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採点

 田之上は部下の一人と、道路の反対側にある喫茶店からビルを見ていた。

 瀬央から連絡が入り、程なく瀬央がビルから出て行くのを確認する。


「さてと、」田之上は声に出して言った。「採点だ」二人は立ち上がり、会計を済ませ、店を出た。同行した部下は、瀬央を使うと田之上が宣言したとき、田之上に意見した男だった。


 田之上が、瀬央に甘い評価を下すのではないかと彼は思っていた。瀬央の《仕事》を見るまでは。 


 見開かれた坂田の目。

 その体に空いた、三カ所の弾痕。

 床に描かれた血の筋は、坂田が痛みをこらえて這いずり回ったことを証明している。

 防犯カメラはすべて壊されていた。


 これが、普通の高校生のする事か?

 田之上の部下は、何か冷たいものに背筋をなぞられたように感じた。自分がこの業界に入りたての頃は、イキがりながらもすべてに怯えていたはずだ。


 そして、机の上に置かれた、坂田の銃。

 おそらく、指紋は残っていないだろう。たとえ残っていたとしても、警察は、前科者リストにない瀬央の指紋が、誰のものか分からないはずだ。


 もしこの銃を瀬央が持って帰っていたら、田之上は瀬央を不合格にするつもりだった。

『銃はすでに持っているだろう』という理由で。

 そうすれば、これ以上自分の手で瀬央に罪を犯させずに済む。


 自分から瀬央を使っておきながら、勝手なものだと田之上は自分でも思う。

 弾倉を渡さない理由が、無くなってしまった。

 田之上は小さくため息をついた。


 満点をつけなければならない。

 二人は、何一つ状況を変えることなく、ビルを出て行く。


***

 

「とりあえず、合格だ」

 田之上は言った。約束の、弾丸で満たされた弾倉を手渡す。瀬央は微かに笑んだ。その微笑を、田之上は複雑な気持ちで見遣る。

「使い終わったら、銃はちゃんと返せよ」

 田之上は、満足そうな、それでいて表情の薄い瀬央に、そう続けた。

「わかってる」

 瀬央はただ一言、そう答えた。


 この少年は変わったと思う。いや、変えたのは自分か。

 出会ったときは、もっと表情たっぷりの、憎まれ口をよく叩く、口の減らない少年だった。思い詰めてはいたが。

 今は、思い詰めていると言うより、何かもっと質の悪いものに支配されているようだ。

 この業界に入って、殺すことになれ始めた時の自分も、こんな風だったろうか。田之上は、らしくもなく感傷的に思う。


 分かっていたことだ。そもそも、このくそガキは殺れる、と部下に宣言したのは自分ではなかったか。目的を達するまでは。

 目的を達したら、生きた痕跡さえ残さずかき消えてしまうんではなかろうかと思えるほど、今の瀬央は田之上の目に、儚く映った。


「ちゃんと返せよ」田之上はもう一度言った。

「分かってるって。くどいな」

「生きて、返しに来い」

 一瞬、瀬央は呆けた顔をして、

「当たり前だろ、勝手に殺すなよ。相手は銃なんか持ってねえよ」

 やっといつもの瀬央らしい答が返ってきて、田之上は少しだけ安心する。

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