↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平和の守護者(書籍版タイトル:創世のエブリオット・シード)  作者: 池崎数也


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

293/329

第二百八十五話:最終決戦 その12

 清香のもとへとたどり着くべく敵陣の突破を図る博孝達だったが、全てが全て上手くいくわけではない。援軍として駆け付けた俊樹達のおかげで大きく前進することができているが、清香の指揮が効率化されたことで進軍速度が少しずつ遅くなっていた。

 また、攻める博孝達とて無傷ではない。清香を仕留める役割が与えられた博孝と沙織はともかく、部隊員の多くが大なり小なり傷を負っていた。


 数で比較すれば五倍以上の『ES能力者』を相手にして、負傷で済んでいるのは僥倖としか言えないだろう。だが、疲労と負傷が蓄積しつつあり、それによって動きが鈍って更に負傷を追う――そんな悪循環に陥る者が出始めていた。


『負傷者は後退して遠距離から攻撃を継続しろ。後退の際はカバーとして一人がついて分隊として動け』


 自身の部下だけでなく、周囲の味方の状態まで把握するよう努めていた俊樹から『通話』による指示が飛ぶ。

 戦闘に影響があるほど負傷した仲間というのはある意味厄介であり、仕留めようとする敵から狙われ、それを他の仲間が防いで更に負傷者が増えることも十分あり得る。

 そのため俊樹は距離さえおけば戦闘の継続が可能と思われる段階で後退の指示を出し、敵陣の攪乱を任せるつもりだった。清香との距離はだいぶ縮まっており、ここまでくれば攪乱よりも突破に力を注ぎたいのだ。


 負傷者に陽動と攪乱を任せ、余裕がある者達で突破を図る。現状の負傷者は三割程度であり、通常ならば撤退などを視野に入れるべきだが、この戦いで撤退するつもりはなかった。

 仮に撤退することがあるとすれば、それは清香を仕留めてからである。清香さえ仕留められれば、敵の残存兵力を放置して撤退しても良い。清香さえ倒せれば、あとはいくらでも“料理”できるのだ。


 周囲からの厚い援護によって守られている博孝や沙織は別として、今のところ負傷もせずに戦っているのは柳や俊樹、町田に斉藤ぐらいである。ただしこれまでの戦闘で『構成力』を消耗しているため、このままでは遠からず被弾するだろう。


 ――それでも、このまま押し切ることができる。


 指揮経験がある者は、今の勢いからそう判断した。“このままならば”敵陣を突破し、博孝と沙織を温存したままで清香にぶつけることができる。それは希望や楽観ではなく、その場に立っているからこそ感じ取れる確信だ。

 自軍の負傷者が増える速度よりも、敵兵を叩き落とす速度の方が遥かに速い。数の差から殲滅することは不可能だろうが、敵陣を突破して博孝達の戦いに介入しないよう牽制することは可能だ。


 突破できる、清香に勝てる。そんな希望が前進の勢いを増し、立ちふさがる敵兵を迅速かつ的確に排除させていく。

 『ES能力者』にとって、どんな感情であれ『構成力』に影響をもたらす。喜怒哀楽を超え、希望という巨大な感情は全体の助けになり得るものだ。数で劣っている以上、士気の高さは歓迎すべきだった。


 清香の『ES能力者』を操る能力は強力で、清香の指揮が冴えてきているのは厄介だが、一人で何百人も操るのは無理がある。部下の全員が戦闘に加わっているというわけではなく、何割かは単純な動きを繰り返すだけだ。

