力を以ってすれば何を話しているか聞くこともできるが、他人の電話を盗み聞きする趣味など美鈴にはなかった。


 それでも恭介の様子を見ていると、何やら穏やかに笑っているのが確認できた。それは美鈴にとって大切な男性――兄である博孝が沙織(こいびと)に向ける笑顔に似てもいる。


(そういえば歌手の女性と親しいとか……その上でお姉様に手を出したら燃やしますけどね!)


 みらいに怒られるため言葉には出さないが、“もしも”恭介がみらいを口説くなりなんなりすれば自分を抑えきれる自信がない美鈴である。


 紆余曲折があったものの、みらいはこの世でただ一人の姉だ。遺伝子上の親も存在するのかもしれないが、美鈴にとって姉とはみらいを指し、兄とは博孝を指し、そして両親は博子や孝則を指す。

 これまでの環境が環境だけに、美鈴が家族に向ける情は強い。そこには、色々と無防備なみらいを心配する気持ちも多分に存在する。

 戦闘面だけに限れば、美鈴に守られるほどみらいは弱くない。むしろ美鈴よりも強いぐらいであり、心配する必要はないだろう。


 だが、短い期間ながらもみらいと家族として過ごしてきた美鈴からすれば、みらいには色々と危険な面がある。

 美鈴も他人のことをとやかく言えるわけではないが、みらいには色々と欠けていた。“それ”は常識と言っても良いし、あるいは羞恥心や倫理観と言い換えても良い。無論それらの情動が皆無とは言わないが、同年代の子供と比べて相応に備わっているとは言い難かった。


 生まれが特殊な上に『天治会』の中で育った美鈴に常識がないと言われても、みらいとしては心外だろうが。


(武倉少尉へのお姉様の態度……お兄様は例外としても、他の男性に向けるものとは違う気がします)


 それでも、みらいの行動に対して“女として”引っかかるものを美鈴は感じていた。みらい本人に自覚はなさそうだが、特別な意識を抱いているようにしか思えなかったのである。

 色々と噛み付きはしたが、美鈴としても別段恭介のことを嫌っているわけではない。姉であるみらいがベタベタと甘えることが嫌なのであり、恭介個人に含むところはなかった。


 兄である博孝の親友で、かつて殺しかけたというのに悪意を向けてくることもなく、失礼な言動をしても笑って受け流す度量がある。

 『ES能力者』として見ても、二対一という状況ながらもあのラプターを倒せるだけの技量を持っているのだ。同年代の『ES能力者』の中ではトップクラスであり、日本の『ES能力者』全体で見ても高いレベルに在ると言えるだろう。


 客観的に見れば、恭介はすこぶる優良物件だ。


 『ES能力者』の常で年齢よりも遥かに若い顔立ちは、激戦を潜り抜けたことで精悍さを備えている。少々砕けすぎな性格をしているが、気軽に接することができると思えばマイナスではなくプラス要素と言えた。

 『ES能力者』として凄腕で、性格も容姿も悪くなく、みらいの出自を知っていても何も隔意を抱かない。博孝達が傍にいないからとはいえ、みらいが容赦なく甘えても笑って受け止めている。


 なるほど、みらいが何かしら特別な想いを抱いてもおかしくはない――が、それはそれ、これはこれである。


 現状から色々と察した美鈴だったが、それまでの思考の放棄するように感情だけで断じた。


 もしもこの場に博孝や里香がいれば、大好きな姉を取られまいとする妹のワガママとして微笑ましく思っていたことだろう。沙織辺りは『それなら殴り合いでケリをつけなさい』と真顔で告げていたかもしれない。

 美鈴の嫉妬が行き過ぎて恭介に襲い掛かるようならば容赦なく鎮圧するが、美鈴がみらいに対して色々と欠けていると思ったように、周囲から見れば美鈴もまた色々と欠けているのだ。


 みらいに対して配慮する美鈴だが、周囲から配慮されていることに気付いていない。それはみらいと同様に人生経験が欠けているからだ。

 表面はともかく、内心で百面相する美鈴。そんな美鈴の葛藤に気付いた様子もなく、みらいは不満そうな顔でじっと恭介を見詰めた。


 電話の相手が優花だということは、漏れ聞こえる会話から察することができる。どんな会話をしているかも、『ES能力者』の聴覚を以ってすれば容易に聞き取れた。

 優花と話す恭介は楽しそうで、恭介と話す優花の声も楽しげに弾んでいた。離れていてもその楽しさ、嬉しさが伝わってくる。恭介と優花は互いに言葉を交わし、笑い合えることを心の底から喜んでいる。


 楽しいのは良いことだ――とみらいは思った。


 痛いこと、悲しいこと、辛いことよりも余程良い。楽しくて嬉しくて、笑顔になれることの方が尊いのだとみらいは知っている。


 兄である博孝が己を省みずに切り拓き、ようやく訪れた平和な時間。犠牲の上に成り立った平和ながらも、『星外者』が暗躍していた頃と比べれば多くの笑顔で溢れているだろう。

 故に、恭介と優花が楽しげに話していることも平和の証明なのだ。みらいにとって友達である優花と、博孝に次いで近しい男性である恭介が笑い合っていることは、とても良いことなのだ。


 良いことの、はずなのだ。


(これ……なに?)


