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平和の守護者(書籍版タイトル:創世のエブリオット・シード)  作者: 池崎数也


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第百九十八話:要請 その3

 柳の護衛任務に就いた即応部隊だが、博孝が率いる第三空戦小隊以外は“名目”通りに護衛任務を行う必要がある。それは第六空戦部隊と共同で行う形になるのだが、第六空戦部隊が請け負っているのは柳の護衛だけではなかった。

 日本各地に造られた、柳用の“作業場”。柳が訪れた際はその身を守り抜く必要があるのだが、与えられる任務は一つではない。東北地方に現れる『ES寄生体』の対処にも戦力を割く必要があり、小隊単位で各地を飛び回っているのだ。


 それでも、今回は即応部隊が護衛任務と称して駐屯している。空戦は増強一個中隊――博孝達を抜けば一個中隊しかいないが、部隊を率いるのはかの『穿孔』だ。第六空戦部隊の隊長は、良い機会だからと小隊および中隊同士での模擬戦なども企画している。

 即応部隊に所属する陸戦の者達も模擬戦を行うが、やはり陸戦と空戦では戦う土俵が違う。そのため周囲の警戒などを主な役割として振られており、護衛任務を全うしていた。


 柳の護衛に就いたのは、様々な実験の助手でもある博孝が率いる第三空戦小隊。他にも第六空戦部隊の者や対ES戦闘部隊が作業場の周辺を監視しており、蟻の一匹も通さないほどの警戒網を構築している。


「……で、なんで俺がここに呼ばれたんだ?」


 どこか疲れたような声色でそんなことを呟いたのは、野口だ。先行して飛び立った博孝達に陸路で追いついたものの、到着するなり呼び出されたのである。作業場に連れて行かれたと思えば、申し訳なさそうな博孝と興味深そうな顔をした柳と対面する羽目になった。


「いやぁ、柳さんの実験で腕の立つ兵士の方が必要でして……野口さんしか思いつかなかったんですよ」

「おいおい、歩哨をするよかマシだけどよ……あー、あなたが柳鉄心さんで? ご高名はかねがね。即応部隊付き対ES戦闘部隊、野口曹長です」


 締まらない顔で敬礼をする野口。そんな野口を頭から爪先まで眺めた柳は、面倒そうに手を振った。


「こっちは無位無官の一般人だ、気楽にしてくれ」

「それではお言葉に甘えて……おい博孝、一級特殊技能を持つ『ES能力者』が無位無官ってどう思う?」

「方便ってやつじゃないですか? 階級とかはないですけど、権力はあるみたいですし」


 柳の言葉を聞いて博孝に話を振るが、博孝は苦笑するだけだ。柳は二人のやり取りを見ていたが、何の宣言も前触れもなく、『柳刃』を抜いて野口へと斬りかかる。


「っと!?」


 柳が動いた瞬間、野口も動いた。咄嗟に太もものホルダーからコンバットナイフを引き抜くと、振るわれた『柳刃』を受け止める。しかし『柳刃』の切れ味には耐えられず、ナイフは半ばから下が両断されてしまった。

 それでもナイフの破壊を代償に斬撃は止まり、野口は即座にナイフの柄を投擲しながら地面を蹴って後退。一瞬でホルスターから拳銃を引き抜き、照準を柳に合わせる。


「……ふむ」

「ふむ、じゃねえ!? おい博孝、なんだこの人! いきなり斬りかかってくるとはどんな了見だよ!?」


 銃口を向けてはいるが、装填しているのは柳が作った対『ES能力者』用の弾丸だ。作った本人に効くとは思えず、近くにいる博孝へ助けを求める。

 柳は再び野口を観察していたが、やがて得心したように頷いた。


「河原崎の坊主に使える兵士を用意してくれと頼んだら、すぐにお前さんを推薦してな。かなり加減したとはいえ、最初の一太刀を凌げるとは思わなかったぞ。普通の人間にしておくのが惜しい腕だ」


 柳は満足そうに言い放ち、野口に背を向ける。野口は疲れたようにため息を吐くと、拳銃の安全装置を使ってデコッキングしてからホルスターに納めた。


「博孝……俺、部隊に戻ってもいいか? これなら歩哨の方がマシそうだ。折られたナイフについても補充の申請をしたいし……」

「いやもう、本当にすいません……」


 博孝としては謝罪するしかない。柳に『腕が立つ兵士』を呼んでくれと言われ、野口の名前を挙げたらこうなってしまったのだ。博孝が知る限り一番腕が立つため名前を告げたのだが、こうなるとは思いもしなかった。

