第二百二十六話:戦いの爪痕 その2
即応部隊の負傷者達が搬送された軍病院。負傷者達の治療を担当した里香が気を抜けたのは、戦いから三日が過ぎてからだった。
「ふぅ……」
里香は病院の廊下に置かれたソファーに腰を下ろし、ため息を一つ吐く。その顔には疲労が滲んでいたが、同時に、難所を乗り切れた安堵も浮かんでいた。
「さすがに疲れた……かな……」
ロクに休息も取らず、負傷者の治療に追われていたのである。『構成力』も消耗しているが、それ以上に精神的な疲労が大きい。
治療を担当していた者達は全員峠を越えたため問題ないだろうが、まだ目を覚ましていない者もいる。そのため、目を覚ました時に備えて休憩を取っているところだった。
(ここまで安定したら大丈夫だと思うけど……)
『ES能力者』の頑丈さをよく知っている里香は、ここまで安定すれば負傷者の容体が変わることはないと思っている。しかし、それでも“もしも”に備えて警戒していた。
「お疲れ、里香」
「えっ、ひ、博孝君?」
そうやって里香がソファーで体を休めていると、野戦服を着込んだ博孝が声をかけてきた。博孝は基地で仕事中だと思っていた里香は驚くが、博孝はそんな里香に缶コーヒーを差し出し、それと同時に疲れと苦笑を混ぜた笑みを向けてくる。
「沙織から恭介が起きたって連絡があったんで、車を回してもらったんだ……まあ、病院についたのは一時間ぐらい前だったけど」
「……え? 武倉君、目を覚ましたの?」
博孝の言葉を聞いた里香は、思わず動きを止めた。それならば沙織かみらいが連絡をしてくるはずだが、何故連絡がなかったのか。少し休憩してから様子を見にいくつもりだったが、恭介が目を覚ましたのならばすぐに様子を見に行かなければならない。
博孝から受け取った缶コーヒーを飲んでいた里香だが、腰を浮かせて恭介の病室へと向かおうとする。しかし、それを察した博孝は苦笑を浮かべたままで止めた。
「みらいも沙織も気が動転してたみたいでなぁ……いや、気が動転してたのはみらいと恭介になるのか?」
何かを思い出すように目を細める博孝だが、付け足すように『恭介には責任を取ってもらうか』などと小声で呟いている。一体何があったのかと疑問に思った里香だが、治療を担当した者としては先に確認すべきことがあった。
「その様子なら武倉君も問題なかったみたいだけど……大丈夫だよね? みらいちゃんが何をしたかわからないけど、怪我が増えてたりしないよね? 博孝君も変なことしてないよね?」
「はっはっは。やだなー、俺が意識不明の重体だった仲間に手を出すわけないじゃないですかー」
笑顔で言い放つ博孝だが、それを聞いた里香は『本当かなぁ』と疑いの目を向けた。恭介とみらいの間に何があったのかわからないが、里香からすれば博孝の反応は怪しく見える。
そんな里香の視線に気付いた博孝は、咳払いをしてから表情を引き締める。
「それで、みんなの容体は? 復帰にどれぐらいかかる?」
砂原には恭介が目を覚ましたので様子を見てくると言ってあるが、他の負傷者についても気になるところだ。長期離脱者が一名いるとは聞いているが、他の者達もすぐに復帰できるわけではない。
博孝の質問を受けた里香は表情を陰らせると、視線を床へと落とす。
「……怪我の程度に関しては武倉君が一番マシで、一週間もすれば完治すると思う。他の人達も長くて二週間かからないかな……でも、怪我が一番酷かった人はわたしだと完治させるのが無理で……」
恭介は全身に火傷を負っていたが、怪我の範囲が広いだけで怪我自体はそこまで深くない。他の者に関しても完治させることが可能だが、一人だけ里香では完治させられない者がいた。
それは怪我の程度というよりも、種類の問題である。『支援型』として研鑽を積んできた里香だが、現在の技量では治せないものがあった。
「手足や指の欠損はわたしじゃ治せないから……『修復』か『復元』が使える人に任せることになるの。せめて切れた先が残ってれば別なんだけど、今回の場合は……」
