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独身税を免れるために再会した学園1の美少女と0日婚したのだが、最近嫁の様子がおかしい  作者: 田中 又雄


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4/7

偽装の始まり

 来週末が近づくにつれ、心のざわつきが強くなっていった。

会社では、雫の追求が続いていた。


 あの日以来、彼女は毎日のように俺のデスクにやってきて、婚約者のことを根掘り葉掘り聞く。


「先輩、あの美人さん、どんな人なんですか? 名前は? 職業は? 絶対モデルさんみたいですよね!」


 雫の目は好奇心で輝いている。

俺は曖昧に笑い、適当に答える。


「梨央奈さんって言うんだ。同じ高校の先輩で、今は一流企業に勤めてるよ。詳しくはまた今度……」


 本当は偽装だと明かせない。

雫は不満げに頰を膨らますが、結局笑って去っていく。


 彼女の無邪気さが、俺の罪悪感を煽る。

会社の人に偽の関係を隠すのは、思ったより大変だ。午後の休憩時間、スマホに梨央奈からのメッセージが届く。


 細かいエピソードの確認だ。


「初デートのカフェは、渋谷のあの店で。本のタイトルはこれでどう?」


 彼女の徹底ぶりに、感心する。

返信を打ちながら、胸が少し温かくなる。

偽装なのに、彼女の気遣いが嬉しい。


 週末前日、俺は実家に連絡を入れた。

両親は郊外の小さな一軒家に住んでいる。

父は普通のサラリーマンで、母はパート主婦。


 俺が一人暮らしを始めてから、時折顔を出してはいるが、今回は特別だ。


「彼女を連れてくる」って伝えると、母の声が弾む。


「ええ! 本当? 楽しみにしてるわよ! 何か好きな食べ物ある?」


 父も後ろで「ようやくか」って呟いているのが聞こえる。

心が痛む。

純粋に喜んでくれる両親を、騙すことになるなんて……。


 夜、アパートで鏡の前に立ち、ネクタイを直す。明日の服装を考える。


 梨央奈はきっと完璧に決めてくるだろう。

俺も負けじと、シャツをアイロンにかける。

窓の外は星空。


心の奥で、かすかな興奮が芽生える。

彼女と一緒にいる時間が、増えるんだ。

 


 ◇


 当日の朝、駅で梨央奈と待ち合わせる。

彼女はカジュアルなワンピース姿で、髪を軽くまとめている。


 シンプルなのに、美しさが際立つ。

手に小さな手土産——お菓子——を持っている。


「おはよう。準備はできた?」


 彼女の声は落ち着いている。

俺は頷き、電車に乗り込む。


 車内は週末の混雑で、隣同士に立つ。

彼女の香りが近く、胸が高鳴る。

偽装の練習として、手を繋ぐ設定だったけど、まだ恥ずかしくてできない。


 窓の外の風景が流れる中、彼女は小声でエピソードを復習する。


「再会は同窓会で、共通の友人・田中君経由。初デートはカフェで、本の話から……」

「うん、覚えてるよ。ありがとう」


 彼女は微笑み、目を細める。


「自然に振る舞ってね。あなたは誠実そうだから、大丈夫よ」


 その言葉に、少し自信が出る。

電車の揺れで、肩が触れ合う。

心が少し溶ける気がした。


 実家に着くと、母が玄関で待っていた。

五十代半ばの母は、いつも通りエプロン姿。

父はリビングで新聞を読んでいる。


「いらっしゃい! あなたが秀太の彼女さん? まあ、きれいな人!」


 母の目は輝いている。

梨央奈は丁寧に頭を下げ、手土産を渡す。


「はじめまして、有本梨央奈です。今日はお邪魔します。お菓子、よかったら」


 母は喜んで受け取り、すぐにリビングへ案内する。

父は新聞を畳み、立ち上がる。

穏やかな表情だが、目が少し厳しい。


「よう、座れ。秀太から話は聞いたよ」


 俺たちはソファに座る。

リビングは懐かしい匂いがする。

子供時代の写真が棚に飾られ、テレビの音が小さく流れている。


 母がお茶を淹れてくれ、テーブルに並ぶ。

梨央奈は自然に会話を始める。


「お父様、お母様、今日は突然お邪魔してすみません。秀太君とは高校時代から知り合いで、最近再会したんです」

母が目を丸くする。


「高校の? へえ、どんな出会いだったの?」


 梨央奈は計画通り、淡々と語る。


「共通の友人を通じて同窓会で再会しました。

そこで本の話で意気投合して……初デートはカフェで、秀太君のおすすめの本を貸してもらいました。それから付き合い始めて、3年になります」


 彼女の話し方は完璧だ。

自然で、嘘を感じさせない。俺は相槌を打ち、補足する。


「うん、梨央奈は読書好きで、俺の趣味と合ったんだ」


 父は頷き、俺を見る。


「お前、ようやくまともな相手を見つけたな。仕事はどうだ?」

「安定してるよ。梨央奈も忙しいけど、支え合ってる」


 母は涙目になり、手を握る。


「嬉しいわ。本当に。結婚の話はいつ頃?」


 俺はドキッとする。梨央奈が優しく答える。


「近々、籍を入れる予定です。今日はご挨拶に」


 両親は大喜びだ。

母は台所に立ち、夕食の準備を始める。

父は昔話に花を咲かせる。


「秀太は高校時代、地味だったけどな。よくゲームばっかりしてて」


 梨央奈は笑い、「そんなところも可愛いんですよ」


  彼女の言葉に、俺の胸が熱くなる。

偽装なのに、本気のように聞こえる。

夕食は母の手料理——肉じゃがとサラダ——。テーブルを囲み、和やかな時間。


 梨央奈は両親の話を熱心に聞き、完璧に振る舞う。俺は横から見ていて、感嘆する。


 彼女の適応力の高さ。

心の奥で、かすかな嫉妬さえ感じる。こんな女性が、本当に偽装でいいのか……。


 食後、両親は指輪に気づく。


「お揃いね! 素敵!」


母が喜ぶ。父は俺に耳打ち。


「大事にしろよ」


 俺は頷くが、罪悪感が募る。

両親の純粋な祝福が、重い。

この関係が偽物だと知ったら、どれだけ傷つくか……。


 でも、梨央奈の横顔を見て、決意する。

うまくやっていこう。



 ◇


 帰りの電車で、梨央奈と並んで座る。

窓の外は夜の街並み。

彼女は疲れた様子で、目を閉じる。


「今日はお疲れ様。完璧だったよ」


 彼女は目を開け、微笑む。


「あなたもね。ご両親、素敵な人たちだったわ」

「ありがとう。親を喜ばせられたのは、君のおかげだ」


 彼女は窓の外に視線を移す。


「偽装だけど、少し本当みたいで……変な感じね」


 その言葉に、俺の心がざわつく。

本当みたい……。


 彼女も同じことを感じている?

電車の揺れが、心を優しく揺らす。

家に着き、別れる時、彼女は手を振る。


「次は私の親よ。準備してね」


 俺は頷き、アパートに戻る。

ベッドに横になり、天井を見つめる。


 今日の出来事が、温かく胸に残る。

偽装の関係が、少しずつ本物に近づいている気がした。


 この先、どうなるのか。期待と不安が、夜の闇に溶けていく。

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