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平和の守護者(書籍版タイトル:創世のエブリオット・シード)  作者: 池崎数也


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第二百八十七話:最終決戦 その14

 清香に操られ、後方から光弾を放ってくるかつての仲間達へと向かいつつ、福井は追従する部下達へ声をかける。


『相手は大隊規模……それに比べてこちらはたったの四人、一個の小隊でしかない』


 『飛行』による移動速度は音速を超え、距離を詰めようと思えば数秒とかけずに接敵できるだろう。そのため福井は速度をわざと落として相手を挑発するようにでたらめな軌道を描いて飛び、放たれる光弾を自分達に向けるよう仕向ける。


『戦力差は九対一。いくら相手が負傷しているといっても、こうやって『射撃』を撃たれるだけできつい。さて、そこで思い出してみようか』


 清香が操る本隊を攻める博孝達に攻撃が向くならば撃ち落し、身を盾にしてでも防ぎながら福井は言う。


『この一年、俺達は砂原隊長の下で訓練に励み、『天治会』を相手にした任務も乗り越えてきた』


 そう言いつつ、福井の脳裏にもこれまでの記憶が甦る。


 斉藤に憧れ、即応部隊への異動も嬉々として受け入れた自分。斉藤のようになるのだと、『収束』を身につけて名を馳せるのだと、意気揚々と即応部隊に足を運んだ自分。


 ――その自信をあっという間に砕かれた自分。


 自分は天才だと言い聞かせ、それに見合う技量を身に付けたつもりだった。斉藤が発現する『収束』を見様見真似で覚え、『構成力』の集中力を磨き、二級特殊技能である『収束』だと大言壮語した。

 そしてその自信は、出会ったばかりの博孝によって木端微塵に砕かれる。その時は博孝も自分と同じように『天才』なのだと思うことで心の均衡を保ったが、即応部隊での日々を過ごす内にその考えも間違ったものだと気付いた。


 たしかに才能もあるのだろう。博孝を筆頭として沙織や恭介、みらいを見ればそれは嫌でもわかる。だが、博孝達は才能以上に努力を重ねていた。

 訓練量、向上心、実戦経験の蓄積。その全てが福井を超えており、博孝達の血肉となっていた。


 博孝達は才能云々と論じる暇があれば、その時間を利用して組手をするような性格である。それは訓練生時代の教官が砂原だったというのも大きいだろうが、本人達が率先して取り組んだ成果でもある。

 どのような訓練を行ってきたか聞いたことがあるが、訓練生の頃に『飛行』を発現した福井でも本気で遠慮したい内容だった。

 つまるところ、博孝達は天才と言うよりも強くなるべく努力し続けたのである。直接戦闘に向いていないはずの里香でさえ、福井としては戦いたくないほどに。


 そんな彼らに負けないよう、訓練に没頭した。斉藤だけでなく砂原による教導は厳しく、自分でも驚くほどに技量が上がったと思える。

 それでも身近な仲間が死んだことで心が折れ、二度と立ち上がりたくないと思ってしまった。ベールクトやフェンサーと交戦している博孝への救援が必要だと言われても、沙織一人で向かわせてしまうほどに自信がなくなっていた。


 なんとも滑稽だ、と福井は自分を嘲笑う。博孝と話すことで立ち直り、今まで以上に訓練を行ったが、過去の自分を笑って殴り飛ばしたくなる。


『色々とあった……本当に色々あった。正直なところ、今この場に自分が立っていることが信じられないぐらいだ』


 即応部隊は設立の目的上、『天治会』と戦うことを主眼としている。福井達若手の空戦部隊員はそれを理解した上で転属を志願したが、動機に功名心などが含まれていたことは否定できない。

 『天治会』と戦うと言っても、これほどまでに大規模なぶつかり合いになるとは思っていなかった。それどころか『天治会』を超えて『星外者』などが出てくるなど、空想すらできなかった。


『それでも、俺達はここにいる。正直なところ実感がないけど、この戦いに負けたら色々と終わってしまう――だから、自分達にできる最大限のことをしよう』


 “あの”砂原が瀕死の重体で『いなづま』に運び込まれてきた時、福井としては現実味が感じられなかった。即応部隊の隊長にして自在に『収束』を操る砂原が敗北するなど、有り得ないと思っていた。

