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絶命

 瀬央は入り口に背を向け、床に跪いて井口を見つめていた。目を離した瞬間に、井口が呼吸をやめてしまうのではないかと不安だった。


 パトカーの音が止んだ。入り口が騒がしくなる。警察が、一人目の死体を発見したらしい。瀬央は井口を見つめたまま、その気配を背中で感じていた。

「ひどいな」最初に入ってきた警官らしき男の声が聞こえた。床に転がる死体のことだろう。瀬央は、その声を背中で聞く。ほどなく、生きた人間の気配が部屋に広がった。井口を見つめ続けていた瀬央には、警官が何人いるのかはわからなかった。

 救急車の音はまだ聞こえなかった。


「おせぇんだよ」

「誰かいるのか?」警官の一人が声の主を探して、返事をする。

「早くしろよ」苛立ちにまかせて、瀬央の声は次第に大きくなる。「井口さんが死んじまう」

「怪我人がいるのか?」警官達が瀬央の方へ近づいてくる。

 複数の足音が近づき、すぐ後ろに一人の気配を感じた。それでも瀬央は右手に持ったままの銃を上げも離しもしなかった。

 警官の一人が、腹を押さえる井口を見つけ、田之上の事務所の名を口にした。井口は組員として認識されていた。おそらく付き添う自分も、組員と思われているのだろうと頭の片隅で瀬央は思う。事実、瀬央はそのように行動していた。


「救急車、まだかよ?」

 瀬央は苛立ちと仲間を亡くす悔しさの滲む、震えた声で言った。

「だったら、あんたらが病院へ運んでくれよ」


「銃を置いて、両手を頭の後ろで組むんだ。」警官の一人が、瀬央の言葉を無視して警告した。「ゆっくり立ち上がってこちらを向け。おかしな動きをすれば撃つ。」

 瀬央は、警官達に背を向けたままだった。すぐ後ろの刑事が、さらに一歩、瀬央に近づく。

「早く運んでくれよ」震える声で言う瀬央の右腕には、ほとんど力は入っていなかった。

 刑事はその言葉を素通りして瀬央の腕をつかんだ。瀬央は抵抗しなかった。

「銃刀法違反の現行犯で逮捕する」

 刑事が銃を持ったままの手首に手錠をかける。小さな金属音が瀬央の頭の中に響く。

 その音と、手首にかけられた手錠の冷たい金属の感触が、瀬央を現実に引き戻した。


 自分は、何のためにスマホを壊してあのバラードを捨てたのか。

 家族を、自分の犯した罪から護るためではないか。逮捕されれば、吐かされる。17才の子供を吐かせるのに、警察はさしたる苦労はしないだろう。

 瀬央の腕に手錠をかけた刑事が、その手から銃を取ろうとする。

 瀬央ははじかれたように、刑事の動きに反応した。右腕を取った刑事の手首を左手でつかみ、痛む腕に力を込める。そこを軸に、床を滑るように体を半回転させた。つかまれたままの右手を強引にひねり引き金を引く。当たらなくとも、手を放されれば、チャンスはある。

 瀬央の撃った弾丸が右の脇腹をかすめ、刑事は瀬央を放した。瀬央は右腕が自由になると、素早く立ち上がった。こうしている間にも、井口は弱っていく。

「早く運べって言ってんだろ!」瀬央は銃を構え直して叫んだ。

 銃を構えた瀬央に、警官隊の数人が発砲した。警告はすでにされていた。

 瀬央のの躰が大きく揺らぎ、胸が赤く染まった。瀬央は銃を落とし、ゆっくりと崩れ落ちる。


 ようやく、救急車が到着した。

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