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平和の守護者(書籍版タイトル:創世のエブリオット・シード)  作者: 池崎数也


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第二百四話:要請 その9

 ラプターの右腕が宙を舞う。

 その光景を前に、ラプターと柳はほぼ同時に表情を変えた。


 柳はラプターの右腕を斬り飛ばしたものの、抜き放った刃がラプターの体を両断しなかったことに疑問を覚える。砂原が発現する『収束』とぶつかり合ったのならばまだ納得できるのだが、ラプターが発現していたのは『防殻』だけだ。

 ラプターは右腕に『構成力』を集中させていたが、“その程度”で居合抜きの刃が途中で止まったのは柳としても驚きである。これまで幾多もの『ES能力者』や暗殺者を斬ってきたが、今の一閃は手加減などしていない。


 放てば必殺となるであろう一撃であり、事実、これまでに柳の居合抜きを耐え抜いた敵はいなかった。

 源次郎や砂原と模擬戦をすれば防がれることもあったが、それはあくまで模擬戦の話である。互いに全力で戦うとしても、無意識の領域で力をセーブしている。

 そして、この結果はラプターとしても予想外だった。


「……“この程度”、か」


 柳から距離を取り、宙に飛んだ右腕をキャッチしてからラプターが呟く。柳の放った斬撃はその威力を示すように切れ味が鋭いものであり、数秒遅れてラプターの右腕から血が噴き出た。

 しかし、それだけである。ラプターは死んでおらず、斬られた右腕を傷口に当てながら『治癒』を発現して強引につなげていく。出血を止め、斬られた部分を固定する程度の効果しかないが、ラプターにとってはそれだけで十分だった。


 柳の居合抜きの鋭さも、ある意味ラプターに味方する。かつて左腕を飛ばされた博孝と異なり、自分自身で治療できるほどに切り口が綺麗だったのだ。まともに動くようになるまで時間がかかるだろうが、それでも一週間もかからないだろう。


「この程度……だと?」


 ラプターの呟きを拾った柳の顔が、凶相へと変じる。右手で握る刀の柄がミシミシと軋んだ音を上げ、射殺さんばかりに鋭い視線を叩きつけた。だが、ラプターはそれに構わない。

 むしろ何かを考え込むように目を細め、眼下で行われている『アンノウン』と博孝達の戦いを眺めた。まるで柳から興味を失ったかのような態度に、当の柳はこめかみに青筋を浮かべる。


「――貴様、侮るか」


 刀と『柳刃』を鞘に納め、今度は『柳刃』で居合抜きの構えを取りながら柳が憤怒の声を漏らす。それに合わせて莫大な『構成力』が溢れ、柳の周囲の空間を陽炎のように揺らがせた。

 そんな柳の剣幕に、ラプターの隙を突こうとしていた斉藤が動きを止める。下手に攻撃を行えば、斉藤ごと斬られそうなほどに柳の気配は剣呑だ。ラプターは柳の紅蓮のような殺意に対し、淡々とした口調で大量の油を注ぐ。


「ふむ……『穿孔』と同程度の技量と聞いていたが、どうやら奴ほど厄介な存在ではないらしい。相性の問題かもしれんが……俺としても、腕の一本で済むとは思わなかったぞ」


 自らの腕が斬られたというのに、ラプターの様子に変化はない。むしろ、右腕一本で済んだことに落胆している節すらある。

 柳はそんなラプターの様子を怪訝に思うものの、殺意を緩めることはない。隙あらば斬りかかろうと考えており――そんな柳に対し、ラプターがため息を吐くように言う。


「鍛冶ばかりで腕が落ちているのか……これならば穴倉にこもって鍛冶だけをしていれば良かろうよ。もっとも、作ったのがナマクラでは意味がないが」

「…………」


 ラプターの言葉に、怒りの形相だった柳の顔から表情が抜け落ちる。握り潰してしまいそうなほどに強く『柳刃』を握っていた右手から、力が抜けた。

 怒りの沸点を容易く飛び越え――飛び越えすぎたために、逆に思考が冷静になる。ただし、怒りを失ったというわけではない。常人ならば向けられるだけで失神しそうなほどに苛烈な殺意を視線に乗せ、ラプターを静かに見据える。