『修復』や『復元』が使えない里香では限界があり、長期離脱者が負った怪我はその限界を超えるものだ。それでも一命を取り留めることができたのは里香の技量の賜物だったが、自分自身の限界を突きつけられた気分でもある。
もっとも、それを責めるのは酷だろう。程度の差はあれど、死の淵に瀕していた重傷者四人を“並行して”治療していたのだから。
己の技量を駆使し、通常の『治癒』だけでなく訓練中の“変化させた”『治癒』まで使ったのだ。効果範囲は狭くとも強力なため使用したのだが、それを始めて見た周囲の『支援型』の面々は驚いていた。
傷が深い、あるいは肉体の内部まで到達しているものは針状に変化させた『治癒』で内側から癒し、それと並行して外傷も端から塞いでいく。その手際は熟練の『支援型』に勝るとも劣らぬものだったが、里香がそれに気付くことはない。
「それに、治療にかかりきりで部隊の指揮が執れなかったのも……」
加えて、里香が気にしていることは他にもあった。それは部隊長補佐でありながら指揮が執れなかったことである。鈴木という上位者が控え、なおかつ治療に手を割かれていたため仕方ないとも言えたが、他に手を打てたのではないかと思っていた。
「みんながやれることをやったんだ。里香は軍医として味方の怪我を治していたし、今回は鈴木中佐もいた。他に指揮を執れる人がいたんだし、隊長も咎めたりはしなかっただろ?」
即応部隊の指揮を執るのは隊長である砂原だが、今回の事件ではラプターと交戦していた。士官である斉藤や博孝も同様であり、『いなづま』に残った里香には隊長補佐としての役割がある。
しかし、『いなづま』の艦長でもある鈴木がいたため、指揮に関しては問題がなかった。里香としても状況的に打てる手が限られていたが、後になって戦況を知った時は愕然としたものである。
自分にできることで博孝の隣に立ちたい、と思っている里香にとって今回の件は博孝、あるいは他の仲間との差を感じる出来事だった。
かつては同じ小隊の仲間として訓練生時代を乗り越えたが、即応部隊に配属されてからは違う道を歩んでいる。『飛行』が使えない里香に代わってみらいが小隊に入り、訓練校を卒業して一年も経たないというのに即応部隊の主力として数えられていた。
里香も軍医として、あるいは参謀として活躍しているが、博孝達の活躍が眩しく見え――それは博孝達から見ても同様である。隣の芝生は青いというべきか、互いが互いに『すごいことをしているな』という印象を抱いていた。
「それじゃあ里香の顔も見れたし、俺は負傷者全員の様子を確認してから基地に戻るよ。隊長に報告しないといけないし……仕事もまだ溜まってるし」
里香とある程度の情報を共有した博孝は、そう言ってから立ち上がる。負傷者全員が峠を越え、恭介も目を覚ましたが、それで仕事がなくなるわけではない。
みらいに関しては沙織が様子を見ているが、小隊長である博孝は今回の報告書だけでも何十枚と書く必要があった。
「うん……ごめんね? わたしもこっちの仕事が一段落したら基地に戻るから」
「そいつは心強い援軍だなぁ……期待して待ってるよ。でも、負傷者の治療で忙しかったし、無理はしない程度でな?」
そう言い残し、ひらひらと右手を振った博孝は歩き出す。その背中を見送る里香は、博孝自身も本調子ではないのだろうと思った。左腕と右足を庇っているような仕草があり、今からでも引き止めて治療をしようと立ち上がる。
「あ、里香ちゃん。ここにいたのね?」
そして、そんな里香を止めるようにして声がかかった。その声に気を引かれた里香が振り向くと、そこには共に負傷者の治療に当たっていた希美の姿がある。希美も長時間の治療で疲れているだろうが、声をかけてきたその姿は普段通りのものだ。
「今のって河原崎君?」
「はい、武倉君が目を覚ましたのでその確認で顔を出したそうです」
