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独身税を免れるために再会した学園1の美少女と0日婚したのだが、最近嫁の様子がおかしい  作者: 田中 又雄


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2/6

再会

 駅前の喧騒が、耳元でざわめく。

行き交う人々の波が、俺の視界を埋め尽くす中、彼女の言葉が頭の中で反響する。


「結婚しましょう」


 それはあまりに唐突で、現実味がなかった。高校時代の人気者が、突然目の前に現れ、そんなことを言うなんて。


 心臓の鼓動が速くなり、息が浅くなる。

彼女の瞳は真剣そのもので、冗談の気配など微塵もない。


 長い黒髪が風に軽く揺れ、洗練された表情が、昔の記憶を鮮やかに呼び起こす。

あの頃、彼女は学校のアイドルだった。


 遠くから眺めるだけの存在だったのに…こんな形で再会するなんて……。


「……えっと……その……」


 俺は言葉に詰まる。

頭が真っ白で、何を言えばいいのかわからない。

彼女は少し眉を寄せ、腕を組む。

彼女の視線が、俺を試すように鋭くなる。


「即決断ができない男は嫌いなんだけど。どうする?」


 その言葉に、背筋が伸びる。

彼女の声は落ち着いているが、どこか圧力がある。


 昔の彼女を思い出す——生徒会長として、いつも完璧に物事を進める姿。


 迷いは許さない、そんな雰囲気だ。

俺は慌てて周囲を見回し、近くの喫茶店を指差す。


「……と、とりあえず、あそこの喫茶店で話をしましょう」


 彼女は少し考えてから、頷く。


「いいわ。行きましょう」


 そう言って、先に歩き始める。

俺は後を追いながら、心の中で呟く。

なんでこんなことに……。


 偽装結婚の相手が、まさか彼女だったなんて。


 運命的なのか、それともただの偶然か。

少しだけ足取りが重く感じる。



 ◇


 喫茶店に入ると、柔らかな照明とコーヒーの香りが迎えてくれる。


 窓際の席を選び、俺たちは向かい合う。

彼女はメニューをちらりと見て、アイスコーヒーを注文する。


 俺も同じものを頼み、テーブルに視線を落とす。


 店内は静かで、BGMが穏やかに流れている。隣の席のカップルが笑い合う声が、遠く聞こえる。


 こんな場所で、偽装結婚の話をすることになるなんて…心の中は混乱の渦。


 彼女の美しさが、改めて胸をざわつかせる。高校時代、彼女の名前は有本梨央奈。


 学園のマドンナと呼ばれ、成績優秀、容姿端麗、何もかもが完璧だった。


 俺なんかが彼女の視界に入るはずもないと思っていた。

だから、初めましてのテンションでこう言った。


「えっと……改めまして、鮎川秀太です。初めまして。よろしくお願いします」


 俺は自己紹介を試みる。

彼女はカップを手に取り、静かに微笑む。


「初めましては心外ね。高校ではそこそこ有名なつもりだったのに」


 そんな言葉に耳を疑う。


「え?俺のこと…知ってるんですか?」

「知ってるわ。同じ高校なんだし」


 知ってる? 彼女が俺のことを? 同じクラスになったことなんか一度もない。


 彼女は学校一の有名人で、俺はただの地味な生徒。

部活にも入らず、友達とゲームをするくらいの平凡な高校生活だった。


 認識されているなんて、考えたこともなかった。


「……俺のことなんか知っててくれたんだ」


 声が少し震える。

彼女は肩をすくめ、当然のように答える。


「生徒会長になった時に、全校生徒の顔と名前は覚えたから。けど、私の記憶が正しければ、確か同じクラスの宮野さんと付き合っていたはずだけど。それも高1から3年まで。彼女とは別れたの?」


 その詳細さに、俺は息を飲む。

宮野——元カノの名前だ。

高1から付き合っていたことまで、覚えているなんて。

彼女の記憶力は噂通り、いや、それ以上だ。


 俺の過去を、こんなに鮮明に知られていることに、驚きと少しの恥ずかしさが混じる。


 あの頃の甘い思い出が、フラッシュバックする。

宮野とのデート、キス、手を繋いだ感触……そして、裏切りに胸が少し痛む。


「そんなことまで覚えてるんですか?」


 俺は思わず苦笑いする。

彼女はカップを置き、目を細める。


「記憶力には自信があるのよ」


 彼女の声は自信に満ちていて、昔のまま。

完璧主義者で、合理的。

感情をあまり表に出さない、そんなイメージが蘇る。


 俺は少し勇気を出して、核心に触れる。


「なるほど……。けど、有本さんなら引く手数多というか……なんであんな掲示板に……」


 彼女はため息をつき、窓の外に視線を移す。

外の街並みが、午後の陽光に輝いている。


「確かに引く手は数多ね。社会人になってからも、本当にいろんな人に告白されたものよ。試しに人生経験と思って付き合ったこともあるけど、どうも恋愛ってものがよくわからなくてね。感情が絡むと、面倒くさくなるのよ。けど、普通に損するのも私の性格が許さないから、こうして掲示板で会ってるのよ。それも、損得で結婚するはずが、私に会ったらみんな目の色を変えて……本当の意味で偽装結婚を望む人は少ないみたい」