「……解せねえな。お前ら『天治会』の目的も、お前自身の目的も、まったく見えねえ。俺の命が目的かと思ったが、どうにも違う……何が目的なんだ?」


 心の中は殺意で占められても、頭は冷静にそう尋ねた。ラプターはそんな柳の言葉に何も答えず、視線を周囲に巡らせる。


 数えきれないほどの実戦経験を持つ柳でも、腕一本斬り飛ばされれば何かしらの思いを抱く。しかしラプターにそんな様子はなく、柳の問いかけにも答えないで周囲を見回すその姿は異常の一言に尽きた。

 それでも、柳はラプターの挙動やこれまでの言動から思考を巡らせていく。ラプターだけでなく、襲撃者全体の目的は不明。襲われることに慣れている柳からすれば、違和感極まりないその行動。


 遠くでは砂原とベールクト達による戦いの激しさを物語るように轟音が響き、紅蓮の炎が夜空を赤く染めている。柳の眼下では博孝達と『アンノウン』による戦いが続いており、その様子は目視できた。

 ラプターの挙動に注意を払っていた柳は、その意識がある方向に向けられていることを見抜く。柳と斉藤に前後を挟まれているにも関わらず、右腕が満足に動かない状況にあってなお、意識を向けている相手。


「――どうした? 河原崎の坊主が気になるのか?」


 その“意識の先”を正確に見切り、揺さぶりをかけるように柳が言う。だが、ラプターに変化はない。柳や斉藤が動けば即座に対応できる程度に意識を払いつつも、その意識は博孝に向けられていた。

 斉藤は『通話』を使わず、アイコンタクトを柳に送る。ラプターは斉藤に背を向けているが、攻撃を仕掛けるには隙がない。故に攻撃を仕掛けるなら柳と同時にと思ったのだが、斉藤の予想に反して柳は動かなかった。


 動くに動けず、かといってこのまま動かずにいるわけにもいかず、斉藤は少しずつラプターとの距離を詰めていく。眼下では博孝と沙織が『アンノウン』を仕留めているが、まだまだ数が残っているため、早めに助太刀しなければならないのだ。


「……まだ“早かった”か」


 そんな斉藤の葛藤を制するように、ラプターが呟く。その言葉が誰に向けられたものかはわからなかったが、ラプターは顔を上げて柳を見据えた。


「任務は“おおよそ”完了した。俺は退かせてもらうとしよう」

「……逃げられると思うのか?」


 『柳刃』の柄に右手を這わせたままで柳が尋ね、それに合わせて斉藤もラプターを強襲するべく前傾姿勢を取る。ラプターの目的はわからないが、右腕は封じたのだ。ここで仕留めるべきだろう。

 柳の攻撃でも仕留められなかったのは気にかかるが、他にも手はある。『収束』を発現した斉藤の攻撃力も、柳にそう劣るものではないのだから。


 柳と斉藤は示し合せることもなく同時に動き、ラプターへと襲い掛かる。可能ならば生きたまま捕らえたいが、そんな考えでは痛手を負うだろう。そのため、一撃で仕留めるべく全力で攻撃を仕掛ける。