 しかしこの状況こそが現実で、福井達は清香に操られた味方の対処を行うために動いている。たった四人で、大隊規模の“敵”へと立ち向かっている。


『もう一度言う。即応部隊で学んだことを思い出せ。隊長と、上官と、仲間達と積み上げてきたものを全て思い出せ』


 時間で言えば、一年程度。しかしその一年で学んだことは、これまで『ES能力者』として生きてきた間に学んだことに匹敵するだろう。あるいは、凌駕するかもしれない。


『“小隊長”、思い出してみても一個小隊で大隊規模の相手に向かっていく訓練はしてませんよ?』


 追従する仲間がからかうように言う。それは数の上で見れば九倍も差がある相手に向かう恐怖を紛らわせるためだろうが、福井としてはそんな軽口が出てきたことこそが自分達の成長だと思った。

 かつての自分ならば、戦う前に心がくじけていたかもしれないのだから。


『それなら想像してみるといいさ。砂原隊長でもいいし、斉藤中尉でもいい。河原崎少尉と長谷川曹長のコンビでもいい……もしもあの人達だったら、どういう風に戦うと思う?』


 戦術や戦略ではなく、“どのように”戦うか。戦い方に関しては得意分野の差があるだろうが、彼らならばこのような劣勢でも共通することがある。


『片っ端から殴り倒して、蹴り飛ばして、暴れ回る』

『長谷川曹長は喜んで斬り込むと思う』

『とりあえず暴れる』

『……君達、間違っても本人には言わない方がいいよ。いや、自殺願望があるなら構わないけどさ』


 仲間達の評価に対し、福井は呆れたように呟いた。福井としても否定できないが、求めていた解答とは違う。


『でも二個目の答えは少し近いかな……隊長達なら、絶対に“諦めずに”戦うと思うんだ。ついでに言えば、数の差なんて気にせずに笑顔で襲い掛かると思う』

『あー……』


 福井の言葉に、納得したような声が連鎖した。冗談のように聞こえるが、砂原達ならばそうすると思えたのである。

 戦いを前にして笑えるのは、恐怖に打ち克つことができるからだ。数の差というのは単純だからこそ恐れや不安につながるが、絶望的な戦力差だろうと笑い飛ばせるのは一つの強みである。


『俺としてはあそこまでいかなくてもいいと思う……でも、俺達は即応部隊の中でも空戦の一員だ。この一年間、隊長達の下で徹底的に扱かれてきた。それならこのぐらいの戦力差、笑って押し返そうじゃないか』


 清香は新たに操った彼らを固定砲台のようにしか扱っていないが、大隊規模の『ES能力者』が一斉に『射撃』を放てばそれだけで脅威になる。一人一発でも三十六発と、並の『ES能力者』では相殺も難しい数だ。

 そんな相手を前にして、福井は深呼吸をして心を落ち着ける。自分で仲間達に言ったことを脳裏で繰り返し、震えそうになる口元を無理矢理笑みの形に持ち上げていく。


 遠距離から撃ち落とすことができれば最高だが、数の差を考えれば不可能だ。そのため懐に飛び込み、強烈な打撃で相手の意識を奪う必要がある。

 博孝の『活性化』によって普段よりも体が動くが、大隊を相手に迫り来る光弾を掻い潜り、乱戦に持ち込んで強引に撃墜する。しかも極力殺さないよう注意するとなれば、その難易度は鰻登りだ。


「く……はははははははっ!」


 困難で、難関で、普通ならば途中で力尽きる。その難事を前にして、福井は意識して大笑する。


「――なんとも突撃しがいがあるじゃないか!」


 自己暗示のように叫び、福井は動きを変えた。それまでは蛇行するようにして光弾を避けていたが、相手に向かって一直線に突っ込んでいく。

 先頭を切って接近する福井に対して光弾が殺到するが、福井は止まらない。迎え撃つようにして『射撃』による光弾を発現し、機銃のように乱射して相殺していく。

 衝撃と轟音が連鎖し、光弾の炸裂が衝撃となって肌を叩いた。それを心地良く思いながらも福井は加速し、正面にいた敵兵へと体ごとぶつかっていく。


 『活性化』による一時的な『構成力』の増大に、自分のものとは思えないほどにスムーズな操作。『構成力』を拳に集中させた福井は加減抜きに突き出して『防殻』を突破すると、そのまま腹部へとめり込ませて強制的に息を吐かせ、気絶させる。


