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平和の守護者(書籍版タイトル:創世のエブリオット・シード)  作者: 池崎数也


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閑話:己の道

 ――『構成力』。


 それは文字通り『ES能力者』を構成する力である。『構成力』の多寡が身体能力や発現したES能力に影響し、『構成力』が大きい者はそれだけで『ES能力者』として大きなアドバンテージを得る。


 日本の『ES能力者』の中で最も大きい『構成力』を持つ者といえば、『暴力医師』と恐れられる宇喜多の名前が最初に挙げられるだろう。

 『武神』と讃えられる源次郎さえも凌ぎ、『支援型』でありながら接近戦を好んで“行える”のも『構成力』莫大な『構成力』があるからこそである。治療系ES能力の扱いにも長けているのだが、宇喜多と相対した者のほとんどは理不尽な“暴力”に直面するのだ。


 『支援型』は直接戦闘が苦手で、接近さえすればどうにかなる。そんな考えを抱いて近づき、防御ごと殴り飛ばされるのは喜劇で悲劇だ。


 もっとも、『構成力』が少なくとも技術で補うことはある程度可能である。『構成力』の量は才能に因るところが大きいが訓練によって伸ばすこともできるため、なるべく『構成力』を増やしながら技術を磨くというのが一般的な『ES能力者』の在り方だ。


 ――では、莫大な『構成力』を持ちながらもソレが激減すればどうなるだろうか?







「…………」


 自然体に立ち、目を瞑ったままで己の内側に意識を向ける。静かに呼吸を整え、『構成力』を発現させていく――が、その発現規模は以前と比べてあまりにも頼りない。

 砂原はゆっくりと目を開け、深呼吸を繰り返す。しかし感じ取れる『構成力』が変わることはなく、『構成力』の発現を止めた。


 『星外者』との戦いから二ヶ月が過ぎ、即応部隊も解隊されたその数日後。砂原は源次郎に頼んで部隊への配属を延期し、“リハビリ”に励んでいた。


 『星外者』と交戦し、ラプターに心臓を破壊されたのが原因なのだろう。砂原は以前ほどの『構成力』を持たず、精々並の陸戦部隊員に比肩するかどうか、という程度の『構成力』しか残っていないのだ。出来の良い新兵ならば今の砂原よりも大きな『構成力』を持っているほどである。

 里香の懸命の治療と博孝の『活性化』によって一命を取り留め、肉体的に復調してそれほど時間が経っていない。それを考えれば『構成力』の一時的な減少とも考えられる。


 だが、これまで数えきれない死線を乗り越え、何度も死に掛けてきた砂原は己の状態を正確に把握していた。一時的に『構成力』が減少しているのではなく、『構成力』の“上限”が著しく低下していることを。

 それまで砂原が保有していた『構成力』の量を百とすれば、今は十にも届かないだろう。『飛行』を発現して飛ぶことはできても、戦闘行動に入れば即座に『飛行』に回す分の『構成力』が足りなくなる有様だ。


 『飛行』と併用していては『防殻』の維持すら危うく、仮に『防殻』を発現できてもその強度は薄紙のようなものである。思うがままにES能力を発現できていた頃と比べれば、現状はとても窮屈で不自由だ。

 『穿孔』とあだ名され、砂原の代名詞ともなっている『収束』の発現も困難である。以前のように全身に発現することなど叶わず、『防殻』に回す『構成力』すら投入してようやく右手だけに発現ができるような有様だった。


 かつての己の力を思い返すと、歯痒さを覚える。


 かつての自由自在に飛び回れた感覚が、地に這う違和感を伝えてくる。


 しかし、砂原は後悔など微塵もしていなかった。


 本来、心臓を破壊された時点で砂原は死んでいただろう。回数が少ないとはいえ『活性化』を受けていたからか、あるいは砂原も『ES能力者』として外れつつあったからか、心臓を破壊されても即死することはなかった。

 そのため博孝や里香の尽力によって生き延びることができ、今もこうして復帰に向けて訓練に励むことができる。『ES能力者』として戦う以上はいつか戦いに敗れて力尽きると思っていたが、こうして生きているのだ。文句を言うのは罰が当たるだろう。


 そしてそれ以上に、己の教え子の成長を目の当たりした喜びが遥かに勝る。己では完全に倒しきることができなかった『星外者』を倒し、平和をもたらした教え子達のことを誇らしく思う気持ちが大きいのだ。