「ふーん……そうなんだ」
希美は博孝が歩き去った方向へと視線を向け、胸元に右手を当てる。それに何の意味があるのか里香にはわからなかったが、希美の表情には少しばかり不満の色が浮かんでいるように思えた。
「里香ちゃん以外に対しても労いの言葉があってもいいと思うんだけどなぁ……」
「……はい?」
拗ねたようなその物言いに、思わず里香は目を瞬かせる。希美の視線が向けられた方向へ目を向け、希美の顔を見て、再度目線をずらす。
(え? え? それって、まさか……)
“そういうこと”なのだろうか、と里香は内心で戸惑いの声を上げる。思わぬところに降って湧いた難敵に、里香は戦慄を禁じ得ない。だが、たしかに訓練生時代から希美は博孝のことを――。
「――そういえば里香ちゃん、治療中にすごいことしてたわよね?」
「……え?」
混乱する里香の思考に滑り込むようにして、質問が飛んできた。いつの間にか希美は里香へと視線を移しており、穏やかに微笑みながら問いかける。
「『治癒』を針みたいにして使ってたじゃない? わたし、普通の『治癒』しかできなくて……誰かに習ったの?」
「あ、いえ……自分なりの試行錯誤の結果といいますか……」
答えた通り、まだまだ試行錯誤の段階だ。一定の効果は見込めるが、技術として安定しているわけではないため、率先して他者に見せたことはない。
「へぇ……そうなんだ。すごいのねぇ……」
希美は感心した様子で何度も頷く。同じ『支援型』として里香の技術に対して称賛をしているだけ――のはずだ。
(……なに? なんだか、少し違和感が……)
頷く希美の姿、その笑顔に奇妙な引っかかりを覚えてしまう。里香はそれが何故なのかと思考するが、どうにも考えがまとまらない。
疲れているのだろうか、などと思いながらも思考を巡らせる里香。
「里香ちゃん? どうかした?」
「あ――いえ、なんでもないです」
しかし、微笑みながら向けられたその問いかけで、里香の中にあった違和感は消え失せたのだった。
「……そうか、武倉も目を覚ましたか」
軍病院から戻るなり報告を行う博孝だが、その報告を受けた砂原は手元の書類にペンを走らせながら返事をした。その目線は忙しなく動いており、それに合わせてペンも動く。
博孝も忙しいが、砂原の忙しさはそれ以上だ。部隊を率いる者として処理すべき書類は大量にあり、負傷者の確認を博孝に、部下の統率と訓練を斉藤と間宮に一任しているほどである。
「治療を担当した岡島少尉の話では、二週間もあれば全員復帰できるそうです。ただ、長期離脱者の一名。こちらはやはり、完治するまで時間がかかるとのことで……直接見てきましたが、俺も同意見です」
「だろうな……」
ため息を吐きつつ頷く砂原だが、そんな砂原が書いている書類は今回の任務で亡くなった部隊員の家族に送付する書類だ。任務の詳細は書けないが、誰がいつ、どのように亡くなったのかを書き込んでいく。
福井が『いなづま』へと運んだ仲間――その遺体は丁重に保管されているが、一名に関しては戦闘中かつ荒天の影響で遺体を回収することもできなかった。
戦闘空域周辺に展開している各部隊には捜索を依頼しているが、発見は絶望的だろう。
「お前の妹の様子は?」
「武倉軍曹が目覚めてから一時間ほど離れませんでした……いやもう、文字通り離れませんでした。それ以外は良くも悪くも“普通”でしたね」
「ふむ……」
書類の上を滑っていたペンを止め、砂原は顔を上げる。
「『大規模発生』の時も似たような感じだったが、今回もそうか?」
「それ以上です。恭介がみらいを庇って撃墜されたのは二回目ですからね……しかも今回は前回以上の負傷でしたから」
沙織に呼ばれて恭介の病室に駆け付けた博孝が見たのは、全力で恭介にしがみ付くみらいの姿だった。傍目から見ると、しがみ付くというよりもみらいが恭介を襲っているのではないかと思えるほどであり、博孝も反応に困ったものである。
