もし君がいなければ
『一嘉は、逆ハーレム状態で、内容は恋愛。芸能界が舞台の全年齢対象な短編「もし君がいなければ」を描けばいいと思います』と出たので、書いてみました。
【11.10/25】
小説漫画ねた―を纏めるのに、短編から移動。
「カット、OK!」
監督の声の後、スタッフ・出演者がワッと沸き上がる。影に隠れて待っていたスタッフの女性が、大きな花束を持って『お疲れ様です、裕志さん!』と笑顔で向かって来た。渡された花束は沢山の花で彩られている。
赤・黄・白と鮮やかな色の中に、1本だけポツンとある青色の花。まるで自分の状態のようだと自嘲しながら、笑顔を浮かべて『有難う御座います。皆さん、お疲れ様でした!』と深々頭を下げた。
裕志は数年前にデビューした俳優。デビュー作は漫画を元にした舞台で、主役ではなく脇役としてのデビューだったが、ネットから演技の良さが広まり、今ではドラマで主演をまかされるだけの実力をつけたのだ。
「裕志くん、今度また一緒にドラマやりたいね!」
「ドラマもいいけど、映画もいいわね。また共演しましょう?」
「裕志さん、お疲れ様でした!」
次々と声を掛けて来るのは、共演した女優やスタッフ。笑顔を絶やさず1人1人受け答えをし、丁寧な対応を心掛ける。週刊誌などでは〝誰にでも良い顔をする八方美人〟と書かれたが、芸能界において何より必要とされるのは繋がり。
可愛がられる事こそ、成功の秘訣なのだ。スタッフであろうと、俳優であろうと、歌手であろうと芸人であろうと、共演したりサポートしてくれた人に、裕志は丁寧な対応を忘れない。
裕志は翌日早くからロケの予定が入っていた為、撮影が終了後すぐにマンションに戻る事となっている。監督を始めとするスタッフや共演者、エキストラに挨拶をしてから、大きな花束を持ったままで着替える為控え室に戻ると、マネージャーの秋菜が私服を用意していた。
「お疲れ様、裕志。早く着替えてマンションに戻るよ。明日、3時起きだからね」
秋菜に花束を渡し、代わりに着替えの服を貰う。楽屋の隅には、沢山の贈り物が積み重なっていた。ファンからのプレゼントもあるが、共演者やスタッフからの物も多い。
プレゼントに挟まっているカードには、名前と携帯番号、メールアドレスが書き込まれていて、『いつでも連絡して!』とまで書いてある人も。スキャンダルは女優にとって致命的なのに熱い事だと、裕志は衣装を脱いで贈り物を見ていた。
「荷物は後でスタッフさんが事務所に送ってくれるって」
「そう、有難う」
「ほらほら、早く着替えて!」
まるで子ども扱いするかのように秋菜は裕志に私服を次々と手渡すと、脱いだ衣装を綺麗に纏めておく。楽屋も手早く片付けて、荷物を持つと裕志の靴を用意し、『帰るよ!』と一声。彼はそれに苦笑しつつ靴を履いて楽屋を出、スタジオを後にした。
秋菜の運転する車に乗り込み、夜の街を走る。流れる光と、人の顔。どこに焦点を合わせるでもなくボーっと外を眺めていると、耳に届いたのは鼻歌。車に乗っているのは秋菜と裕志だけなので、歌っているのは1人しか居ない。
歌っているのは〝星に願いを〟で、この曲を好んでいる秋菜は、携帯の着信音もこれにしている。秋菜は機嫌の良い日は、このメロディを口ずさんでいた。昔も、今も。
「変わらないね」
「ん~?」
「機嫌が良い日は、昔からその曲歌ってた」
くすっと小さく笑い、横目で秋菜を見れば彼女は唇を尖らせている。きっと裕志の言葉を〝単純〟や〝わかりやすい〟と言う意味で捉えたのだろう。間違ってはいないが、このまま機嫌を損ねると大変だ。裕志はドアに寄りかかっていた体制を真っ直ぐに直し、秋菜を見る。
秋菜は裕志よりも3歳上。初めて会ったのは、デビュー前の子役時代。彼女も同じ子役として養成所に通っていた。裕志はその頃、別の習い事もしていたのであまり顔を出す事はなかったが、秋菜は毎日のように厳しいレッスンをこなし、数々のオーディションを受けては落され、その度にこっそり影で泣いていたのだ。
沢山居る子役の中で、日の光に当たるのは一握りにも満たない。何より、子役と言うのはローテーションが早い。子供特有の可愛さを売りに出しているから、期限が非常に短いのだ。そんな中でも、上手に生き残れるのはもっと少ない。彼女は光にも当たらず、生き残る事も出来なかった子役の内の1人。
真剣に俳優を目指していた彼女が生き残らず、習い事感覚で養成所に通い続けた裕志が俳優としてデビューし、主演を取るまでになったのは運命の皮肉と言えよう。だが、裕志が俳優を本気で目指すようになったのは、彼女が居たからだ。