 『収束活性化』を発現し、清香を倒した博孝。


 そんな博孝と共に最後まで戦い抜き、博孝が清香を倒す道筋を生み出した沙織。


 柳と協力したとはいえ、砂原が敗れたラプターを倒した恭介。


 かつては暴走させていた己の力を制御し、妹を単独で救ったみらい。


 直接戦闘で活躍することはほとんどなかったが、指揮や負傷者の治療で八面六臂の活躍を見せ、さらには清香を倒す一助となった里香。


 他にも多くの教え子、部下がいるが、その誰もが力を尽くしたのだ。勝利の結果もそうだが、その姿勢こそが砂原は嬉しかった。


 教え子達、かつての部下達は即応部隊の解隊に伴ってそれぞれの道を歩き始めている。博孝を始めとした対『星外者』戦で主力を担った者は源次郎や『零戦』の中隊長達に師事し、今後ますますその技量を伸ばしていくだろう。

 訓練校時代のように教え、導くことなど最早できない。砂原の状態もそうだが、博孝達は既に己の道を歩き始めているのだ。即応部隊の解隊もそうだが、自身の負傷もある意味で“巣立ち”の切っ掛けになったのかもしれない。


 かつての部下達と異なり、よちよち歩きどころか卵に入ったままの状態で出会った教え子達。その殻を破り、歩き方を教え、走り方を教え、戦うことを教え、中には空を飛ぶことまで教えた。

 そんな教え子が『穿孔』と呼ばれた身でも倒しきれなかった『星外者』を倒し、『天治会』を滅ぼし、一時的なものとはいえ平和な世界を作る先駆けとなったのだ。


 ――それが嬉しく、誇らしい。


「ふむ……そうなると俺も負けてはいられんな」


 たしかに『構成力』は激減した。だが、それならばまた増やせば良いのだ。長く、地道な訓練が続くだろうが、それは砂原にとって得意なことである。

 なにせ十年近い歳月をかけて『収束』を編み出したのだ。元の『構成力』を取り戻せるかわからず、取り戻せるとしてもかなりの年月を必要とするだろうが、基礎から鍛え直すには良い機会とも言える。


 『ES能力者』になって既に四十年近い年月を生きてきた。『構成力』のほとんどを失ったとしても、これまで培ってきた技術や経験まで失ったわけではない。それらの要素を加えて鍛え直せば、以前ほどの『構成力』がなくとも以前よりも強くなれるはずだ。


 体術、『構成力』の操作技術、ES能力の発現速度。さらには戦術や戦略面など、磨こうと思えばいくらでも磨くことができる。

 指揮官としても『構成力』が少ない『ES能力者』の立場に立ち、これまでの様々な経験と照らし合わせて有用な戦訓をまとめることもできるだろう。『構成力』が少なくとも有効な戦術の考案や、実戦において避けるべきことを洗い出すこともできる。

 部隊長や小隊長などの人を率いる立場ではなく、『構成力』や経験、技術が乏しい“他人に率いられる”者達の力を全体的に引き上げることも可能なはずだ。


 『構成力』が激減したことだけに囚われず、これから何ができるかを考えると砂原の身の内にも沸き立つものがあった。

 清香達を倒すことはできたが、『星外者』は再び地球に現れるだろう。博孝達はそれに対抗するべく腕を磨いているが、砂原は力が弱い『ES能力者』の底上げを図るための方策を生み出そうと決意する。


 清香の能力も原因だが、『星外者』との戦いでは多くの『ES能力者』が命を落とした。その中にはほんの僅かに力が及ばず、倒れてしまった者達もいるはずである。

 しかし、再び訪れるであろう『星外者』との戦いで、倒れるはずだった者が苦難を乗り越えるだけの力を得られれば――。


「……探せばいくらでもやるべきことが見つかるな」


 自らを鍛え直しつつ、陸戦部隊で任務をこなして実戦経験を磨きつつ、更には力が乏しい者達の一助となれるよう様々な提言を行う。

 やろうと思えばいくらでもやれることがあるのだ。そうである以上は立ち止まってなどおられず、また、立ち止まる気になれない理由も存在する。


 砂原が“リハビリ”に使用しているのは、日本ES戦闘部隊監督部が所有する訓練施設だ。普段ならば首都を防衛する部隊の詰所兼訓練場としても使用されているが、先の戦い以来各部隊の再編が進められている関係もあって利用者が途絶えているのである。

