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平和の守護者(書籍版タイトル:創世のエブリオット・シード)  作者: 池崎数也


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第二百四十七話:武神

 日本ES戦闘部隊監督部から飛び立った源次郎は、引き連れている部下達が出せる最高速度に合わせて空を飛ぶ。源次郎自身はまだまだ余裕があるのだが、日本ES戦闘部隊監督部に所属している『ES能力者』の技量は一流の者達と比べると高くない。


 戦闘技術よりも指揮能力等に重きを置いており、有事の際には源次郎と共に情報の収集や整理、各部隊への指揮を行うのだ。源次郎の護衛を兼ねてもいるが、護衛よりも護衛対象の方が遥かに強いため、高い練度を求められていないという側面もある。

 それでも通常の水準から見れば高い練度であり、空戦ということで出撃する源次郎に随行することが許される程度には腕が立った。


 普段はデスクワーク中心なのだが、源次郎の“気晴らし”に付き合わされることもあって練度を維持しているのである。源次郎を含めて一個小隊だが、連隊に立ち向かうと知っていても怯えないぐらいには修羅場も潜っていた。


 源次郎がそんな部下を率いて現場に急行すると、『探知』の範囲に大量の『構成力』を感じ取る。出撃があと一分遅ければ市街地まで到達していただろうが、辛うじて海上での迎撃が間に合ったのだ。

 敵の数は室町と山本が予測した通り、一個連隊に届くだろう。海上に視線を向けてみれば、十隻もの艦船が沿岸部へ接近してきている。どうやら報告通り、海上に展開していた護衛艦群を壊滅させた上で突破してきたらしい。


 だが、相手の布陣を見て気になる点があった。敵の上陸に間に合ったのは喜ばしいのだが、侵攻のためではなく迎え撃つために布陣しているのだ。

 後方に艦船を等間隔で並べ、『ES能力者』達を前面に展開している。『ES能力者』は大隊ごとに横隊を組み、急行してきた源次郎達から見れば艦船を含めて四列の横隊で構えているのだ。


「……こちらの接近に気付いていたか」


 そう呟くものの、少々腑に落ちない。源次郎達の接近に気付いてから布陣したのだとすれば、あまりにも動きが速すぎる。

 源次郎達が出てくることを事前に知っていたのか、それとも源次郎すらも超える『探知』範囲を持つのか。この状況では前者のように思えたが、源次郎の勘は後者だと囁く。


 事前に源次郎達の出撃を知ることができたとしても、一直線に飛んでくる保証はないからだ。たしかに源次郎は部下の最高速度に合わせて飛んできたが、後方からの攻撃を警戒して高度を取らず、途中で標高が高い山々の間を通るなど直線では飛んでいない。


(宇喜多の報告にあったな……)


 そこで源次郎は宇喜多からの報告を思い出す。所属不明艦が出没するようになってからは太平洋の南方を中心に活動していたが、宇喜多の『探知』範囲を超えた距離からつかず離れず、牽制に努めている存在がいたと。

 『零戦』に所属するような一流の『ES能力者』でさえ、『探知』の範囲は最大で十キロメートル程度。源次郎も彼らと大差はなく、『探知』範囲は十キロメートルを僅かに超えるぐらいだ。


(特殊なのか、そういった独自技能を持つのか……)


 宇喜多からもそういった報告を受けていたが、源次郎も納得せざるを得ない。源次郎達の接近に対してここまで正確に布陣するとなると、通常の『探知』以上の索敵範囲を持たなければ不可能だ。

 源次郎はその立場上、携帯電話による位置情報の確認も不可能である。本来は日本ES戦闘部隊監督部に詰めているのも理由の一つだが、源次郎が“どこにいるか”というのも日本にとっては重要な情報だからだ。

 最古にして最強の『ES能力者』の動きは他国からも注目されており、それが故に日本としても源次郎の情報は隠すようにしている。


 そして、そんな源次郎の予想を証明するように、敵方には『探知』に特化した『ES能力者』がいた。


 彼の名はファイター。『天治会』の第三空戦部隊隊長にして、連隊の指揮を任された者だ。本来は索敵範囲の広さを有効活用した電撃戦が得意なのだが、源次郎の“足止め”を任されているのである。