 そんな二人に対してラプターが取ったのは、戦域からの離脱だ。それまでの静けさが嘘のように、全速で逃亡を始める。


 柳と斉藤に対して『射撃』による光弾をばら撒き、さらには『砲撃』によって視線を遮るなり『構成力』を隠して離脱。速度に物を言わせ、掻き消えるような速度で姿を消す。

 その逃げっぷりに困惑したのは、柳も斉藤も同じだった。二人からすればラプターの行動が理解できず、目的が読めない。


 逃げると言いつつ柳を仕留めるべく攻撃を仕掛けてくる――それぐらいのことはすると思ったのだが、言葉通り逃げの一手だ。

 『構成力』を完全に隠した状態で逃げられれば、発見は困難である。ただでさえ視界が利かない闇の中なのだ。


「ちっ!」


 速力の差もあり、追いつくのは容易ではない。それ故に、柳と斉藤は咄嗟に追撃を行う。

 柳は『柳刃』による『飛刃』を、斉藤は『狙撃』と『砲撃』を放った。しかし、それらの攻撃が命中した様子はなく、夜の闇の中へと消えていく。

 柳としては全力で追いかけて仕留めたいところだが、自分の立場を弁えている。斉藤としても護衛対象である柳を放置してラプターを追うわけにはいかず、歯噛みをしながら携帯電話を取り出した。


「近隣の部隊に連絡を入れて警戒網を敷かせます……無駄に終わりそうですがね」

「完全に気配を隠せる以上、望み薄だな」


 柳は抜いた『柳刃』を鞘に納めつつ、吐き捨てるように言う。胸中では相変わらず怒りが渦巻いているが、一撃で仕留められなかったのは自分自身の責任だ。

 居合に使用した刀がもう少し切れ味の良いものならば話は別だったかもしれないが、今更何かを言って結果が変わるわけでもない。


「……くそったれめ」


 柳は自分の右手に視線を落とし、有り余る怒りを吐き出すのだった。








 ベールクトは眼前の光景を見て焦っていた。

 対峙するのは、『穿孔』の異名を持つ砂原とその部下達。率いるは一個中隊の『アンノウン』。数の上では三倍もの戦力だったのだが、その数の差を“容易く”引っくり返すことができる者が相手だったのは大きな誤算だった。


「ふむ……こんなものかね?」


 心臓を抉り、光の粒子へと変わっていく『アンノウン』をゴミでも払うように投げ飛ばしながら砂原が尋ねる。その表情には微塵も焦りがなく、淡々と尋ねる砂原の姿にベールクトは戦慄を抱く。

 砂原の技量に関しては、ラプターからも聞いていた。過去の戦歴や発現可能なES能力に関しても、多くの情報を得ていた。それらの情報を元に、ベールクト自身を含めた『アンノウン』一個中隊を率いてきたのだ。

 それだというのに、砂原の手によって既に二個小隊が壊滅している。数の有利さは消え失せ、同数での戦いになっていた。


 砂原に関する情報として、単独で空戦一個中隊を撃破したという話がある。それを踏まえれば一個中隊で対抗できないのは当然のように思えるが、ベールクトが率いているのは『アンノウン』だ。

 砂原が過去に殲滅した空戦一個中隊の練度はお世辞にも高いものではなく、『ES能力者』の数は多いものの練度は低い国の兵士達だった。それらと比べれば『アンノウン』はその頑丈さ、特性によって比べ物にならないほど厄介な戦力である。


 ――そんな『アンノウン』達を容易く屠る砂原こそを称賛すべきか。


 ベールクトは自身が操る『火焔』による熱気とは別の、単純な驚愕から汗を流す。ベールクトも砂原と何度かぶつかり合ったが、放たれる全ての攻撃が必殺と呼ぶべきものだった。特に『収束』が厄介であり、ベールクトには砂原の防御を抜く手段がない。


 莫大な『構成力』、訓練によって練り上げた技量、長年の戦いによる経験。それらも厄介だが、なによりも『収束』の攻略手段が見つからなかった。

 砂原が持つ莫大な『構成力』を“収束”させて発現した。言葉にすればそれだけだが、攻防一体でなおかつ『構成力』を消耗するわけでもない。

 収束した『構成力』を発射すれば話は別だが、基本的に『構成力』を身に纏っているだけであり、継戦能力にも優れている。そこに砂原の体術が加われば厄介という言葉では済まず、ベールクトは『穿孔』を相手にした場合の困難さを嫌というほど味わっていた。


