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9章:最後の仕掛。

「…そういえば、ひとつ聞かせてもらってもいいですか?」

車の移動の最中、そう口を開いたのは俺のほうだった。

…まぁ、沈黙に耐えかねて…っていうところもあるんだが…。

「…なんだい?」

「…確か、あのビルの裏口は、外側から開かないような構造になっていましたよね?」

「…確かに、外部の人間には外側からは開けられ無いようになっている…」

「外部の人間には…?」

「…あまり、人に言うことでもないんだが…マスターキーを差し込めば、外側から扉を開けることができるようになっているんだ」

そういいながら、鍵らしきものをとり出して見せてきた。

「なるほど…管理人であるあなたは、出入りができる…そういうことですね?」

「あぁ…そういうことになるな…」

「…状況が状況とはいえ、ビルから連れ出してしまっていますからね…戻れなくなると大変かと思いまして…」

「…確かにな…だが、話したとおりだから、まず問題は無い…それよりも…」

「智子さんですね?」

「…あぁ…」


そんな話をしながら、ようやく、事務所についた。

そのタイミングを見計らったかのように、あいつから電話がかかってくる。

「あっ、すみませんちょっと電話で…事務所は、このビルの3階にありますから、先に上がっていてください…鍵が…」

鍵を山上さんに渡し、上がっていく姿を確認してから、電話に出る。


「ついたみたいだね?」

どこで見ているんだ?…タイミングが良すぎるだろ…。

「結構、近く…かなぁ…?…で、僕はどれくらいで動けばいいのかな??」

そうだな…10分後に、さっき言ったとおりに来てもらえるか?

「10分…ね、彼女のほうはどうする?」

一通り終わってから来てもらう…今は、喫茶店か何かか?

「まぁ、そんなところ…1〜2時間くらい滞在しても文句は言われないところさ」

そうかい、それは助かる。

「僕の行きつけで、顔も利くしね」

…そんなところがあるのに、俺にたかっているのか…まぁ、首尾よく頼む。

「…彼女の電話はどうする?」

そうだなぁ…お前が持ってきてもらうと、助かるんだが…連絡が取れなくなるんだよなぁ…。

「それなら、この店に直接かければ良いんじゃないのかな?…話は通しておくからさ?」

わかった…その辺は、お前に任せておく。

「了解…じゃあ、10分後に…」


先に上に上がった山上さんは、事務所の前で待っていた。

「先に入らなかったのですか?」

「…どうにも、気が引けてな…」

「そうでしたか…かえって、気を使わせてしまったすみません」

「いや、俺が勝手に待っていただけだからな…」


そんなやり取りをしながら、事務所の中へと、山上さんを促し、少し会話を開始する。

「…非常にいいにくいことがあるのですが…聞いてもらえますか?」

「…改まって…なんだい?」

「先日、前オーナーが、あなたのところに来ているという話をしたかと思いましたが…」

「その話は、やめてくれないか!?」

「それが、そうも、いっていられない状況になりましてね…実は、私のところにも、そのオーナーが来たんですよ…」

「…本当なのか?」

山上さんの顔色を伺いながら話を進める…とりあえず、この内容の話への食いつきはいいみたいだな…後は…うまくいくか…だが。

そういいながら、さりげなく、ラジオの電源を入れていつも聞いている放送局にあわせる。

「…何をしているんだ?…オーナーの話は??」

「っと…すみません、この時間は、ニュースをなんとなく聞きながらすごすのが日課なものでして…確かに、前のオーナーと思われる人はここに来ました…」

「そんなはずはない…!」


ザッ…ザザザっと、少しラジオの電波の受信が乱れた跡にニュースのキャスターの声が変わったかのように聞こえ、それがニュース以外のものを読んでいるように聞こえだした。

「あのビルは、昔からテナント入れてやっていたのに、いまさら改装して、マンションみたいにしても入居者なんて出るものかね…私には、わからんよ…」

その声を聞いたときに顔色の変わっていき、声の主の台詞が終わった後に、同じようなノイズが入り、元のニュースに戻ったときには傍目にも体調が悪いことがはっきりとわかるほどになっていた。