 柳は二人に背を向けて作業台を漁っていたが、やがて口元に笑みを浮かべながら振り返る。


「いきなり悪かったな。だが、お前さんなら申し分ない。早速だがコイツをやろう」


 そう言うなり、柳は野口に対してホルスターに納められたナイフを差し出した。野口は胡散臭そうな顔をしながらナイフを受け取ったが、ホルスターから引き抜くなり目の色が変わる。


「コイツは……」

「ほう、わかるか?」


 ホルスターに納まっていたナイフは、先ほど野口が使用した物とは様相が異なる。柄は軍用ナイフと似通っているが、その刀身は全くの別物だ。ナイフというよりは刀――それも山刀(さんとう)の類である。

 刀身の長さは先ほど使用したナイフと大差ないが、造りが明らかに違う。一見すると包丁に近いように感じるが、用途は料理ではなく狩り――それも『ES寄生体』を狩るためのものだ。


 野口は無言で山刀の握りや重心を確認すると、指を滑らせ、手首を返し、曲芸のように手の上で転がす。そして最後には柄を握って止めると、柄から切っ先まで視線を向けた。


「良いナイフですね……コイツなら一本で五匹は『ES寄生体』を狩れそうだ」


 真剣極まりないその発言を聞き、作業場にいた兵士の多くが『賛辞が過ぎる』と思った。いくら『ES寄生体』との戦闘に特化した対ES戦闘部隊でも、普通は遠距離から仕留めるのだ。

 接近戦で『ES寄生体』を仕留めるような“酔狂”な者は、絶滅危惧種並にいない。


「その辺の量産品とは違うからな。協力の駄賃にコイツをやろう。お前さんのナイフは斬っちまったからな」

「え、いいんですかい!? なんだ、良い人ですねぇ旦那ァ!」


 斬りかかられたことなど忘れた、と言わんばかりに柳の肩を叩く野口。先ほど斬られたナイフはそれなりに愛用していたが、所詮は量産品だ。しかし、こちらは明らかに一点物である。


 『付与』で『構成力』を与えただけの量産品と比べると、桁違いの凄みを有するのだ。野口は山刀に込められた『構成力』を感じ取ることはできないが、対『ES能力者』用武装に触れるようになって長い。手の中の山刀が逸品であると見抜くことができた。


「ソイツは実験に使うからな。今の内に扱いに慣れてくれ。野口……と言ったな? 銃器の扱いは?」

「拳銃から機関銃、狙撃銃まで万遍なく使えますぜ。飛行型の『ES寄生体』でも撃ち落しましょうか?」


 山刀を受け取って上機嫌な野口は、揉み手でもしそうな様子で物騒なことを口にする。口を挟まずに話を聞いていた博孝は、『実験の基準』という言葉に首を傾げた。


「一体何をやるんです?」


 兵士の中では腕が立つ野口を呼んで、一体何をするというのか。本題を切り出す博孝に対し、柳は銃弾や刃物が並ぶ作業台を指で叩いた。


「検証だ。お前さんの『活性化』を受けてから『付与』を施した武器と、これまで通りに作った武器。それを『ES能力者』と普通の人間両方の感触から調べる。長谷川の嬢ちゃん」

「なんですか?」


 名目通り護衛に就いていた沙織だが、名前を呼ばれて近づいてくる。話は聞こえていたのか、沙織は野口が手に持つ山刀にチラチラと視線を向けた。


「そんなに物欲しそうな顔をすんなよ。お前さんには『無銘』をやっただろうが」

「良い物はいくつでも欲しいのです……それで、わたしは何をすればいいんですか?」


 自分にも何か役割があるだろう。そう判断した沙織が話を促すと、野口は作業場の中で忙しくなく働いていた兵士を呼び付けた。


「お前達二人には検証作業をやってもらう。通常通り『付与』した物と、『活性化』を受けてから『付与』をした物……その違いを洗い出してくれ。チェックリストはすぐに作らせる」


