第二幕/8
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放課後。雪の積もった路上を歩く凛と魅魚。
自宅への帰路ではなくデパートへと向かう道のりである。
ことの経緯は「あなた、女装生活をするのはいいけれど部屋着はどうするつもり? ずっと制服でいるわけにはいかないでしょう」と魅魚に指摘されたことに起因する。
男嫌いな雪音と生活をともにする以上、女装生活はさけられないが、そのための衣服が女子制服のみというのはさすがに無茶だ。
魅魚の趣味が『凛を女装させること』であるため、彼女の所持品の中には凛専用の洋服というものがあるにはあるのだが……。どうやら魅魚はこれを機に凛をあらぬ方向へと導いてしまいたいらしい。あえてその洋服を与えず、凛自身に買わせようと目論んでいるようだ。
デパートで女性用の服を買う。それが目的だ。
「ついてしまった……」
思わず、そんな言葉が漏れた。
現在『春日デパート』の入口前である。
このデパートは、凛の住む霞町で唯一の大きな建造物として有名である。それだけ客入りも多く、連日賑わっている。七階建てという規模を誇るこのデパートの周囲にはこれほど大きな建物は他にないため、少々存在が浮いてはいるが。
春日デパートのてっぺんを見上げる凛だが、仕草はもじもじしていて非常に情けない。
なぜ女々しい態度をとっているかといえば、ここへ来る途中、公園に寄って女子制服に着替えてきたためである。凛は今、女装をしているのだ。
購入する洋服のサイズの都合上「魅魚の服を買いに来たその付き添い」という設定は通用しない。自分のものとして買うためには、やはり自分が女性として来店する必要がある。そういった理由で女装をしてきたのだが、もっと他に良い方法はなかっただろうかと今になって凛は後悔していた。
周囲の人間に自分が男だと気付かれていないか……非常に心配であり恥ずかしくもある。
「堂々としていないとかえって疑われるわ。どこからどう見ても女の子だから安心なさい。ヒゲもまったく生えていないし、喉仏も目立たないし、完璧な女の子よ」
凛の情けない態度に魅魚が忠告を入れる。
しかしそうは言われてもスカートを履く感覚は簡単に慣れられるものでもない。膝を隠せる程度の長さはあるので、ミニスカートのような恥ずかしさこそ無いが、それでも風が吹けば妙な感じがする。やはり他の購入方法を検討したいと凛は思う。
「どうせ試着するときには着替えることになるのだから同じよ。諦めなさい」
凛の胸中を見透かしたように、魅魚が喝を入れた。
「それとも、そうね。人目につきたくないのなら……非常階段を使って屋上から中に入る?」
魅魚が提案するように言った。
「ここのデパート、外付けの非常階段を使えば、屋上でも好きな階でも、人目につかずに入れるのよ。とくに屋上は、一般客に開放されていない未知の空間だから、おすすめ。屋上の入口は施錠されているけれど、近くのフェンスをよじ登れば簡単に侵入できるわ。非常階段のことを知っている人自体少ないから他に人がいることも滅多にないし、こっそり屋上に忍び込んで……」
「なんだか目的が変わっているような……」
魅魚の顔によからぬ悪戯を考えているような微笑が浮かび、凛は慌てて話の方向を修正する。
「早く買って、早く帰ろう!」
「あら、行く気満々なのね。早く買いたいだなんて」
「僕の希望はそっちじゃなくて帰る方……」
「さ、行きましょ」
からかわれ、赤面しながらも春日デパートへと入っていく。