『気絶させたらそのまま地表に落とすんだ! あとは岡島少尉達がどうにかしてくれる!』


 ついでとばかりに地表に向かって蹴り落とすと、即座にその場から後方へと退いた。するとそれまで福井がいた場所に光弾が殺到し、ぶつかり合って巨大な爆発を起こす。

 もしもその場に留まっていたならば、そのまま撃墜されただろう。息を吐かせる暇もなく訪れる死線を潜り抜け、福井は再度『射撃』を発現していく。


 斉藤が発現する『収束』に魅せられた福井だが、元々の戦い方は『万能型』だ。『飛行』以外に高度な特殊技能を習得していないが、五級特殊技能ならばその全てを習得している。

 『万能型』らしい万能性こそが“本来の”福井の強みであり、そこに『収束』を発現するために磨いた『構成力』の集中、『活性化』による後押しが加わることでこれまでの限界を突破していた。


『さあ次だ次! 一人でも多く落とせ! 例え一人になっても落とせ! 絶対に後ろに通すなよ!』


 死線を越える度に、気分が高揚していく。福井は十年以上『ES能力者』として生きてきたが、これほどの昂揚は初めてだ。

 その興奮は、初めて『飛行』を発現して空を飛んだ時すら超える。心臓が高鳴り、血の巡りの激しさに合わせて天井知らずに気分が高まっていく。


 時折相殺しかねた光弾が『防殻』を削り、皮膚すらも削って血が噴き出すが、それすらも心地良かった。湧水のように溢れてくる『構成力』を『防殻』に注ぎ込み、拳に集中させ、光弾を放つ“敵”を一人ひとり殴り倒していく。

 もしも相手に即応部隊の仲間が混ざっていれば、こうはいかなかっただろうと福井は思う。清香を倒すために急遽集められた彼らの技量を平均してみれば、即応部隊に劣る。中には腕が立つ者もいたが、現時点で疲労や怪我が蓄積して後方に下げられた者達ばかりだ。


 そのような者達に負けるはずがない――負けるわけにはいかない。例え九倍の戦力差があろうと、負けてはやらない。

 清香の意識が博孝達に集中しているからか、指揮が荒いというのも福井達にとって追い風だった。動くとしても単純な空戦機動、攻撃するとしても単調な『射撃』や『狙撃』、防御するとしても並以下の体術に強度。

 その数こそ脅威だったが、迫り来る光弾の雨に飛び込む恐怖さえ乗り越えれば福井にも打つ手がいくらでもあった。もしも相手の意識があれば話は別だっただろうが、操り人形と化した彼らならば恐れるに足りない。


 これが砂原や斉藤、博孝達が見ている景色か。


 顔面を狙って放たれた拳を紙一重で回避しつつ、福井は思う。命を賭けた実戦をいくつも乗り越え、死線を踏破した者だけが見れる景色は爽快で、軽快で――残酷で。


『ぎっ、が……被弾しました! 先に離脱します!』


 仲間の一人が四方から放たれた光弾を回避し損ね、血煙を噴いた。それでも傷の痛みを堪えてそう叫ぶと、『防殻』に『構成力』を注ぎながら突撃していく。

 そうすることで僅かとはいえ周囲の注意を引き、その間に福井達は他の敵へと襲い掛かった。防御を固めながらも突撃した仲間はそのまま敵の一人を強引に抑え付け、地表に向かって“離脱”していく。


 この場に残っても継戦が不可能なため、敵の一人を道連れにしたのである。無論、そのまま共に命を落とすわけではない。相手を高所から地面に叩きつけることで意識を奪うという、非常に強引な手を取っただけだ。