 戦闘に因る負傷とは別種の、締め付けるような胸の痛みがみらいの思考を乱す。これまでの戦歴で様々な怪我を負ってきたが、これほど重く、不快な痛みは感じたことがない。


(これがびょーきなのかも……)


 宇喜多や里香に師事しているみらいは治療系ES能力だけではなく、人体の構造や負傷、病気の種類、さらにはES能力を使用しない場合の治療方法に関しても学んでいる。

 それはあくまで知識だけであり、治療を実践するのは不可能だが、今の自分が平常と異なる状態なのは確かだった。


 『ES能力者』が病気になることはほとんどなく、みらいも風邪にすら罹ったことがない。そのため己の状態を冷静に見極め、今の状態が何かしらの病気なのではないかと推察したのである。

 あとで里香に相談してみよう。そんなことを考えつつ、優花と電話越しに話す恭介をみらいは注視し続けた。


「むー……」


 頬を膨らませたままでいると、その視線に気付いた恭介がみらいに視線を向ける。そしてみらいの表情を見るなり驚いたような顔をした。


 ――その驚いたような顔も、何故か気に入らなかった。


 みらいは無言で席を立つと、朝食が乗ったトレーを持って恭介の元へと歩み寄る。コツコツと規則正しい足音が響く度に美鈴が顔を引きつらせていたが、それをみらいが気にする余裕はなかった。


「えーっと……みらいちゃん?」


 頬を膨らませながら近づいてきたみらいに、さすがの恭介も何かおかしいと首を傾げる。みらいはそんな恭介の困惑に何も告げず、両手で持っていた朝食のトレーをテーブルに置くと、恭介の背後へと回った。

 そして、何を思ったのか恭介へと抱き付いたのである。そして背中をよじ登り、まるでコアラのように恭介の背中にしがみ付いたのだ。傍から見れば恭介がおんぶをしているようにも見えたが、その実態はみらいが自力でしがみ付いているだけである。


「いぃっ!? ちょっ、みらいちゃん!? なんっすか!?」


 みらいの行動に対し、さすがの恭介も焦ったように声を上げた。たしかにみらいは親しい相手に甘えることがあるが、電話の邪魔をするようなことはしない。そのぐらいの常識は身に付けている――はず、なのだが。


 恭介は咄嗟に美鈴の方へと視線を向けた。みらいの行動が理解できなかったが、下手すれば美鈴が襲い掛かってきそうな構図である。恭介はそれを警戒したものの、美鈴も恭介と同じように困惑しているようだった。


『みらいちゃん? 恭介、みらいちゃんがどうかしたの?』

「えっ!? あ、いやー……」


 恭介の声が聞こえたのか、電話越しに優花が不思議そうな声で質問を投げかける。優花にとってみらいは自分のファンであり、年下の可愛い友人なのだ。みらいに何かあったのかと心配に思ってしまう。


 そんな優花の疑問に対し、恭介はどう返答したものかと迷ってしまった。


 みらいが突然抱き着き、背中を登ってきている――そんなことを言っても優花も困惑するだけだろう。恭介自身も困惑している。なんだソレ、と呟きそうになる。


(俺、何かしたっけ……ってみらいちゃんの髪の毛がくすぐってぇ!?)


 何を思ったのか、恭介の背中にしがみ付いたみらいは恭介の左肩に顎を乗せた。その際にみらいの髪が首筋を撫で、恭介は内心だけで悲鳴を上げる。


「んふー……」


 耳元にみらいの満足そうな声が響く。何がしたかったのか恭介にはわからなかったが、みらいはひとまず満足したらしかった。


『恭介? みらいちゃんの声がすごく近くに聞こえるんだけど……何をしてるの?』


 みらいの奇行が止まったことに安堵した瞬間、今度は優花から訝しげな声が飛んできた。今しがたのみらいの声が優花にも聞こえたらしい。


「えーっと……お、おんぶ?」

『……なんで?』


 ――いや、なんでだろう? 


 そう言いたいのを堪えつつ、恭介は苦笑を浮かべた。


「詳しい事情は話せないっすけど、博孝とか岡島さんが外出してるんすよ。それで甘える相手がいないから俺に甘えてきてるんじゃないかなーと……」

『ふーん……』


 納得したのか、していないのか。優花もみらいのことを可愛がっているため、妙な誤解はしないはずだが――。


「きょーすけ、もういっかい!」

『恭介? 何がもう一回なの? みらいちゃんに何をしてるの?』


(なんか滅茶苦茶誤解されてるっ!?)