「はぁ……はぁ……まったく、本当に素敵な方ですわね。ここまで差があるとは思いませんでした」


 乱れた呼吸を整えつつ、ベールクトは敬意がこもった笑みを向ける。流れた汗によって頬に髪が貼り付くが、それを払う余裕もなかった。その言葉に対する砂原の返答はなく、三人の部下と共に鋭い眼差しを向けてくる。

 その苛烈な眼差しに、ベールクトは内心で苦笑してしまう。以前交戦した博孝の技量を元に砂原の実力を予測していたのだが、まさか“ここまで”とは、と心底感心してしまう。


 体術、『構成力』、ES能力、指揮能力。その全てが非常に高いレベルでまとまっている。弱点らしい弱点も見つからず、放たれた『火焔』を気にも留めず、風でも掻き分けるような気軽さで突っ込んでくるその度胸は、ベールクトが体の芯から震えそうになるほどだ。


 対する砂原は、ドレスのところどころが破れたベールクトを冷静に見据えながら思考を巡らせていた。

 博孝からの報告では、ベールクトは高い学習能力を持つという。初めて見た『射撃』や『砲撃』をすぐに模倣し、『火焔』による火球や光線を放ってきたという話だ。

 もしもベールクトが『収束』すらも模倣することができるのならば、それは脅威になるかもしれない。だが、砂原は“それはない”と考えていた。


 『収束』を習得するために必要なのは、『構成力』の微細なコントロールである。それは『構成力』を飛ばす『射撃』や『砲撃』とは異なり、目で見て真似をすることができない技能だ。

 その点では『爆撃』も同様であり、ベールクトがそれらの技能を模倣することはできないと砂原は踏んでいる。そして、その予想を証明するようにベールクトが新たなES能力を使う兆候はない。

 『アンノウン』の数も減り、残るは三体。ベールクトと合わせても一個小隊でしかなく、同数ならばどう足掻いても負けはない。


「君には聞きたいこともある。投降したまえ。『穿孔』の名にかけて、悪いようには扱わん」


 故に、砂原はベールクトに降伏を促した。このまま戦闘を続けるならば、“強引に”捕縛することになるだろう。だが、みらいと似た容姿のベールクトを進んで痛めつけたいとは思わない。

 もちろん、抵抗するなら話は別だ。これ以上抵抗するのならば、物理的に抵抗できないようにしてから連行するしかない。『アンノウン』と異なり様々な情報を握っていると思われるため、その情報を吐かせる必要がある。


「今ならば捕虜としての権利を保障し、人道的に扱うと約束する。なんなら河原崎兄妹にも面会させよう……どうかね?」


 最後通牒として尋ねる砂原。その間も気を抜いておらず、もしもベールクト達が抵抗するならば即座に制圧できるよう注意を向ける。


「それはそれは……とても素敵なご提案ね」

「では?」


 ベールクトの反応は、予想よりも良い。どこか肯定的な雰囲気を発しており、砂原は重ねて問いかけた。しかし、ベールクトは首を横に振る。


「残念ですけれど、お断りですわ。わたしもまだ死にたくないので」

「……『天治会』からの報復が怖いのかね?」


 砂原がそう尋ねると、ベールクトは肯定も否定もせずに淡く微笑む。その微笑みが示すものが掴めず、砂原は眉を寄せた。


「例え『天治会』の者達が襲ってこようと、必ず守り抜こう。長谷川中将閣下にも協力してもらう。俺も君を守るに足る技量を示したと思うが……それでも頷けないか?」


 ここまで譲歩して頷かないならば、あとは力尽くで捕縛するしかないだろう。そう思った砂原だが、ベールクトは何故か砂原から大きく視線を外す。その姿は隙だらけであり、不意を突いて気絶させるべきか、と砂原が悩んだほどだ。