 そのため砂原だけの貸切に近い状態だったが、その訓練場に向かって複数の『構成力』を発する存在が飛来してくる。


「お疲れ様です教官。今日も自主訓練に使わせてもらうために来ました」


 そして訓練用のグラウンドに着地するなりそんなことを言い出す人物――博孝に対して砂原は苦笑を向けた。


「藤堂大佐達にも扱かれているだろうに……あまり根を詰め過ぎても良い結果にはつながらんぞ?」

「今は少しでも早く強くなりたいっすから。あと、最近マスコミに追っかけ回されてるんで、民間人が入れない場所がありがたいっす……」

「むー……きょーすけ、じごーじとく」


 博孝に続き、地面へ降り立った恭介がどこか疲れた様子で応える。それを聞いたみらいは頬を膨らませて恭介の腰元を叩いているが、あくまで抗議のためであり威力は控えめだ。


「ある程度広さが必要なんです。博孝と全力で戦うとなると、グラウンドぐらいの広さがないと周囲に被害が出るので」

「沙織ちゃん、それは全力で戦わなければ良いだけだと思う」


 真顔で述べる沙織に対し、飛んで移動するため沙織に抱きかかえられた里香が冷静にツッコミを入れた。そんな里香の言葉に沙織はシュンと落ち込むが、最近は博孝だけでなく源次郎を始めとした強者と訓練をできるため不満は少ない。


「はぁ……はぁ……じ、自主訓練はけっこうですけど、なんでお兄様達は、そんなに平然と……してるんですか?」


 そして最後に、博孝が保護責任を負っているベールクト――美鈴が息も絶え絶えな様子で声を発した。美鈴は元々『天治会』所属だったため責任者である博孝と行動を共にする必要があり、どこに行くにしても一緒に動かなければならないのだ。


 それは美鈴としても構わない。むしろ博孝やみらいと四六時中一緒にいられるのは大歓迎だ。しかし、源次郎を始めとした“教師”達と一日中訓練に明け暮れ、その上で自主訓練まで行う博孝達についていくのは正直なところかなり辛かった。

 これは訓練生時代から眠る暇さえ惜しんで訓練に励んだ博孝達と、才能は豊かでも訓練量が足りない美鈴の間にある大きな差だろう。博孝達の中では最も体力的に劣る里香よりも疲労の色が濃く、気を抜けばその場に倒れてしまいそうだ。


「訓練が足りないぞ美鈴。ほら、兄ちゃんと姉ちゃんを見習え」

「おねぇちゃんをみならえー」


 博孝が笑いながら言うと、みらいは妹に勝っている部分があって嬉しいのか胸を張っている。悲しいことに、張った胸の大きさでは圧倒的な敗北を味わうことになるのだが、みらいは微塵も気にしていないから問題がない。


 そうやって騒がしくも明るい教え子達の姿に、砂原は口の端を僅かに吊り上げた。一人前になって己の道を歩み始めた教え子達だが、ことあるごとにこうやって会いに来てくれるのである。

 砂原が気を遣わないよう自主訓練のために広い場所が必要などと言っているが、それならば昼間に使っている『零戦』メンバーとの訓練場を使えば良いだけの話だ。


 現在の砂原はリハビリ中ということもあり、一時的に職務から外れている。そのため博孝達も自主訓練という名目で“個人的に”会いに来ているのだ。階級ではなく『教官』と呼ぶのもその一環である。


「というわけで教官、今日も『活性化』の実験に付き合ってください」

「わたしがチェックしていますから」


 そして、自主訓練を開始すると思いきや、博孝から提案があった。里香もそれに便乗しているが、砂原としては博孝達が来るたびに同じことを言っているため答えは一つしかない。


「お前達は自主訓練に来たんだろうが……まったく」


 自主訓練と言いつつも、博孝と里香の目的は砂原の“治療”である。博孝の『活性化』と里香の医療技術を用いることで、少しでも砂原の『構成力』を取り戻せないかと考えているのだ。