 呼びつけた兵士にいくつか指示を出すと、即座に走り去っていく。柳に無茶を言われることに慣れているのか、文句もなしだ。


「機関砲や艦砲も試してみたいが、撃つのは人じゃねえ。だから人の手でわかる範囲……銃器や刃物を振るった感触を確かめたい」


 そう言いつつ、柳は作業台に置かれた銃弾を並べ始める。拳銃用の銃弾だけでも口径の違いから複数種類、さらにはライフル弾。軍用ナイフも形や刀身の長さが異なる物が大量にあった。


「斬った時の感触、切れ味、扱いやすさ。銃弾は威力の違いがわかりにくいだろうが、引き金を引く時の感触に反動……調べることはいくらでもある」


 例え些細な違いだろうと、柳にとっては重要な要素らしい。刀匠が打った刀の切れ味を試すようなものだろうか、と博孝は思った。


「柳さんは参加しないんですか?」


 本人が確かめた方がいいのではないか。そう考えた博孝が尋ねると、柳は鼻を鳴らす。


「俺が振るえば鈍らも業物並に斬れちまう。拳銃の類は嫌いだしな。一応検証に参加はするが、それよりも作業を進めたいんだよ。俺以外の奴が使った感想を聞きてえんだ」


 それは職人としての感覚なのか、博孝にとっては理解しにくいものだった。それでも自分達の役割を理解して目を輝かせている沙織と、表情が暗いものに変わっている野口を見つつ、確認のために問う。


「ちなみに、その検証を行うための“実験相手”は……」

「『ES寄生体』に決まってるだろ? なんだ、斬っていい奴を用意できんのか?」


 対『ES能力者』用武装の検証をするのならば、巻き藁を斬っても仕方がない。銃弾に関しても、適当に用意した的を撃っても意味がないのだ。


「……一応、俺達は護衛ってことでここにいるんですが……」

「俺の身に危険を及ぼす“かもしれない”『ES寄生体』を退治するついでだ。問題はないだろう?」


 敵が襲ってくるのならばともかく、自ら狩りに行くのだが。そう言いたいのを飲み込み、博孝は問題点がないかを確認する。


(柳さんと『ES寄生体』が戦ったら、間違いなく後者の方が死ぬんだけど……いや、そういう方便だと思えばいいか)


 柳もある程度の配慮をしているのだろう。護衛任務を行っているはずの沙織が柳の傍を離れるのは問題だが、事前に危険の芽を摘んでいるのだと主張すれば良い。問題があるとすれば、それに付き合わされる野口の身の安全だが――。


「問題もなさそうですし、隊長に報告してきますね。報告が終わったら柳さんの作業に俺も参加しますんで」

「おう、そうしてくれや」


 日本ES戦闘部隊監督部に対しても、また、“上”に対しても問題はないと主張できる。柳が行うことは日本の国益にもなるかもしれないのだ。


「おい博孝、止めてくれよ……遠距離から仕留めるならともかく、実験のために『ES寄生体』とナイフ一本でやり合えっていうのか?」

「え? 野口さん、ナイフ一本で『ES寄生体』を狩れるでしょう? 『大規模発生』の時もそうだったって聞きましたし、俺達が卒業してからも防衛部隊で暴れていたそうじゃないですか。報告資料で見ましたよ」

「好き好んで接近戦を挑んだわけじゃねえよ! 『大規模発生』の時はナイフしかなかったんだ! 大抵は銃で仕留めるんだぞ!? 接近戦で倒した『ES寄生体』は二十匹ぐらいしかいねえよ!」


 叫ぶような言葉に、作業場にいた兵士は『それだけ倒せれば十分では?』と思った。拳銃とナイフを使って倒したのだろうが、普通は『ES寄生体』に接近戦を挑んだ時点で死ぬのだから。


「大丈夫ですよ、野口さん。わたしもサポートしますから」


 山刀を受け取った代わりに死地へ放り込まれそうになっている野口に対し、沙織は笑顔で告げる。野口は何か言おうとしたが、やがて諦めたように肩を落とすのだった。








 それからというもの、博孝達は優花に対して行った護衛任務とは全く異なる、桁違いの忙しさに襲われることとなった。


 『活性化』に関して実験を行いたいと思う柳だが、武器工廠から運ばれてきた銃弾や砲弾、刃物に『付与』を施すという仕事がある。その間、博孝は『活性化』の訓練と称し、常に最低限の効果で発現するよう言われた。