 彼女の言葉に、俺は頷く。

彼女の美しさが、男性を引きつけるのは想像に難くない。

だが、彼女自身は恋愛に興味がないらしい。


 合理的で、損得を重視する性格——それが彼女の魅力でもあるけど、どこか寂しく感じる。俺はさらに尋ねる。


「じゃあ、なんで俺なんですか?」


 彼女は俺の目を見て、淡々と答える。


「そりゃ安心できるから。3年も同じ子と付き合っていた実績と、顔見知りという点。共通点も多そうなのも高評価。高校時代に悪い噂も聞かないし。偽装結婚としてはかなり良物件。ということで、結婚しましょう」


 そう言って、彼女はカバンから一枚の紙を取り出す。

婚姻届だ。

俺は目を丸くする。

まさか、こんなに準備万端とは。


 心臓が再び高鳴る。


 彼女の行動力に、圧倒される。

昔と一切変わらず、完璧で合理的で、美しく正しい彼女。


 そんな彼女と結婚なんて、舞い上がらないと言えば嘘になる。


 胸の奥で、かすかな興奮が芽生える。

偽装とはいえ、彼女と一緒にいる時間ができるなんて……。


「さて、計画の話をしましょう」


 彼女は婚姻届をテーブルに置き、淡々と説明を始める。

俺はコーヒーを一口飲み、集中する。

店内の空気が、少し緊張感を帯びる。


 まずは、お互いの親に会うこと。

そのために、自分たちの馴れ初めを適当にでっち上げる。


 大学時代に再会し、付き合って3年で、同棲生活もして1年経過しているという設定。


 彼女の声は落ち着いていて、細かいニュアンスまで考え込まれている。


 親への説明の仕方、タイミング、彼女の親が好きそうなタイプはどんなのかさえも。


 俺は聞きながら、感心する。

彼女の計画性は、まるでビジネスプロジェクトのようだ。


 それから、しばらくは同棲生活をし、国から補助金をいただきつつ、次第に別居生活をしながら、今まで通りの元の生活に戻る。


 どうやら、国の補助金の確認も最初の1〜2年程度は家に来て調査があったりするが、以降は申請するだけでもらえるらしい。


 彼女はかなり調べているようで、補助金の額、申請書類の詳細、潜在的なリスクまで、細かく話してくれる。


 俺はメモを取るふりをしながら、彼女の顔を眺める。

美しいラインの頰、集中した瞳。


 高校時代、こんな近くで彼女を見ることなんてなかった。


 でも、これは偽装。感情を入れてはいけない、と自分に言い聞かせる。


「大まかにはこんな感じ。何か質問とかはある?」


 彼女の言葉に、俺は少し考えて口を開く。

心の奥底で、気になっていたこと。


「……もし、どちらかが好きな人ができたりとかしたら、どうするの?」


 彼女は少し考え、冷静に答える。


「その時は離婚しましょう。流石に片方の意見を押し倒すわけにはいかないでしょうし。その代わり、事前にきちんと相手には話すこと」

「…なるほど。共同経営的なイメージかな」

「遠からずって感じね。疑問がないなら、ここに名前を書いてくれる? 証人はうちの両親にお願いする予定だから」


 婚姻届が俺の前に差し出される。

俺はペンを握り、ためらう。

心の中で葛藤する。

これは本当にいいのか?


 偽装結婚、親を騙すこと、彼女との生活……。

でも、経済的なメリットは大きい。

独身税の重圧から逃れられる。


 そして、何より彼女と関われる。

もしかしたら、何かが変わるかもなんて淡い期待が、胸をざわつかせる。


「……そうなんだ」


 結局、流されるままに名前を書く。

ペンの感触が、手に残る。

彼女は満足げに頷き、紙をしまう。


「はい、これで完了ね。それじゃあ、まず今度あなたの親に合わせてくれる? 細かい話は連絡するから。それじゃあ」


 彼女はそう言って、立ち上がる。

会計を済ませ、店を出ていく。


 俺は一人残され、コーヒーの残りを眺める。外の陽光が、テーブルに差し込む。

心の中は、興奮と不安の嵐。


 マジか? 色々と追いつかず、思わず頭を抱える。


 彼女の香りが、まだ店内に残っている気がした。


 この出会いが、俺の人生をどう変えるのか……この時は、まだわからない。


 ただ、胸の奥で、何かが動き始めた予感がした。



 ◇


 家に帰ってからも、頭の中は彼女のことでいっぱいだった。


 ベッドに横になり、天井を見つめる。

婚姻届にサインしたことの重みが、じわじわと実感される。

偽装とはいえ、結婚だ。

親にどう説明する?


 彼女との同棲生活なんて、想像もつかない。高校時代の憧れが、現実になったような感覚。


 だが、彼女はあくまで損得勘定。

俺もそうだと思おうとするのに、心のどこかで期待が膨らむ。


 スマホが振動し、彼女からの連絡が入る。

細かいスケジュールだった。


 その事務的で仕事のようなメール内容に俺はため息をつき、返信する。


 この関係が、どう進むのか。

この時は想像もできていなかった。

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