「あぁ……そうやって力任せに止めてもらえれば、どれだけ幸せでしょうね?」


 視線を外したままでベールクトが呟くが、その声は小さすぎて砂原にはほとんど聞き取れなかった。それでも否定的な気配が伝わったため、砂原はため息を吐いてから掌底を構える。

 そんな砂原に対し、ベールクトは構えもせずに視線を遠くに向けたままで口を開く。


「……時間ですわね」


 そう言うなり、ベールクトは『火焔』を発現して大量の炎を生み出す。その炎は渦を巻くようにしてベールクトを包み込み、それと同時に傍に控えていた『アンノウン』が砂原に向かって突貫した。


「っ! 敵を抑えろ!」


 ベールクトの行動を見るなり、砂原は部下に指示を飛ばす。それと同時に砂原は『アンノウン』の脇をすり抜けて手刀を繰り出し、竜巻のように逆巻く炎を“中身”のベールクトごと吹き飛ばすつもりで切り裂いた。

 だが、そこにベールクトの姿はない。『構成力』を解放することで炎を吹き散らすと、周囲の気配を探る。


「――おじ様でも“アイツ”に太刀打ちできるかどうか……」


 僅かにそんな声が聞こえたものの、砂原がベールクトを発見することはできなかった。








 襲い掛かってきた最後の『アンノウン』を仕留めた博孝は、『アンノウン』の心臓を貫いていた右手を乱暴に引き抜く。右手の中には歪な形をした宝石が存在し、それを確認した博孝は大きくため息を吐いた。


「これで最後、と……ったく、一体なんだったんだ?」


 地上の里香のもとへ宝石を投げつつ、そんなことを呟く。博孝の傍にいた沙織は血を払うように『無銘』を振るってから鞘に納め、博孝の呟きに同調した。


「『アンノウン』に違いはないみたいだけど……腕の方はお粗末だったわね」

「厄介なのは数だけだったな」


 そう言いつつ、博孝は頭上で行われていたはずの戦いに目を向ける。しかし、そこにいるのは柳と斉藤だけだ。ラプターの姿は既になく、影も形もない。

 『天治会』の目的が読めないのは相変わらずだが、今回はこれまで以上に目的がわからない。『付与』を施した武器弾薬の類と作業場が吹き飛ばされたのは痛手だが、柳が無事な以上は取り返しがつく。


 被害総額という点では目も当てられないだろうが、今回はイレギュラーな存在が多すぎた。それらの情報を得たことで相殺できればと思うが、“上”がどう判断するかわからない。

 護衛対象が真っ先に戦おうとするのも厄介な話であり、どれだけのイレギュラーが積み重なったのか。そこまで考えた博孝は頭を振り、それらの検討は後に回すことにした。


 戦闘は終息しつつあり、突如反旗を翻した第六空戦部隊の一個中隊も取り押さえてある。襲ってきた死体達――『アンノウン』も博孝と沙織の手によって排除済みであり、即応部隊と第六空戦部隊の余剰人員は周囲の警戒に当たっていた。

 博孝は第三空戦小隊をまとめつつ、『収束』を発現したままの右手に視線を向ける。


「それにしても、今回の『アンノウン』は脆かったな」

「え? これまでとほとんど変わらなかったわよ?」


 博孝の言葉に対し、沙織が不思議そうな顔で答えた。博孝が五体、沙織が三体の『アンノウン』を仕留めたのだが、互いの認識に差異があるらしい。

 気を抜かないままでその理由を考えた博孝は、視線を向けていた右手を強く握り締める。これまでの『収束』と大差ないが、『活性化』を集中させたその拳はどこか力強さを感じた。


 『アンノウン』の防御を貫くのも容易く感じたのだが――。


「……まあ、検証はあとだな」


 今はまず、事態の収拾を図るべきだ。『アンノウン』によって爆破された作業場は今も燃えており、消火する必要がある。他にも何人か怪我人が出ているため、それらの治療も必要だろう。


 博孝は思考を打ち切ると、沙織達と共に地上へ降りるのだった。


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