「いやいや、これも立派な自主訓練ですから。なあ、里香?」

「ええ、そうですよ。教官みたいに熟練の『ES能力者』に『活性化』を発現した場合と、まったくの新兵に発現した場合。この二つを比較検証するためです」


 博孝と里香はしれっと言うが、それが建前でしかないことはこの場でみらいを除く全員が理解している。みらいだけは純粋に砂原に会えることを喜び、何かにつけて甘えていた。


「た、建前ならわたしは休んでいたいなぁ……なんて」

「さあいくわよ美鈴。今日はわたしと一対一で近接戦闘の腕を磨きましょう」


 無論、博孝と里香以外は本当に自主訓練を行うつもりである。そのため少しだけでも休憩をしたいと願う美鈴を沙織が引き摺り、博孝達から距離を取り始めた。


「きょーすけ、みらいたちも」

「そうっすね。俺ももっと防御を磨きたいところだし、一対一でやるっすか」


 沙織に引きずられ、博孝とみらいの名前を呼ぶ美鈴を流して恭介とみらいも一対一で模擬戦を始める。能力は高くとも正規の訓練を受けていない美鈴に、少しでも技術を学ばせようと心を鬼にして無視したのだ。

 清香との戦いを経て、その剣腕に鋭さを増した沙織の相手をしたくないからと美鈴を生贄に捧げたわけではない。


「お前達は変わらんな……いや、さらに騒がしくなったか」


 そんな教え子達と新たに加わった“河原崎妹”の姿を見やり、砂原は感慨深げに呟く。訓練生の頃から各人の関係性は変わっているが、この騒がしさは変わっていない。それが砂原には懐かしく思えたのだ。

 だが、だからこそ現状に甘えるわけにはいかない。博孝達の厚意は嬉しいが、自らの道を歩み始めた彼らの足を鈍らせることは砂原も望んでいないのだ。


(長谷川大将に陳情して陸戦部隊に回してもらうか……)


 『構成力』が激減したことで発生した感覚の誤差も、既に掴んだ。これならばあとは現場の部隊で任務をこなしつつ己にできることを成せば良いだろう。


 任務によって実戦の感覚を磨き、訓練によって『構成力』を少しでも取り戻し、部下や後輩を指導することで身の回りからでも『ES能力者』の強化を図る。

 『構成力』が減ってはいるが、陸戦としてならば正規部隊員として働くぐらいのことは十分にこなせるだろう。ただでさえ『星外者』との戦いで『ES能力者』が減っているのだ。部隊に復帰するとなれば、源次郎も止めはしないはずである。


 そんな決断を下す砂原の表情を見た博孝と里香は、互いに顔を見合わせた。それなりに長い付き合いであり、今の状況で砂原が考えることはある程度予想がついたのである。


「あの、教官? もしかして俺達に迷惑をかけてるとか思ってます?」

「……少し、な」


 あっさりと内心を読まれたことに驚く砂原だったが、博孝達とて様々な困難を乗り越えてきたのだ。これもまた教え子達の成長の一つなのだろうと納得し、素直に認める。

 いくら教え子とはいえ、博孝達は既に“一人前”なのだ。対等の相手として捉えた場合、やはり現状は博孝達への迷惑になっていると思う気持ちがある。


「いやいや、教官の『構成力』が元に戻れば『星外者』と戦う時もかなりの助けになりますし。これはそう、いわば先行投資ですって!」

「博孝君と沙織ちゃんは『活性化』があったからこそ倒せたわけですが、教官の場合は自力で追い詰めたわけですし……」


 博孝や里香としては、『天治会』に囚われた自分達を救出する際に負った怪我が原因で『構成力』を激減させたのだ。今は少しでも早く強くなる必要があり、そんな博孝達の現状を憂う砂原の心情も理解できるが、何もしないのは気が収まらない。

 それに加え、『星外者』相手の戦力とした考えた場合、砂原の力は非常に大きい。『活性化』もなく、『収束』だけで『星外者』を追い詰めたその技量は、今後の戦いにおいても非常に重要なのだ。


 ――もっとも、砂原にそこまでの力がなくとも博孝達は時間を割いて会いにきただろうが。


「それでも、これまでの“治療”で『構成力』が戻ってないことを考えるとな……それに『構成力』は減っても戦えることは確認ができた。そろそろ復帰せねばならん」

「……まあ、今はどこの部隊でも人手不足ですからね」


 『星外者』との戦いで受けた被害は大きく、ほとんどの部隊が再編の真っ最中である。被害が出なかった部隊といえば『零戦』ぐらいであり、その『零戦』も博孝達が教師として藤堂を筆頭に中隊長達を引き抜いたため、現在は再編に追われているのだ。