 率いる連隊の技量は平均を多少超える程度だが、源次郎が出撃するとすれば率いる部下の数が少ないのは事前に把握済みだ。そのため質よりも量で抑え込むことを求められ、ファイターに白羽の矢が立った。


 いくら相手があの『武神』と云えど、何十倍もの戦力をぶつければ拮抗状態には持ち込めるだろう。彼らはそう判断し――それが如何に甘い考えかを思い知る。


「厄介な能力だが、俺の前に姿を見せたのは間違いだったな」


 統率された動きで陣を敷く連隊を見据えつつ、源次郎は腰元の『斬鉄』を抜き放った。その刀身は沙織が持つ『無銘』よりも遥かに長く、一メートル近い。陽光を反射する刀身は磨き抜かれており、傍目から見てもその鋭さを感じさせた。


「お前達は敵の牽制に努めろ。陸地に向かう者があれば押さえ込め」


 部下に指示を出し、源次郎は『斬鉄』を担ぐようにして上段に構える。それと同時に源次郎の体から巨大な『構成力』が発現し、大気を揺らした。

 源次郎の動きに気付いたのか、連隊から一斉射撃が飛んでくる。手数よりも威力を優先したのか、百発を超える『狙撃』と『砲撃』が源次郎目掛けて飛来した。


 それぞれの技量は高くなくとも、数が集まればそれだけで脅威である。もしも直撃すれば山の一つや二つは消し飛ぶだろうが、源次郎が慌てることはない。


「――はあぁっ!」


 鋭い呼気と共に『斬鉄』を真横へと振り抜き、更には縦の振り下ろしを加えることで十字の斬撃を放つ。しかしいくら刀身が長いといっても『斬鉄』は大太刀でしかない――が、斬撃の直線上に存在していた『狙撃』と『砲撃』が両断され、その場で爆散した。

 『斬鉄』の間合いよりも遥かに遠く、『飛刃』を放ったわけでもない。それだというのに数百メートルの距離を無視して敵の攻撃を叩き斬った源次郎に、連隊の中でも驚きの声が上がった。


 『武神』と呼ばれ、世界的にも有名な源次郎だが、その戦い方を知る者は意外と少ない。その理由は単純で、対峙した者はほぼ確実に死んでいるからだ。

 日本の中でも源次郎の戦い方を熟知しているのは『零戦』のメンバーや柳、指揮を執る山本ぐらいである。ある程度の戦い方は知られていても、“本気”を出した源次郎と戦って生き延びた者は片手の指で数えられる程度しかいない。


 そのため、ファイターは知らなかったのだ。この場に配置されるということは、死地に踏み込むも同然だということを。


 敵の攻撃を防いだ源次郎は『斬鉄』を構え直すと、再度斬撃を繰り出す。敵の『ES能力者』達はその動作に何があるのかと身構えたが、何も起きない。

 互いに顔を見合わせて何もないことを確認すると、再度攻撃を行おうとする。


「……え?」


 だが、そこでようやく気付く。位置取りを変えながらES能力を発現しようとしたものの、体がついてこない。それどころか胴体の端から少しずつ血が溢れ出し、赤い線が一本走ったかと思うと盛大に血が噴き出した。

 それは一人の身に起こったことではなく、同時に五人の腹部から血が噴き出してゆっくりと上半身と下半身がずれていく。


「う……うわああああああああぁぁっ!?」


 突然の出来事に、実戦経験の浅い者が悲鳴染みた声を上げた。それまで隣にいた者が両断されれば仕方ないことだろうが、『斬鉄』を構え直した源次郎からすれば隙だらけである。


「俺を相手にして暢気に隊列を組むとはな……」


 源次郎はそう呟きながら『斬鉄』を何度も振るい、その度に血の花が敵陣に咲く。ファイターは射撃系ES能力を同時に放つことで圧殺しようと考えていたが、その考えが悲劇を招いてしまった。


 源次郎の接近に関しては『探知』で感じ取れたが、源次郎が放っている攻撃は『構成力』が感じ取れない。『飛刃』を発現しているにしては飛来する『構成力』が存在せず、『斬鉄』を振るうなり『ES能力者』達の体が両断されている。