…少しやりすぎたかもしれないな…。

「…今のニュース…何かおかしかったですよね?…壊れたのかなぁ…?」

「…あんた…本当に、何も知らないのか…!?…今の声は前のオーナーじゃないか!?」

山上さんが、声を荒げながらこっちに詰め寄ってきたときに、インターフォンが鳴り響く音が聞こえた。

…ちょうど時間か…タイミングがいいな、あいつも…。

インターフォンの音に、びくっとなった山上さんの横をすり抜けて、玄関の方に行き、扉を開ける。

そこには、前オーナーが立っていた…流石に、わかっていたこととはいえ、驚いたな…入れ違いで俺は、

「誰もいないですね…ちょっと、外を見てきますので、山上さんは少し待っていてください」

そう言って、前オーナーの肩を叩き、

「後は任せた」

そう言って事務所の外に出て、本来の依頼人のいる喫茶店の方に足を運ぶ。

…まぁ、これで、大方解決になる…のかなぁ…?

タネがばれる…ことはないだろうけど、万が一ばれたら、後々厄介だが…まぁ、何とかなるか…。


「ここって、変わった喫茶店ですよね…」

「ええ、あいつの行き着けって言うことも含めて、結構変わったところだと思います」

依頼人の向かい側に座りながら、現在、事務所のほうに山上さんがいることを話し、ある程度時間が経ったら、先に事務所に向かってもらうことを了承してもらった。

…それにしても、行き着けの店が猫喫茶って言うあたりもあいつらしいな…ここの店長は、あいつのことをどれだけ知っているのやら…。


「…ところで、あの、その…ひとつ聞いてもいいですか?」

少し言いにくそうに、依頼人が口を開いた。

「山上さんのことですか?それは、後で本人に…」

「いえ…そっちではなくて、あの、あの女性と、探偵さんの関係って…」

女性…?…あぁ…あいつのことか…なんて説明すればいいんだろ…?

「腐れ縁とでも言いますかね…時々、ふらっと事務所にやってきて、飯をねだって来る感じですね」

「なんか…近所に住み着いている猫みたいですね…」

「まぁ、そんなもんですよ…後は、時々、仕事の話をどこからか仕入れてきますし…っと、これは極秘事項ですので詳しくは話せませんが」

「そうなんですか…そういえば、あの方のお名前ってなんていうんですか?…なんか、さっきは聞きそびれてしまって…」

…そういえば、俺も良く知らないなぁ…適当に答えるか…まぁ…それでも問題無いな。

「え〜っと…確か、翔って名乗っていましたよ…詳しく聞いたこと無いので、それ以外はちょっと知らないのですが」

「ショウさん…ですか?…なんか、男の人の名前みたいですね…?」

「まぁ、相棒の呼び名みたいなものだと思えばしっくり来ますよ」

…そういうことにしておけばいいだろう…。


時間が経ち、あいつからの連絡が入る。

「こっちは終わったよ〜…そっちに戻る?」

いつもの姿で…な?

あと、電話は、車のボンネットの上にでも置いておいてくれ。

「了解」


「まずは、先に、事務所に戻ってください…山上さんは…多少混乱しているかもしれませんが…」

「…何かをしたということですか…?」

真剣な目つきで言われた…ごまかしは効かないな…。

「詳しくは話せませんが、あなたが受けたラジオと同じような手法をとらせてもらいました…偽放送を流させていただきました」

「…それだけ…ですか?」

「…ちょっとした、催眠療法とも言いますか…彼の知っているある人に会ってもらいました」

「前…オーナーって言う人ですか?」

「まぁ…そんなところです…そういうことですので、大分混乱しているということが予想されますので…」

「…わかりました」

いまいち、納得しきっていない感じがあるが…これじゃあ、依頼料をとることも難しいかなぁ…?

そう思いながら、事務所のほうに向かって歩き出す依頼人を見送り、あいつが帰ってくるのを待つことにした。


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