 僅かに低くなった優花の声色に、恭介の額から冷や汗が噴き出た。恭介としては(やま)しいことなど何もしてないと断言できる。だが、それが他者からどう見えるかは話が別なのだ。


(やべえ……そういえば優花ちゃんはみらいちゃんの“事情”は知らないんだった……)


 みらいが人工の『ES能力者』であり、実年齢と外見年齢に大きな差があることを知っている者は少ない。

 外見は十歳前後、書類上では既に十八歳。しかし実年齢は“生まれて”五年程度と非常にチグハグなのだ。


 余談ではあるが美鈴は外見だけで判断すると十八歳前後、書類上の年齢は十七歳とほぼ一致している。実年齢に関してはみらい同様大きなズレがあるが、みらいほどの誤解は受けていない。


 つまり、優花からすればみらいは年下の友人で、博孝の妹で、やたらと幼く見えるがれっきとした“女性”なのだ。みらいに何か事情があることを察してはいるが、憎からず想っている男性に自分以外の女性が抱き着いているという事実に機嫌が急降下していく。


 一方、恭介は自分が置かれた状況を把握して冷や汗の量を増やしていた。


 みらいに関して詳しく説明するわけにはいかない。いくら優花が相手とはいえ、こればかりは話すことができない。それでも優花が相手では下手な誤魔化しが通じるとは思えず、恭介は途方に暮れてしまった。

 天地神明に誓って疚しいことなどしていない。誓う相手に不満があるなら大恩がある砂原に誓っても良いと恭介は思った。自分はただ、甘えられるがままみらいに『あーん』をしただけなのだ。何も疚しいことはしていないのだ。


「あの、優花ちゃん? 俺と優花ちゃんの間には深刻な意見の相違が存在しているのだと愚考する次第でありまして……」

『ほほう、それならあなたの見解を聞きましょうか?』


 優花の口調はどこか刺々しいが、もしかすると優花は自分に嫉妬の感情を向けているのだろう。そう考えると恭介は口元が緩みそうになる。やきもちを焼いてくれていると思えば、それもまた可愛らしく思えてしまった。


「今日は博孝も岡島さんもいません。甘える相手としては不適当かもしれないけど沙織っちもいません。まずはここまでで何か疑問はありますでしょうか?」

『ないわ』


 ただし、可愛く思えても恭介の冷や汗は止まらない。思わず敬語で話してしまうぐらいには怖かった。


「それでですね、ボクは食堂でコーヒーを飲んでたんですよ。そうしたらそこにみらいちゃんと美鈴ちゃんが来たんです。だから一緒の席になったんですけど」

『美鈴ちゃん?』

「博孝とみらいちゃんの妹ですはい! 妹だけどみらいちゃんよりも大人っぽい美人であだだだだだっ!? みらいちゃん!? なんで足を締め付けてってマジでいてぇっ!?」


 恭介の脇腹に絡めてあったみらいの両足がじわじわと締まり、恭介は悲鳴を上げる。このままだと胴体が千切れそうだ。思わず携帯電話を手から落としてしまうぐらいには痛かった。

 そんな恭介とみらいの姿に何を思ったのか、席を立った美鈴が携帯電話を拾って耳に当てる。


「はぁ……もしもし? 話に出た河原崎美鈴です。お姉様のご友人の方でしょうか?」

『神楽坂優花です……みらいちゃんが低い声を出してるってオチはないよね?』


 このままでは埒が明かないと判断して話しかけた美鈴に対し、優花は怪訝そうな声を返した。電話越しのため顔は見えないが、少なくとも声はみらいに似ていると思ったのだ。それこそみらいが成長して落ち着けばこのような声になるだろう、と優花は思った。


「そんな……お姉様に似ているだなんてっ! ありがとうございます!」


 ――あ、この子みらいちゃんじゃないや。


 努めて冷静に優花は悟った。声は似ているがリアクションが明らかに違う。声はみらいに似ていて、リアクションは博孝に似ていると優花は思った。


『声はみらいちゃんに似てるのに、反応は河原崎君に似てる……反応に困るなぁ』

「お兄様にも似ているとっ! 嬉しいですわ!」


 実はボイスチェンジャーを使った博孝と話しているのではないか。そう考えてしまった自分自身に優花は絶望したい気分になった。さすがにそれは嫌すぎるのである。


『えーっと、美鈴さん? 話を戻すけど、恭介はみらいちゃんに何をしたの? 場合によっては河原崎君か里香ちゃんに通報するけど……』

「そこでお兄様と一緒に里香さんの名前が出てくるのが怖いんですが……色々省いて説明しますけど、お姉様が朝食を食べさせてほしいと甘えて、武倉少尉がそれに応えてお姉様に『あーん』をしたんです。それでお姉様がもう一度やってほしいと」