『一人抜けたか……何人落とした!?』

『アイツは四、こっちは三!』

『俺は五です!』


 そう答えつつも、戦闘は継続している。福井だけで六人叩き落としており、仲間の分も含めれば合計で十八人。既に敵は半分も減ったことになる。


『喜べ諸君! これで九倍から六倍に減ったぞ!』

『そいつはけっこうなことで!』


 鼓舞するように叫ぶ福井に対し、仲間の一人もテンションが振り切れたように返す。福井の言う通り敵の数は減っているが、その戦果と引き換えに福井達はボロボロになっていた。

 戦意が高揚しすぎて痛みを感じないが、他の仲間だけでなく福井も体のあちらこちらに怪我を負っている。溢れた血によって野戦服がまだら模様に染まっているが、今の福井にはそれらを気にする精神など残っていなかった。


『あとは一人当たり六人落とすだけの簡単なお仕事だ!』


 動きを封じるべく組み付こうとしてきた相手を回避し、返礼としてこめかみを肘で殴り飛ばす。下手をすれば死にかねないが、『防殻』を発現している『ES能力者』ならば十分に耐えきれる威力だ。

 それでもふらつく程度には効いたらしく、距離を取ろうとする敵に『狙撃』を撃ち込んで吹き飛ばす。


「少しばかり火力が強いんじゃないですか!?」

「なあに、問題はないさ。その昔、砂原隊長は操られた第五空戦部隊の小隊を徹底的に殴って戦闘能力を奪ったって話だしね!」

「隊長の真似をするとロクなことになりませんって!」


 余裕を示すように叫び合う福井達だが、その実、限界が近かった。戦力差を覆すように暴れているが、それは後先を考えずに『構成力』を全開で消耗しているからである。


 『飛行』の速度、『射撃』や体術の威力、『防殻』の強度。その全てに普段以上の『構成力』を注ぎ込み、『活性化』による後押しで強引に敵を蹂躙しているのだ。

 アクセルだけを踏んでブレーキは一切かけない暴走車のようなものであり、加速度的に体力と『構成力』を消耗していく。かつてない昂揚と戦意で疲労を忘れ去っているが、一度止まればそのまま動けなくなるだろう。


 相手は操られたばかりだからか、自爆をしてこない。そのことに感謝しつつ、福井達は相手を地表へと叩き落としていく。


 ――だが、それでも足りない。


 敵を減らす度に傷つき、そして二人目、三人目と仲間が離脱していく。その際に相手を抱きかかえて強引に地表へと落下していくが、敵の全てを削り切る前に福井以外の仲間が離脱してしまった。

 殺して良いのならば他に打つ手もあったが、清香に操られているだけで相手は元々味方の『ES能力者』達だ。そのため殺すわけにはいかず、また、殺されるわけにもいかない。

 地上に伏せている里香達が回収し、治療を施すという確信があるからこそ『構成力』が枯渇する限界まで戦うことができた。


「い、つ……はぁ……まったく、結局残ったのが俺だけとはね……」


 身を削るような戦いによって、福井も限界が近い。全身血濡れで、『構成力』も枯渇寸前だ。その上『活性化』も既に消えており、残るは満身創痍の体だけである。

 だが、その甲斐もあってか相手も残り少ない。大隊規模だった相手は既に四人しか残っておらず、福井が離脱しても大きな脅威にはならないだろう。


 しかしそれは駄目だ。後輩に、博孝に見得を切ってしまった。ならば先輩としての意地を示さなければならない。

 残り少ない『構成力』を掻き集め、両手へと集中させていく。そのまま発射できれば『砲撃』として放つことができそうだが、福井は集中させた『構成力』を霧散させずに両手に発現させた。


 それは、発現することを夢見た『収束』――その一歩手前。


「ははっ……ここまで頑張っても届かないか。でも、だからこそ目指す甲斐があるってもんだね……」


 『収束』と呼ぶには『構成力』の密度が足りない。だが、今はこれで十分だ。最後の一仕事をするには、十分な成果だ。

 残り一人ということで『射撃』や『狙撃』が集中するが、福井はそれに構わない。迫り来る光弾を両手で弾き、接近するなり相手の防御を強引に貫いて地表へと叩き落としていく。

 ただし、いくら両手に『構成力』を集中させて弾いているとはいえ、その全てを防げるわけではない。何発かの『射撃』が命中して肉を抉り、それでも福井は止まらなかった。


(三……二……残り、一人っ!)