 全力で『活性化』を発現すると持続時間が短く、さらには効果が大きすぎてさすがの柳でも『構成力』の制御に失敗する可能性がある。そのためある程度の効果を維持しつつ、それでいて少しでも持続時間を伸ばすように言われたのだ。


 一度に『活性化』の『構成力』を渡すのではなく、最低限の発現で、常時発現し続ける。これは地味に疲れる作業であり、集中力に自信がある博孝でも辛いものがあった。

 博孝に求められたのは、倒れないギリギリの速度で自転車を漕ぐような慎重さ。全力で『活性化』を発現する、あるいは複数の対象に均等に発現する。そういった訓練は積んでいたが、常時最小限で発現するという訓練は積んでいない。

 柳は自分の感覚が少しでも狂えば即座に気付き、博孝に注意を飛ばす。ただ発現するのではなく自在に操作し、手足のように扱えるようになれと言う。


 今のところ柳が必要としているのは、作業時間の短縮だ。作業場に運び込まれてきた銃弾や刃物に『付与』を行うノルマが毎日設定されており、そのノルマを片付けなければ思うがままに実験もできない。

 そのための『活性化』であり、柳が慣れるまでは最低限度での出力を保ったままだ。手早く『付与』を施していく柳の傍で博孝は常に『活性化』を発現し、体力と神経をすり減らしている。


 並行して沙織と野口が『ES寄生体』を狩るために出撃しているが、こちらは砂原と第六空戦部隊に話を通し、基地周辺の治安維持だけでなく近隣の基地が担当している区域にまで足を伸ばしている。

 沙織には恭介をつけて出撃させており、さらには第六空戦部隊から余剰の人員も随行していた。『ES寄生体』を狩るだけならば、大きな問題はないだろう。ただし、空戦部隊員に担がれて空を飛ぶ羽目になった野口は大変かもしれないが。


 柳周辺の護衛に関しては博孝とみらい、それに加えて即応部隊の空戦一個小隊が交代しながら行っている。他の者達は第六空戦部隊と模擬戦を行ったり、駐屯基地の内部や周辺での警戒を行ったりと、通常の護衛任務とは異なる態勢で任務に挑んでいた。


(地味だけど滅茶苦茶神経を使うな、これは……)


 柳に対して『活性化』を発現しつつ、博孝はそんなことを思う。これまでは『活性化』を発現する際、どれだけ長く、強く発現できるかを考えてきた。身体能力の向上、ES能力の使用に関しては、弱いよりも強い方が良いからだ。

 しかし、柳が求めたことは細かく制御することであり、博孝があまり着目していなかった部分である。もちろん博孝も『活性化』の制御に関して手を抜いた覚えはないが、その制御も柳からすれば大雑把だったらしい。


 最大出力を百とすれば、あとは十の単位で制御していたようなものだ。柳が求めたのは一の単位で制御することであり、博孝は『活性化』を微細に制御しなければならない。

 大きな効果がある代わりに短時間しか使えないよりも、小さな効果で長時間――可能なら常に使えるようにした方が良い。それができれば、大きな効果を長時間発揮できるようになるかもしれないのだ。


「おにぃちゃん、おみず」

「ああ、ありがとうみらい」


 博孝が『活性化』の制御に注力していると、みらいがペットボトルに入った水を持ってきた。博孝が礼を言って受け取ると、みらいも“作業”に戻る。

 名目上は柳の護衛を務めるみらいだが、外見に見合わぬ膂力を持っている。試しに柳が『付与』を施す武器弾薬の運搬を頼んでみると、嬉々として従ったのだ。


 銃弾の一発一発はそこまで重くないが、量が増えれば非常に重くなる。また、艦砲に使用する砲弾などもあるのだ。作業場にいた者達は対ES戦闘部隊の兵士だが、さすがに大量の重量物を運ぶのは難しい。

 みらいは『付与』を行う物、行った物を軽々と持ち上げ、搬入口に待機している兵士達のもとへと運んで行く。運搬用の台車も用意されていたが、武器類を載せた台車を持ち上げて移動する有様だ。


 ちょこちょこと動くみらいの姿に最初は表情を綻ばせていた兵士達だが、自分達が持てないような重量物を軽々と持ち上げるのを見るなり、頬を引き攣らせた。外見は幼くとも『ES能力者』なのだと、改めて実感したのである。