一向に恭介を離そうとしないみらいを説得するのに時間を要したが、引き離した後も恭介の傍から離れようとしなかった。
困ったように話す博孝だが、それを聞いた砂原は僅かに表情を崩す。
「あの河原崎妹がそこまで感情を露わにするようになったと思えば、それはそれで感慨深いが……それが味方の撃墜で引き起こされたというのは看過できんな」
昔は無表情無感情だったみらいが、恭介の無事を喜んで泣くほどになった。少しばかり行動が過激だが、それでも何の反応もないよりは遥かにマシだろう。教官としてみらいを鍛えてきた砂原としても、素直に感情を発露するのは好ましい。
「あれも一つの成長ってやつですかね……いやまあ、“ソレ”を向ける相手が恭介っていうのは納得するやら反応に困るやら……」
「子どもの成長とはそんなものだ……が、今回の一件を見る限り、微笑ましいと片付けることもできんがな」
そう言って砂原は表情を引き締め、博孝から提出された報告書を取り出す。
「お前はその場にいなかったが、河原崎伍長が暴走したのは武倉軍曹の撃墜が原因と見て間違いないだろう。『ES能力者』は感情の変化が大きく影響するが、あれほどとなるとさすがに問題だ」
「たしかに」
比較的近くにいた博孝や沙織だけでなく、何百キロと離れていた源次郎まで“異常”に気付いたのだ。情報を集めてみると、太平洋に展開していた宇喜多からも問い合わせが来ている。
砂原は報告書に目を通しつつ、博孝には情報を伝えておくべきだと判断して口を開いた。
「ラプターから得られた情報だが、河原崎伍長の出自に関しては『天治会』が絡んでいた。そして、今回の一件で興味を失ったらしい」
「……それは、どういう?」
「ラプターの話を信用するならば、世界の平和のためにはお前と妹が必要“だった”らしい。しかし、今回の一件で妹の方は外れた……そう言っていたな」
淡々と語る砂原だが、ラプターの言葉を信じるとしてもどんな意図があるのか。博孝としても、世界の平和のために自分が必要と言われてもピンとこない。
「フェンサーは祖国のために、なんて言っていましたが、どうにも『天治会』の目的が見えませんね」
「フェンサーか……山本元帥閣下が外務省を通じてロシアに対して抗議したそうだが、『猛毒』はロシア国内で“任務中”だったそうだ」
「任務中ですか……それはこっちに対する皮肉ですかね?」
その任務がどんなものだったのか、是非とも開示してもらいたい。博孝と砂原はそう思ったが、開示を要求しても通らないだろう。
「『天治会』にどんな考えがあるのかわかりませんが、迷惑な話です」
「だが、今回の件で『天治会』が一枚岩ではないとわかった。藤堂大佐のところに来たラファールも、私怨の面が強く見えたという話だったしな」
今回の任務に関わった者達に関しては、随時情報の共有を行っている。事件からまだ三日ということで全ての情報が出揃ったわけではないが、これまでは見えなかったものも見えてくるだろう。
「まあ、この辺りに関しては岡島少尉が戻ってきてから検討するとしよう」
「ですね。俺としてもそっちの方が助かります」
里香ならば新しいことに気付くかもしれない。そんな期待を込めて首肯する博孝は、一区切りついたと判断して次の話題に移る。
「あとは部隊の士気に関してですが……」
「精神的な影響が大きいな。特に福井軍曹の落ち込みが激しい。斉藤に任せてはいるが、最悪の場合異動させる必要があるかもしれん」
「……そこまでですか。長谷川曹長がきついことを言ってしまったと聞いていますが」
仲間を失って呆然としている福井に対して沙織が発破をかけたことは、博孝も報告を受けている。だが、それは発破と呼ぶには過激すぎた。
沙織としては福井を奮い立たせたかったのだろうが、逆効果としか思えない。博孝とて、もしも小隊の仲間を――沙織や恭介、みらいが死ぬところを見てしまえば、膝を折ってしまうかもしれないのだ。
