第一幕/3
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到着すれば、すでに教室には神谷魅魚の姿があった。他の生徒はもう残っていない。
窓辺に手を置き、外を眺めていたようだ。風に揺れるカーテンが魅魚の姿を僅かに隠す。
教室には橙色の陽光が窓から差し込み、放課後の気だるさと儚さを漂わせていた。そんな教室に一人佇む彼女の姿は、どこか神秘的でさえあった。
「待っていたわ」
魅魚は窓辺から離れるように数歩進み、窓際近くの机――それは魅魚の席である――の前で立ち止まる。
「もう……心の準備も、できたから」
小柄で幼げな容姿から想像できるものとは正反対の大人びた口調。
凛にはそれがいつもとは違った悩ましい魅力のある声に感じられた。もしかしたら告白されるのでは……などと考えていたからだろうか。
高鳴る心臓の鼓動を感じつつ、凛は教室の中へと踏み出す。
そして、魅魚の前に立った。
「用事って、なに……かな」
「……うふふ」
魅魚は妖しく微笑み――。
机にかけてあった鞄を手に取り、机上に置いた。そして中から、とあるものを取り出す。
「え……? えぇえっ!」
凛は声をあげて驚いてしまったが、それも無理はない。
魅魚は、取り出したものを広げ、誇らしげに掲げた。
それは女子用のスクール水着で、
「着なさい」
などと言ったのだから。