 痛みを無視し、気力を振り絞り、最後の一人まで削ってみせる。固めた拳を何度も叩き込んで意識を奪い、地表へと落下させていく。


 後のことは全て博孝達に任せた。ここが自分の舞台であり、これで全て終わっても構わない。そんな決意と気迫が福井を支えていた。

 だが、最後の一人を前にして福井は限界を迎える。『飛行』に回していた『構成力』が途切れ始め、少しずつ高度を下げていく。


 相手は清香に操られて単調な動きしかできないが、それを上回るほど自分の体が鈍重に感じる。先程までは軽快に動けていたというのに、今では全身が鉛にでもなったかのようだ。


「あと……一人……」


 あと一人で博孝との約束を果たせる。そうは思うが、後先考えずに消耗した『構成力』は既に底が見えていた。


 ここまで減らしたのならば、あとは誰かが対処するだろう。先に進んだ誰かが『狙撃』なりで撃ち落すに違いない。九倍もの戦力を相手に戦い、ここまで削ったのだ。これで十分だと、よくぞここまで奮戦したと誰もが認めるに違いない。


 少しずつ敵との距離が開いていく。『飛行』に回す『構成力』が尽きかけている以上、あとは重力に引かれて地面に落ちるだけだ。これ以上粘れば、安全に着地することもできなくなってしまう。


 ――そこで諦めるから“彼ら”に届かないのだ。


「それが……どうしたあああああああああぁっ!」


 左手に集めていた『構成力』を消し去り、『飛行』へと回す。『収束』と違って発現した『構成力』を集中させただけだったが、ほんの僅かと云えど『飛行』に回すことができた。

 そして重力に反発して跳ね上がると、敵に向かって弾丸のように突っ込んでいく。もしも回避されれば追撃する余裕はない。それ故に、回避を許さない速度で福井は直進する。


 これが福井にとっての第一歩。歩き続ければ砂原や斉藤の域まで到達するであろう道を、福井はようやく踏み出した。


 斜め下から抉り込むように、体ごとぶつかって右拳を叩き込む。辛うじて『構成力』の集中を保った右拳は、そのまま敵の『防殻』を貫く。

 右手に伝わる手応えは会心で、拳を叩き込んだ相手は盛大に息を吐き出して落下し始めた。福井は肩で息をしながらそれを見送ると、今しがた突き出した右手へと視線を落とす。


「なんだ……やればできるんじゃないか……」


 僅かに腕が震えているのは、死地を乗り越えることができたからだろうか。あるいは言い様のない達成感によるものか。

 だが、いつまでも浸ってはいられない。『構成力』もほぼ尽きた身だが、博孝達に追いつけば身を盾にすることぐらいはできるかもしれないのだ。


 そう思って視線を巡らせる福井だったが、感覚に引っかかるものがあった。それは『探知』を発現せずとも感じ取れる巨大な『構成力』によるものであり、無意識のうちに視線をずらす。

 遠くに見えたのは、地表から空へと伸びる虹色の光へと向かう複数の『ES能力者』の姿。その先頭を飛ぶ人物の姿を見た時、福井は気が緩むのを感じた。


「ああ……そうか、ここまでか……」


 心底安堵したように、福井は呟く。“彼ら”が駆け付けたのならば、自分の出番はもうないはずだ。露払いも済んで後顧の憂いがなくなった以上、博孝達も全力で戦える。

 そんなことを内心で呟いた福井の視線の先、そこにあったのは三十を超える『ES能力者』達の姿。


 ――源次郎が率いる『零戦』の到着である。


 それを見届けた福井は満足そうに笑うと、そのまま地表へ向かって落ちていくのだった。


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[良い点] 福井軍曹よく頑張ったやんか…、カッコよかったぞ!
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