 博孝達と交戦している者は鋭い動きだが、それ以外の者まで機敏に動かす余力はないのだろう。


『……困ったわね』


 相変わらず動かないままで戦況の推移を見守っていた清香が、小さく呟いた。困ったと言いつつも、その声色は平坦である。


『ここまで戦力が揃うなんて予想外だったわ。それに、“向こう”も嫌なぐらい的確に動いてる……まったく、“悪戯”が過ぎるというものよ』


 誰に対するものか、後半はぼやくような口振りだった。それでも、そこに焦りの色がまったくないため、博孝は警戒を強める。

 沙織に指示を出して清香を狙わせるか、それとも突破を優先するべきか。博孝は僅かに逡巡したが、その間にも清香は言葉を続ける。


『ああ、本当に困ってしまったわ。このままではわたしのところまで突破されてしまう』


 そう言いつつも、言葉に僅かな喜色が滲んで聞こえたのは博孝の勘違いだろうか。喜色と言っても、獲物の思わぬ抵抗を喜ぶような性質が悪いものだが。


『――だからこうしましょう』


 喜びの声はそのままに、清香は軽く指を鳴らした。それに合わせてパチンという軽い音が鳴るが、距離があるため博孝達には聞こえるはずがない。しかし、清香を中心として妙な気配が広がっていくのを博孝は感じ取った。


「……? 一体何を……」


 波のように広がっていく違和感。それが何なのかと疑問に思った博孝が沙織に目配せをするが、沙織も理解しかねたように首を横に振った。

 妙な素振りを見せることで、警戒させるつもりか。そう考えた博孝だったが、清香がそのような真似をするはずがないと即座に否定する。

 僅かな時間を稼ぐために小細工をするとは思えない。そんな“悪い意味”での信頼が博孝に警戒をもたらし――その結果は背後から伝わってきた。


『総員回避せよ!』


 警戒の声を上げたのは俊樹であり、その声が聞こえる前に博孝の体は動いていた。つい先ほど負傷者を後方へと下げたが、その“彼ら”から光弾が飛んできたのである。

 清香が操る敵兵に注意を払いつつも背後に視線を向けてみると、明らかに博孝達を狙っている様子だった。さらにその表情を確認してみると、まるで能面のように表情が抜け落ちている。


 ――清香の手によって、操られているのだ。


(あの距離で操れるのか!?)


 驚きを飲み込みつつ、飛来する光弾を回避する。後方に下げた味方は三割程度だったが、それらが丸々清香に操られるのは痛い。しかし、新たに操られた彼らは『射撃』を放つだけであり、それ以上の行動を取ろうとはしなかった。


 清香が『ES能力者』を操るために必要なのは、本人か『端末』による接触のはずだ。さすがに直接触れる必要はないかもしれないが、それでもある程度は近づく必要があったはずである。

 洗脳した後に操るのならば話は別だが、距離を問わずに洗脳できるのなら清香の能力はもっと猛威を振るっていたはずだ。また、熟練の『ES能力者』ならば抵抗することもできると推察されていた。

 現に、後方に下げた者達以外は操られた様子がない。突如味方から攻撃されたことに驚いてはいるが、全員が回避するなり防御するなり対処をしていた。


『まあ、こんなものかしら』


 そんな言葉を投げかけてくる清香。博孝は歯を噛み締めて清香を睨み付けるが、清香はどこ吹く風と言わんばかりに微笑んでみせる。


『減ったのなら増やせば良い……単純な話よね?』

『たしかに単純だな……反吐が出るぐらいに』


 何故最初からそうしなかったのか。まさか自分達がある程度敵陣に食い込むのを待ち、後方の仲間を操ることで袋を閉じるようにして退路を塞いだのか。攻め込んでいたのも錯覚であり、実は清香の掌の上だったのか。


 そんな疑問を覚えた博孝だが、その思考に引っかかりを感じた。タイミングとしては完璧と言えるが、わざわざ負傷している仲間を操る必要があるとは思えない。


(……いや、怪我をしている人しか操れなかったのか?)


 広範囲に渡って洗脳してみせた清香だが、その効果があったのは後方の怪我人だけだ。再度確認してみても、他の仲間が操られている様子はない。


 『ES能力者』として成長した――『活性化』によって『星外者』に比肩し得る博孝や沙織はともかく、空戦の中では若手の福井なども健在だ。その点から推察する限り、負傷したことで清香の洗脳に対する“抵抗力”が下がったのだろうか。


(まさか病気みたいに感染するわけじゃないだろうな……)


 かつて交戦した、『進化の種』によって動く死体が脳裏に思い浮かぶ。あの時と違い、心臓に『進化の種』を埋め込まれた者など見える範囲では存在しない。


(そうなると清香の能力が強まったって考える方が自然か?)