高校進学前に養成所を止め、マネージャーになる事で芸能界に関わっていく事を決めた秋菜は、幼い頃から仲の良かった裕志に宣言したのだ。自分が裕志のマネージャーになって、裕志を一人前の俳優としてデビューさせてみせる、と。
「秋菜の宣言がなければ、俺は俳優をやってなかったんだろうな」
「何、突然」
「俺が本気で俳優を目指そうと思ったのは、秋菜が俺のマネージャーになってみせるって宣言した時から」
「あー……。裕志は私と違って、親にやらされてたもんね」
子役は基本的に自分から役者になりたいと願う子供よりも、親が子供を芸能界デビューさせたいと入れる事が多い。裕志はそのタイプだった。それ故に、ずっと彼は本気で芝居を学んでいた事はなかった。だが、秋菜の宣言によって初めて意識し、一から基礎を学び直したのだ。
何故秋菜の言葉で裕志は今迄の態度から変わったのかと言えば、幼い時に抱いた恋心ゆえの事だろう。真剣に芝居に取り組み、褒められれば喜び、怒られれば欠点を直そうとする真摯な態度。オーディションに落ちた事をしると、影で泣いていた姿。裕志の初恋は秋菜だったのだ。
再会したのは、裕志のデビュー前。21になった彼女はすっかり大人の女に変わっていて、秋菜に2度目の恋をした。同じ人を2度好きになった裕志は、彼女の期待に応える為、必死に頑張って脇役だが役を掴み、主演を張れるまでになった。
「秋菜、このドラマの撮影が終わったら、言おうと思ってたんだけどさ」
「ん~?」
「秋菜が好きだ。俺と付き合ってくれないか?」
突然の急ブレーキに、秋菜と裕志の体が前へと飛び出る。タイヤも悲鳴を上げるように鳴り、夜の街に響き渡った。前方にも後方にも車が居なくて良かったとバックミラーを見て確認する裕志だが、運転していた秋菜の視線は裕志に向かい、零れ落ちそうな程に目は開かれている。
「秋菜、急ブレーキは危ない」
「うあっ!? え、あ、うん、ごめん……じゃなくて! 何、なんなの!? 何かの冗談!? それともドッキリ!? カメラ、カメラどこ!?」
「落ち着けよ。ドッキリじゃない」
カメラが仕込んであるのではないかと、慌てて探す秋菜。裕志は呆れ混じりに落ち着くように言い、取り敢えず危ないから少し先を進んでどこかに停めようと言う。まだ狼狽したままで、秋菜は少し車を走らせ、既に閉店しているスーパーの駐車場に車を入れた。辺りには人の気配はなく、車も2人の乗っている1台しかない。
エンジンを消し、月明かりだけが2人を照らしている車内。裕志は秋菜を見詰め、ドッキリでも冗談でもなく、本気で秋菜が好きだ、主演を一つ取って、撮影が終わったら告白しようと決めていたと、胸の内を告げる。右に、左にと落ち着かない秋菜の視線は、やがて戸惑うように裕志へと向けられた。
「な、んで私なの……?」
「秋菜が秋菜だから」
「何それ」
「他に相応しい言葉はないよ。ずっと小さい頃から秋菜を見ていて、真っ直ぐな所や、ひたすら努力している所が好きだった」
初恋は実らないって言うけど、俺の場合は秋菜を好きになったのは2度目だから、初恋じゃないし? ニッと笑う裕志に、秋菜は口篭り、そのまま黙り込んでしまう。今迄男だと意識した事のない相手から告白されて戸惑っているのか、それとも断りの上手な返事を探しているのか、自分と相手の関係を考えて返事に困っているのか。
どちらにせよ、ここで断られたとして、裕志は秋菜を諦めるつもりなど微塵もない。俳優とマネージャーと言う互いの立場が邪魔になっているなら、方法は考えるつもりだ。勿論、俳優を辞めると言う選択肢ではない。自分は彼女の夢でもあったのだから、俳優を辞めてしまえば失望される事はわかっている。
「秋菜」
「だって、裕志は、俳優で……今、人気で……」
「そんなの理由にならない。俺の価値は俳優だけ? 俺と言う個人は認められない?」
「ちがっ……」
「返事は急がないよ。俺は諦めるつもりはないから、秋菜が逃げ切れなくなるまで追いかける」
丁度マンションの近くなので、ここからは歩いて帰る事にしよう。彼女も混乱しているだろうしと、『今日はここまでで』と言ってシートベルトを外し、手を伸ばして秋菜の頬を撫でて『お休み、また明日』と笑みを向けてから車を降りる。
数メートル歩いてから車を振り返ると、秋菜と視線が合い、笑顔を向けて手を振れば、彼女はハッとなった顔で何かを言おうとしている。しかし裕志は足を止めず、緩んでしまいそうになる口元を引き締め自宅マンションへ向かって歩みを進めた。
書き終わってから、とんでもない事に気付きました。
〝逆〟ハー。逆、が付いていた。
…………普通に男主人公で、女優・スタッフにモテモテな主人公だけどマネージャーに片思いの話を書いていました……orz
消そうかと思ったんですけど、勿体無いんでこのまま掲載。
もう、笑うしかない。