 恭介に対して色々と思うところはあるが、美鈴としてはわざと悪評を広めるつもりもない。そのため極めて端的に、事実だけを優花に伝えた。


『…………ふぅん』


 納得しているような、していないような。そんな響きが込められた優花の声に対し、美鈴は深々とため息を吐いた。そしてみらいを下ろそうとしている恭介と、恭介にしがみ付いたまま離れそうにないみらいに視線を向け、さり気なく距離を取って声を潜める。


「わたしも言いたいことは色々とあります……とりあえず優花さん、あなたは武倉少尉をしっかりと捕まえておいてください。それで“問題”は片付くはずです。お姉様はその……甘えているだけだと思いますし」

『ヒュフォッ!? な、なな何を!?』


 美鈴の発言にアイドルが出してはいけない声を出す優花。そんな優花の反応を受けた美鈴のため息は深くなるばかりだ。


「そういうのはいいですから……ほとんどあなたを知らないわたしでも、武倉少尉との会話を聞けば大体わかりますから……わたしはお姉様をどうにかするので、そちらは武倉少尉をどうにかしてくださいね?」


 それだけを言い残し、美鈴はみらいを剥がそうとしている恭介に携帯電話を投げ渡す。そして姉に嫌われないかと内心だけでビクビクしつつ、腕まくりをするのだった。


「色々と言いたいことはありますけど……はしたないですよお姉様! スカートだったら下着全開じゃないですか! お兄様も怒るより先に嘆きますよ!」








「なるほど……わたし達がいない間にそんなことがあったのね」

「みらいちゃん……」


 その日の夜、美鈴はみらいと共に里香の部屋を訪れていた。そして朝に起きた騒動について話をすると里香は苦笑し、何故か里香の部屋に押しかけていた沙織が腕組みをして頷く。


「ぷー……」


 みらいはと言えば、不満そうに頬を膨らませていた。無理矢理恭介から引き剥がしたことで拗ねてしまったのだ。そんなみらいの反応を見た里香は苦笑を深めたが、沙織は何故か真顔だった。

 そして当のみらいはといえば、何故自分がここまで機嫌が悪くなっているのか理解していない。ただ“なんとなく”、怒りたくなるのだ。


「博孝君にこのことは……」

「話してませんわ。お兄様は忙しい身の上ですし、話したらどんな反応をするかわからないので……ひとまず里香さんならお姉様も話を聞くのではないかと」


 相談されるのは嬉しいものの、里香としても対応に困る話だった。みらいが恭介に対してどんな感情を抱いているのか予想はできたが、それをみらいに伝えた場合どうなるのかわからない。


 里香としてはみらいも成長したのだと喜ぶ気持ちが強い。しかし、その相手が恭介となるとこのまま正直に伝えて良いものか迷ってしまう。


 恭介が優花と“良い仲”であることは一目瞭然だ。そうなると、みらいの想いが成就することはないだろう。しっかりと自覚していない内にそれとなく誘導し、傷つかないよう配慮するのも手だ。

 みらいは自分の感情を自覚していない。美鈴はみらいが恭介に抱いている感情を理解したくない。そして里香はみらいが傷つかないよう事態をコントロールするべきだと思い。


「――みらい、“それ”は嫉妬よ」


 真剣な表情を浮かべた沙織が、迷いなくそう断じていた。












どうも、池崎数也です。

お久しぶりです。約一ヶ月ぶりの更新です。


気付けば本編完結から十ヶ月近く経っていました。そして、本編完結から評価ポイントが1万近く伸びていることに気付いてビックリしました。

完結してから新たに読み始めた、最初からまた読んでいるという感想も多々いただき、作者としては非常に嬉しく思っています。

ただ、後日談はまだ続きますが、これからはさらに不定期になりそうです。次回作をスタートしますので、その息抜きとして書ければと思っています。


次回作については以下で少し触れます。




活動報告にて記載していた通り次回作をスタートしたいと思います。


タイトルは『世知辛異世界転生記』です。


タイトルの通り、転生したものの世知辛い異世界で生きていく羽目になる主人公の話です。

ジャンルとしては異世界転生モノで剣と魔法のファンタジーで、主人公はチートな能力(作者基準)を持っていて、ハーレム(だといいなぁ)な感じです。


活動報告で事前にお知らせしたら、ハーレム=おっさんがいっぱいというコメントが多かったです。間違っていないのが悔しいです。悔しかったので女の子を増やせるよう頑張りたいと思います。


それでは、もしよろしければ次回作の方もご覧になっていただけると幸いに思います。


気に入ったら評価ポイントやご感想をいただけると非常に嬉しいです。

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