 接触した『ES能力者』を操るだけでなく、ある程度距離が離れていても操ることができる。後方に下げたのは現段階で接近戦が困難になるような傷を負った者――周囲と比べれば練度で劣った者だが、怪我と『構成力』の消耗が引き金だったのかもしれない。

 もしもそうならば非常に厄介だが、何故このタイミングでそれが可能になったのか。


(隠し玉にしては切り方がおかしい……何か理由があるとすれば、アレか)


 博孝は清香から視線を外し、その背後にある虹色の光を見た。この場に到着した時と比べると、放たれる違和感や光自体が大きくなっているように思える。


(この場で削った敵戦力は二百に届かないはず……それでもこれか。爺さんや『零戦』の人達がどれぐらい削ったのかわからないけど、タイムリミットは近いのかもしれないな)


 虹色の光の増大に伴い、清香の力も増しているのではないか。清香は相変わらず移動していないが、そう考えると移動しないことにも意味がありそうである。

 だが、それを考えている暇はない。操られた味方からの攻撃を回避するのもそうだが、元々清香が操っていた敵兵は当然のように襲ってくるのだ。


「くそっ! 沙織! 後ろからの攻撃は任せた!」


 『射撃』程度ならば、沙織は『穿刃』を振るうだけで破壊できる。それならば前面の攻撃は自分が引き受け、まずは周囲の仲間と共に態勢を立て直すべきだろう。


(どうする……どうする!?)


 実際のところ、博孝には操られた仲間を元に戻す方法があった。それは『活性化』によって彼らを強化することであり、上手くいけば清香の洗脳から正気に戻るはずだ。

 長年博孝から『活性化』を受けていた沙織や里香、恭介やみらいの成長ぶりを考えると、熟練の『ES能力者』ならば一時的な『活性化』でも清香の洗脳を打ち破れる――“はず”である。


 問題があるとすれば、清香と戦う前に体力を消耗することだろう。今の博孝なら後方に下げた人員一個大隊程度に『活性化』を発現することもできる。ただし、その代わりに清香と戦う際の勝率が下がるだろう。

 また、『活性化』を発現するためには操られている味方のところまで後退する必要があった。そうなると、あともう少しで清香に手が届くという好機を捨てることになる。


 他に方法があるとすれば、気絶させることで清香が操れないようにすることぐらいだろう。もっとも、その場合は一個大隊近い味方を気絶させるために人手を割かねばならず、清香が操る敵兵に対する備えが薄くなってしまう。

 放っておけば背後から攻撃が飛来し、博孝が助けようとすれば好機を捨てる上に体力まで失う。他の者に任せても戦力が下がるという、実に“効率的”で嫌らしい手を打たれてしまった。


『ふふっ……それであなたはどうするのかしら?』


 表情を微笑みの形に変えながら清香が問いかけてくるが、博孝には即断できない。どんな手を選んでも自分達が不利になってしまう上、最悪の場合は清香が味方を自爆させるかもしれないのだ。

 操ったばかりの『ES能力者』を自爆させられるのかはわからないが、それがわかるとすれば本当に自爆させた時だけである。


(味方の命を取るか、それともこのまま戦うか……)


 後方に下がっていた仲間達は、その多くが臨時で集めた空戦部隊の者達だ。即応部隊の者も数名混ざっているが、この戦いに命を賭けて望み、博孝や沙織に希望を託してくれたことに違いはない。

 『星外者』である清香とその部下達と戦うということで、その多くが命を落とすことも覚悟している。それは博孝も理解しているが、助けられる手段を持つ博孝には彼らの命の取捨選択を迫られていた。