『くそっ、散開しろ!』


 ファイターが指示を出すが、部下達の動きは遅い。源次郎が『斬鉄』を振るう度に味方が死んでいるため、派手に動けば自分が死ぬかもしれないと恐怖しているのだ。

 そして、そのぎこちない動きは源次郎にファイターの位置を見抜かせる。『通話』で指示を受けて僅かとはいえ動いた者と、部下達に指示を出すことに気を取られてその場に留まった者。その差は大きく、一人だけ動かなかったファイターに源次郎が目をつけた。


 ファイターを指揮官だと見抜くと、その顔をしっかりと記憶する。通常の戦闘ならば真っ先に指揮官を潰すのだが、ここでファイターを殺せば部下達が統制を失い、バラバラに別れて侵攻してくる可能性があった。

 まとめて叩き潰すのは楽だが、百人近い『ES能力者』が別れて逃げれば厄介だ。そう判断した源次郎は、相手に恐怖を刻み込むよう無差別に斬り倒していく。中には防御を固める者もいたが、源次郎が『斬鉄』を振るう度に血煙を噴き出しながら落下する。


(ふむ……一番の手練れは指揮官か。数は厄介だが、質は並程度だな)


 部下を警戒に回し、自身は単独で連隊を相手取る源次郎。相手は源次郎の接近戦の技量を知っているため遠距離戦を仕掛けたのだが、ファイター達は既に源次郎の間合いに入っている。

 『探知』に優れたファイターが困惑するのも無理はない。源次郎は数百メートル離れている敵を、『飛刃』ではなく『斬鉄』で斬っているのだから。


 ――『空間操作』。


 これは『干渉』の上位技能に当たるが、源次郎は攻撃特化で使用している。『干渉』は周囲の空間ごと『構成力』に干渉して相手のES能力の発現を妨害する技能だが、『空間操作』は使用者の扱い方によって効果に差異があった。


 空間を歪めて相手を切断する。空間の歪みを利用して相手の攻撃を防御する。他のES能力とは異なり、空間を操作することで攻撃にも防御にも転用できる能力だ。

 源次郎の場合は己の斬撃で“空間を斬る”ことができる。『飛刃』のように遠距離攻撃として刃を飛ばすのではなく、彼我の距離を無視して空間ごと敵を切断することができた。その切れ味は『斬鉄』を用いた斬撃と同等であり、切断力では『飛刃』を超える。

 結果、数百メートル離れているにも関わらず、『斬鉄』を振るうだけで敵を両断するという離れ業を成しているのだ。


 源次郎からすれば、目視できる範囲内は全てが己の間合いである。さすがに無制限で間合いを伸ばせるわけではないが、数百メートル程度の距離ならば何の問題もない。

 この攻撃を凌ぐには『斬鉄』を用いた斬撃を防ぎ切れるだけの防御力を持つか、『空間操作』を用いて妨害するか、斬撃が放たれる瞬間に回避行動を取るしかない。例え武器などで防御しようとしても、『斬鉄』の切れ味と源次郎の剣腕は武器ごと敵を両断した。


 耐えきるには砂原や春日並の防御力が、『空間操作』を発現するには並外れた技量が、斬撃を回避するには優れた勘と並外れた体術の技量が必要となる。


 そして、ファイター達はその全てを持ち得ない。空戦の『ES能力者』としては並以上の技量を持ちつつも、一流と呼ぶには技量不足だ。ファイターは索敵能力に関して当代随一の能力を持っていたが、源次郎とは相性が悪すぎる。


『早く散れ! 死にたいのか!?』


 『通話』によって部下達に命令を下しつつ、ファイターは歯を噛み締めた。いくら『ES能力者』が個人差の大きい存在とはいえ、あまりにも能力に差がありすぎる。


 本来、戦いにおいて最も重要なのは個人の武勇よりも兵の数だ。歴史を紐解けば一騎当千の強者が活躍することで戦術的な勝利を収めることはあっても、戦略的な勝利までもぎ取ることは不可能に近い。

 『ES能力者』はその不可能を可能にする存在だが、それはあくまで相手が普通の人間の場合だ。『ES能力者』同士ならば一定以上の質と量を揃えれば、“大抵の”強者を打倒することができる。


 少なくとも、ファイターはそう思っていた。己の索敵能力を駆使し、的確な指揮を執れば大抵の敵には負けない、と。

 『天治会』の中でもラプターやラファール、フェンサーなど他の空戦部隊隊長と異なり、突出した戦闘技術を持たないが故に己の長所だけを磨いたファイター。しかし、そんな彼にとって源次郎はまさしく天敵と呼べる相手だった。