 いくら『構成力』が減ったとはいえ、砂原程の手練れをいつまでも離脱させておける余裕もない。先の戦いで英雄として祭り上げられた博孝は様々な情報に触れており、砂原本人が復帰できると判断した以上は止めることもできなかった。


「今の教官だと陸戦部隊になりますか」

「そうなるな。まあ、俺としてはどの部隊だろうとやることは変わらん。陸戦二等兵から再スタートしても構わんぐらいだ」


 技術や経験はあっても『構成力』自体は新兵と変わらない。そのため階級もそれに合わせて良いと言い放つ砂原だったが、博孝と里香は揃って頬を引き攣らせた。


「……そんなことを長谷川の爺さんに言うのはやめてくださいよ? まかり間違ってゴーサインが出たら配属先の部隊が大混乱に陥りますから」

「『穿孔』が陸戦二等兵で配属されたら大惨事になるかと……いくら『構成力』が減ったと言っても低くて少尉で小隊長、適切なのは中尉で中隊長でしょうか。さすがに部隊を率いるのは厳しいかと思いますが……」

「……もちろん冗談だ」


 嘘だ、と博孝と里香は内心で呟いた。少なくとも二等兵から再スタートしても構わないというのは本気だった、と二人は看破する。しかし“それ”は配属先の部隊も困るだろう。少なくとも自分なら困ると博孝は思う。


 いくら人手不足とはいえ、あの『穿孔』を二等兵として扱うなどどんな上官にとっても嫌がらせに近い。新兵ならばともかく、大隊長などの重職に就く者ならば砂原を見知っている者も多いのだ。

 二等兵でなくとも、自分の部下に『穿孔』が加わると聞けば喜びよりも困惑の方が勝りそうである。少なくとも自分は嫌だな、というのが博孝と里香が共通する思いだった。


 何十年もの間『ES能力者』として生き抜いてきた砂原ならば、その年数に比して『ES能力者』の知り合いも多い。中には元上官や元部下、同僚も含まれており、砂原が陸戦部隊に配属されればどう思うか。

 事情を知れば素直に受け入れてくれるとは思うが、力が落ちたとはいえ“あの”『穿孔』をどう指揮するか頭を悩ませることになるだろう。


(というか俺なら絶対悩むし……)

(自分より頼りになる人を部下に迎えるのはちょっと……)


 これからのことを考えると、博孝も里香も自分より年上かつ有能な『ES能力者』が部下になる可能性が高い。博孝などはその立場から部隊を率いることにもなるだろうが、仮に砂原が部下になったらと考えると憂鬱になってしまう。

 偉大な先達にして訓練生時代から世話になったのだ。部下として従うのならば何の問題もないが、上官として指揮を執るとなると思うところがあった。


「配属先ではほどほどにしてくださいよ?」


 結局、砂原の配属先が自分の下ではないからと全てを諦めた博孝である。そのため配属先の部隊の面々の安寧を祈りつつそんな言葉をかけてみるが、砂原から返ってきたのは至極真面目な言葉だった。


「しばらくは平穏も続くだろうからな。“ほどほど”に部下を扱くとしよう」


(あ、コレ駄目なやつだ……)


 『構成力』が激減しようとも砂原の姿勢に微塵の変化も見られず、博孝は里香と共に肩を竦め合うのだった。








 後日、源次郎経由で砂原の配属先である第三陸戦部隊の様子を確認した博孝だったが、予想通りに砂原が“大暴れ”していると聞き、そっと目を逸らした。


 『構成力』が激減しようとも相変わらずな砂原に感心すれば良いのか、安堵すれば良いのか。少なくとも第三陸戦部隊全体の底上げにつながるのだと考えて思考を放棄すると、自分も負けないよう頑張ろうと博孝は自分に言い聞かせるのだった。












どうも、作者の池崎数也です。

お久しぶりです。リアルの忙しさや新作を書いたりで気が付けば前回の閑話から一ヶ月が経過していました。今回は砂原の『その後』になりました。砂原が今後かつての『構成力』を取り戻すかは……


毎度ご感想や評価をいただきましてありがとうございます。今回はtakekaijuさんよりレビューをいただきました。ありがとうございます。これで29件になりました。

本編完結後も新たに読み始めてくださる方がいて感謝感謝です。


それでは、こんな拙作ではありますが今後ともお付き合いいただければ幸いに思います。

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