「…………くそっ」


 その選択が、どうしようもなく重い。敵を殺す葛藤とは別種の、味方の命と戦況を天秤にかけて決断しなければならない。

 叶うならば一人でも多くの仲間を助けたいが、そうすることで清香を倒せなくなるかもしれない。そうなった場合、どれほどの悪影響がもたらされるか。


 襲い掛かってくる敵兵を捌きつつも博孝は苦悩し――遮るようにして声が響いた。


『やれやれ……ここは俺の出番かな?』


 どこか強がるような、わざと張りを持たせた声。その声は『通話』によるものだったが、顔を見ずとも相手が博孝にはわかった。


『……福井軍曹?』


 話しかけてきたのは福井であり、答える博孝の声には疑問が混ざっている。予想外の人物に声をかけられたような、確かめるような声だった。


『敵に操られるなんて、まったくもって情けない奴らだよ。でも、後ろからチクチクと撃たれるのも面白くないからね。俺達が止めてくるさ』


 声の震えを隠すよう、わざとおどけた口調で話す福井。敵兵を強引に蹴り飛ばして間合いを開けた博孝は、福井の口振りにただならぬものを感じてそちらへと視線を向けた。

 福井は若手の部隊員三人と集まっており、向けられた博孝の視線に応えるよう引き攣った笑みを浮かべる。


『第一空戦部隊は攻撃の要だし、斉藤中尉や町田少佐達も後方に回すわけにはいかない。あの人達に比べたら俺達の働きなんて微々たるものだよ。それに君の『活性化』も温存しないといけない……“だから”俺達が彼らを止めてくる』


 福井の周りに集まっているのは、福井と近い年代の若手の空戦部隊員ばかりだ。その誰もが福井と似たような表情を浮かべていた。


 今のところは単純な動きしかしていないが、それでも一個大隊近い『ES能力者』に一個小隊で突撃する。清香がどのような反応をするか不明だが、福井達の行動を許すはずもない。

 この場にいる“主力”のように突き抜けた人員ならばともかく、彼らはそうではない。砂原によって鍛えられているが、それでも並を超えるかどうか、という程度の『ES能力者』だ。


 それでも、命の賭け時だけはよく理解していた。


『君は君の役目を果たせ。俺達は自分にできることをするさ』


 博孝を安心させるように笑う福井だったが、相変わらず声が震えている。口元も僅かに震えており、恐怖に抗っているようだ。


『ですが……』

『こういう時ぐらいは“先輩”に任せたまえよ、後輩君。これでも君より長い間を『ES能力者』として過ごしてきたんだ。それに俺はできないことは言わないし、これぐらいは不可能でもない』


 そこまで言うと、不意に福井の震えが止まった。そして大きく胸を張り、自身を誇るように言う。


『――なにせ、俺は天才だからね』


 だから任せろ。そう断言する福井に対し、博孝は笑みを浮かべた。


『なるほど……それなら安心して任せられますね』

『だろう? 仲間を見殺しにするわけにはいかないし、あれから少しは強くなったんだ。本当はあの『星外者』を倒すことでそれを証明しようと思ったんだが、それは君に譲るとするさ』

『その計画は初めて聞きましたよ』


 ここまで言われれば、博孝も止める言葉を持たなかった。その代わり四人に対して『活性化』を発現すると、視線を切る。


『おいおい……君に『活性化』を使わせたら意味がないじゃないか』


 咎めるように福井が言うが、博孝は聞く耳を持たない。ひらひらと手を振り、福井達を促す。


『操られた味方全員に『活性化』を使うとしたら、この何倍も消耗しますから。それに、その『活性化』は十分ぐらいしかもたないので、途中で切れたら自力で頑張ってください』

『……この状況で制限時間を設けるとか、相変わらずスパルタだね』


 そう言って互いに小さく笑い合うと、博孝は清香へと、福井は操られた味方へと視線を向ける。


『頼みましたよ、先輩』

『任されたよ、後輩』


 福井の言う通り、一個小隊で一個大隊近い人員を気絶させられるのならば最良と呼べるだろう――成功するならば。

 それでも、少なくとも一時的に後方からの攻撃が福井達に集中する。ならばその間に敵陣を突破するべく足掻くべきだ。


(でも、なんでかね……)


 後方からの攻撃を引きつけるだけでなく、本当に全員気絶させそうだ。かつての福井が相手だったならばそんな風には思えなかったが、今の福井には背中を預けられると博孝は思う。


「さて、と……それじゃあ“先輩方”に負けないよう頑張りますか!」


 福井達に発現した『活性化』によって消耗した体力以上に、気力が充実するのを感じる博孝だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。