 『ES能力者』ならば知らない者はいない『武神』の名は、伊達ではない。目視圏内の全てが殺傷範囲であり、源次郎からすれば数の差は大きなハンデには成り得ない。ただ“的”が増えて斬るのが面倒なだけだ。

 もちろん、そんな源次郎も無敵というわけではない。源次郎の攻撃に耐える者、源次郎の防御を貫ける者、『空間操作』を用いた斬撃を回避できる者が存在するため、状況次第では敗北する可能性があった。


 ――この場にそれらの条件を満たす者は皆無だが。


「くそっ! 何が時間を稼ぐだけの簡単な仕事だ! 一番困難じゃねえか!」


 次々と斬り殺されていく部下を指揮しつつ、ファイターは心の底から毒づいた。


 『零戦』の各中隊を押さえ込んでいる者達は戦力を削ることも任務に含まれているが、ファイターは別である。相手が源次郎ということもあり、一定の時間稼ぎができればそれだけで任務達成となるのだ。

 与えられた戦力は使い潰しても良いと言われているが、時間稼ぎ自体が困難極まる。源次郎をこの場に誘き出すことはできたが、時間を稼ぐにはあまりにも技量が隔絶していた。


 あわよくば『武神』を討ち取ってしまおう。そんなことを考えていた過去の自分をファイターは殴り飛ばしたくなる。そして、それと同時に自身がこの場に配置された意味を理解してしまった。


(“ここまでくれば”俺はもう必要ないってのか!? あいつら俺を捨て駒にしやがって!)


 今回の命令を下したのは、『天治会』を牛耳る『星外者』だ。今回の戦いによって全てが終わると、これで最後だと言われ、意気揚々と任務に赴いたのである。

 与えられる部下が一個連隊にも及ぶと聞き、どんな任務でも達成できると思ったのが間違いだった。ファイターは心中で可能な限りの罵倒を並べたが、それが『星外者』に届くことはない。


『戦いの最中に考え事かね?』

「っ!?」


 未だに源次郎との距離は数百メートル離れている。それだというのに源次郎と目が合い、なおかつファイターの心境を見越したように『通話』で声をかけられた。

 ファイターがそれに驚く暇も与えず、源次郎は『斬鉄』を振り抜く。すると、それに合わせて体の中を“何か”が通ったように感じられ、次いで腹部に焼け付くような熱を感じた。


(ああ……くそ……結局は俺も“エサ”かよ……)


 そんなことを思いながら、ファイターは海面へと落下していく。最期にファイターが見たのは、源次郎の手によって既に半壊まで追い込まれている部下達の姿。ファイターが斬られたことで動揺し、その隙を突かれて更に刈り取られていく。

 その光景を見ながら、ファイターの意識は完全に途絶えた。そして、落下していくファイターから意識を外した源次郎は、残敵を切り捨てながらも慌てた様子で撤退しようとしている十隻の艦船に目を向けた。


『付近の部隊に連絡を入れ、拿捕の準備を進めろ』


 部下にそれだけを告げると、統率を乱している敵を斬り捨てながら突貫。真正面から敵陣を突破し、艦船の一隻に狙いを定めて急降下した。


「ふっ!」


 『斬鉄』と合わせて『武器化』を発現し、『構成力』による刀身を発現。その長さは非常に長大であり、気合いと共に振り下ろして艦船を両断する。

 切れ味は『斬鉄』に劣るものの源次郎の莫大な『構成力』で発現された刀身は、熱したナイフでバターを斬るようにして艦船を真っ二つに切り裂いた。その切れ味は、切り口が綺麗過ぎて真っ二つになった船が浸水しないほどである。


「日本ES戦闘部隊監督部の長谷川中将である。他の船に停船を呼びかけたまえ。断った船が一隻でもいれば全て沈めるぞ」


 威嚇のために艦船を叩き斬り、次いで、艦橋のガラスを破壊して突入。船長に『斬鉄』を突きつけながら笑顔で命令すると、今度は『通話』を発現する。


『それと、諸君らはその場から動かないことだ。妙な動きをすれば斬り捨てる』


 源次郎が正面を突破したことで混乱に陥った敵の『ES能力者』達にそう告げると、再度空へと舞い上がる。もしも逃げようと背を向ければ、そのまま斬るつもりだった。


(あとは付近の部隊に引き継いで帰還するか……)