斉藤ならば上手くフォローするだろうが、後で博孝も声をかけておくべきだろう。沙織がそこまできつく言ったのは、博孝が『可能ならば援軍を連れてきてほしい』と言った側面もある。
(でも、どのみち援軍として役に立つかは……)
そこまで精神的に傷ついていたのならば、無理矢理引っ張ってきても満足に動けなかっただろう。それを思えば、冷たく突き放した沙織の判断は正解と言えるかもしれない。
結果論に過ぎないが、援軍を求めた博孝もなんとか切り抜けることができたのだ。
ただし、今回は危うく恭介が命を落とすところだった。博孝も過去に何度か死に掛けたことがあるが、今回の場合はみらいが暴走しなければフェンサーと一時休戦することもなく、沙織を恭介の救出に向かわせることもできなかった可能性が高い。
味方の死、同じ部隊の仲間の死、友の死――あるいは最愛の人の死。それは博孝が思っているよりも身近に存在する。特に博孝は『天治会』に狙われる身であり、今後も危険な目に遭う可能性が高いだろう。
死ぬつもりは毛頭なく、殺されるつもりもない。ただ、そうは思っても自分の意思だけではどうにもならないこともある。
「どうかしたか?」
「いえ……部隊の仲間が命を落としたことは痛ましいですが、小隊の部下が一人も命を落とさなかったことが……」
考えを打ち切り、誤魔化すように言葉を濁す博孝。これも本心ではあるが、さすがに全てを告げるのは不謹慎だろう。いくら命を落とさなかったとはいえ恭介が重傷を負い、博孝と沙織も負傷している。部下が命を落とした砂原の手前、素直に喜ぶこともできない。
そんな博孝の葛藤を見抜いた砂原は、労わるようにして小さく笑った。
「そうだな……だが、独自技能保持者二人を相手にしてよくぞ生き延びた。いくらイレギュラーがあったとはいえ、お前達も頼もしくなったものだ。訓練校でお前達を鍛えた身として、鼻が高いぞ」
「あ、や、いえ、そんな……」
思わぬ直球での褒め言葉に、博孝は焦ったように首を横に振る。しかし、砂原からすれば褒めるに足る出来事だったのだ。
いくらみらいのことがあったとはいえ、相手は『猛毒』の名で知られる熟練の『ES能力者』。ベールクトも独自技能の『火焔』を持つが、積み重ねてきた経験は雲泥の差だ。
早々に『アンノウン』を仕留めて二対一に持ち込んだとはいえ、こうして生き延びている以上、砂原から言えることはない。本当によく成長したものだ、と嬉しくも誇らしく思う。
「ただ、いくら成長したと言っても上には上がいる。そのことを胸に刻み、驕ることなく精進しろ」
「了解であります」
最後に忠告をしてくる砂原に頷きを返し、博孝は砂原の元を辞した。博孝が片付けるべき仕事もまだまだ残っており、再び書類の山と格闘しなければならないのだ。
「みらいに対する“興味”はなくなった、か……そうなると、俺に対してはどうなんだか」
表情を引き締め、博孝は一人呟く。これまで得た情報を総合すると、どう転んでも良い方向には進まないだろう。
『ES寄生体』に『ES寄生進化体』、敵性の『ES能力者』に『アンノウン』。挙句の果てに独自技能保持者も出てきた。こうなると、“それ以上”も有り得るのではないかと思ってしまう。
「……今度、時間ができたら身辺整理しとくか」
即応部隊に入ってから遺書を書かされたが、その時は特別気にすることもなく書き上げた。だが、これまで何度も危地を乗り越えてきたが、今後もそうであるとは限らない。易々と殺されるつもりはないが、戦いに絶対はないのだ。
――それならば、“悔い”が残らないようにしておくべきではないか。
「……いかんいかん。そうやってマイナスに考えるのは俺らしくないな。ポジティブにいこう」
さしあたっては書類仕事を片付け、斉藤や間宮に合流して部隊員のケアに努めるべきだろう。博孝はそう自分に言い聞かせ、足取りも重く執務室へと向かうのだった。