「可愛らしい嬢ちゃんじゃねえか。普段はむさくるしい環境だが、少しは華やぐってもんだ」

「兵士の人達は顔が引き攣っていますけどね……」


 そう言いつつも、博孝は『活性化』の制御を緩めない。会話の影響で少しでも変化があれば、即座に柳から叱責されるのだ。柳もそれを狙っている節があり、気を抜くことができない。


 通常の『構成力』の操作に関しては、博孝もある程度自信がある。そうでなければ『射撃』を何十発も同時に発現できず、時間がかかるとはいえ『収束』を発現することもできない。

 だが、『活性化』の操作に関しては別物だった。僅かにでも集中を乱せば、即座に『活性化』が“波打つ”。仲間に対して発現する際は一気に『構成力』を渡していたため気付かなかったが、自分の『構成力』を渡し続けるというのは存外にきつかった。


 徐々に減る体力とは裏腹に、徐々に蓄積していく疲労。『活性化』の維持で集中力も削られ、制御を乱そうと暴れる。だが、博孝は意識を集中して制御を維持する。


「砂原のことだ、お前さんには『構成力』の増強と出力の強化ぐらいしかやらせてないんだろ?」

「ええ、まあ。使えば使うほど“慣れる”だろうって……」


 柳から振られた言葉に、博孝は曖昧に頷く。『活性化』を発現してからというもの、砂原には他者に気付かれないよう訓練を続けろとしか言われていない。みらいの精神安定のために毎日『活性化』を使っていたが、それも『活性化』の扱いに慣れるためだ。


 通常のES能力と異なり、『活性化』はどうやって鍛えれば良いかわからない。さすがの砂原でも独自技能の鍛え方まではわからず、『構成力』の量と質を増すための訓練を課し、積極的に使わせただけだった。

 これは博孝が通常のES能力を覚えるためである。『活性化』は補助であり、通常のES能力こそが主力だと砂原が考えたからだ。『活性化』の扱いに関しては、ES能力を覚える過程でも成長を期待できる。しかし、『活性化』だけではES能力が覚えられない。


 もしも博孝が訓練生時代から『活性化』の扱いに注力していれば、現在使えるES能力が減っていただろう。沙織のように尖った育ち方をしていたかもしれない。『活性化』をあくまで補助に、ES能力を会得する際の“コツ”として使用していた結果だ。


「独自技能保持者ってのは本当に少ないからなぁ。『進化の種』に適合しても、普通の『ES能力者』のまま死んだ奴も多い……おら、『活性化』の量が増えたぞ」

「すみません……あまり気にしたことはありませんでしたけど、日本の『ES能力者』で独自技能を持っている人はどれぐらいいるんですか?」


 『活性化』の制御が乱れたのを咎められたが、すぐに持ち直した。ついでに質問をしてみると、柳は『付与』を行いながら視線を遠くに飛ばす。


「全員が全員、情報を公開されているわけじゃねえからな……砂原の『収束』だって元々は独自技能だ。『武神』殿の『空間操作』も『干渉』を発展させた技能だが、一級特殊技能であり、独自技能でもある」

「んん? どういうことです?」


 一級特殊技能でありながら、独自技能でもある。博孝が疑問を覚えて問うと、柳は作業を継続しながら口を開いた。


「独自技能ってのは、使用者が一人しかいない技能だろ?」

「……“現在”使用できるのは長谷川中将だけってことですか」

「ご名答」


 砂原の『収束』とは、逆の事態が発生したのだろう。砂原は『収束』を部下に教えたことで使用者が増え、二級特殊技能になった。『空間操作』はその逆で、使用者が減ってしまったのだ。


「まあ、『武神』殿や砂原の奴はあくまで通常のES能力の延長だ。お前さんの『活性化』みたいに、“純粋”な独自技能じゃねえ」


 若干煙に巻かれた気がする博孝だが、それを口にすることはなかった。何かを言うよりも先に、柳が動いたのである。


「よし、これで今日のノルマは終わりだ。次に行くぞ、次に」


 それまでと異なり、柳は真剣な表情で博孝を促す。『活性化』を切った博孝はそんな柳の様子に首を傾げた。


「次……ですか?」

「おう。俺としてはここからが本番だ。仕事が終わったからには自由にさせてもらう」


 そこまで言うと、柳は真剣さの中に一筋の笑みを加えた。


「――刀を打つ。お前さんには俺の納得がいくまで付き合ってもらうからな?」


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