 艦船の拿捕と『ES能力者』達から情報を引き出すための人員を待つ必要があるが、この場でてきることはもうない。源次郎は『斬鉄』を鞘に納めつつそんなことを考えるが、携帯電話が着信を告げたことで思考を打ち切る。


『長谷川中将閣下ですか? 小官は第五空戦部隊の町田空戦少佐であります』


 電話の相手は、第五空戦部隊を率いる町田だった。しかし、何故町田が電話をかけてくるのかわからず、源次郎は眉を寄せる。


『町田か。指揮は山本元帥閣下に引き継いだはずだが?』

『ええ……ですが、緊急性があると判断してご連絡いたしました』


 指揮を引き継いだ山本ではなく、源次郎に直接電話をかけてきた町田。その異常さに源次郎が何事かと思っていると、町田は僅かに躊躇してから告げる。


『対ES戦闘部隊が防備の薄い基地を占拠するべく動いています。さらに、近隣の陸戦部隊で同士討ちが発生。どうやら何者かに操られているようです』

『……なんだと?』


 その報告に、源次郎は耳を疑うのだった。








「……っ!?」


 『星外者』の攻撃によって海面へと落下した恭介は、着水した衝撃で意識を取り戻した。そして己の状況を確認すると、痛む体を無視して飛び上がる。


「はぁ……はぁ……くそっ、なんだありゃ……」


 全身を同時に殴打されたような衝撃と痛みに意識を失っていたが、まるで不可視の『爆撃』を受けたような気分だった。それでも戦意を奮い立たせるが、気を失う前のことを思い出して周囲を見回す。


「みらいちゃん!」


 すると、五十メートルほど離れた場所で海面に浮かぶみらいの姿を発見した。恭介は慌てて移動すると、みらいを海面から引き上げて息があることを確認する。ただし、恭介と違って着水の衝撃で目を覚ますことはなかったようだ。


 恭介はみらいを横抱きにすると、『接合』を発現しながら頭上を見上げる。博孝と沙織は、『星外者』はどうなったのか。戦いはどうなってしまったのか。

 意識を失っていたのはそれほど長い時間ではない。それならばまだ戦闘中の可能性もあり、気が抜けなかった。


 しかし、頭上を見上げても戦闘の気配はない。先ほどまで感じていた『星外者』の威圧感は消えており、その代わり、遠目に小さい人影が見えた。その人影は海面に向かって落下しており、目を凝らした恭介は驚きの声を上げる。


「沙織っち!?」


 恭介は慌てて飛行速度を上げるが、全身に走る痛みのせいで思うように速度が出ない。それでも沙織が海面に叩きつけられる前に滑り込み、片腕で抱き留めた。


「っ……傷が深い……しっかりしろ!」


 沙織の身に何があったのか、体の前面に大量の血が滲んでいる。それでも右手で『無銘』の柄を握り締めているが、刀身が半ばから折れていた。


「……ひ……ろ……たか……」


 沙織の口から博孝の名が零れ落ちたが、その声はあまりにもか細い。沙織は出血が酷く、このまま放置すれば死に至るだろう。

 恭介は外傷がないみらいの治療を中断すると、沙織の傷口に『接合』を発現する。だが、恭介の腕では焼け石に水であり、急いで正式な治療を受けさせる必要があった。


 沙織の様子と、姿が見えない博孝。そしてこの場を去った『星外者』のことを考えれば、恭介の脳裏に最悪の結果が浮かび上がる。


「博孝が……攫われた?」


 呆然と呟くが、現状ではそれ以外に答えが見つからない。沙織は博孝を取り戻すべく立ち向かったが、力及ばず敗北したのだろう。沙織が負った傷を見れば、『星外者』の力がどれほど高かったのかも窺い知れる。

 せめて『星外者』が去った方角だけでも知りたいが、その痕跡も見当たらない。それに加えて、沙織の容体を思えば調査も追跡も不可能だ。現状では『ES寄生体』に遭遇するだけでも危険だろう。


「博孝……」


 恭介は親友の名前を一度だけ呟くと、血が出るほどに唇を噛み締めながら撤退を決断するのだった。


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