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独身税を免れるために再会した学園1の美少女と0日婚したのだが、最近嫁の様子がおかしい  作者: 田中 又雄


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誘拐

 あれからさらに数週間が経過した。

同棲生活は、想像以上に穏やかで心地よいものになっていた。


 朝は一緒にコーヒーを淹れ、梨央奈の淹れる紅茶の香りが部屋に広がる。


 俺はトーストを焼き、彼女が卵を炒める。

キッチンの窓から差し込む朝陽が、テーブルの上を明るく照らす。


 彼女の髪が少し乱れ、寝起きの素顔が可愛い。


 朝食を食べながら、今日の予定を話す。


「今日は早く帰れそう?」

「うん。迎えに行くね」

「…いつもありがとね」

「気にしなくていいっての」


 彼女の箸の動きが優雅で、俺はつい見惚れる。


 最近は夜は一緒にゲームしたり、梨央奈のおすすめの映画を見たり、そんなありふれた幸せな日々を送っていた。


 今までは少しだけを距離を感じていたが、ソファに座っていると、肩が当たる距離に座ったり、笑顔も増えており、彼女の香りが近く感じるようになった気がした。


 こんな日々が続けばいいのになんて思っていた。


 あれからストーカー問題も、少し落ち着いたように見えた。


 有名な弁護士に相談し、証拠を集め、警察にも被害を再申請した。


 その弁護士はどうやら梨央奈の知り合いらしく、オフィスは街の中心部にあり、俺たちは一緒に訪れた。


 木製のデスクで、弁護士が資料を広げ、「聞いてる限りであれば、接近禁止命令くらいは簡単に出るでしょう。場合によっては刑事事件としても動けるかもしれない」 とのことだった。


 更に会社内でも、梨央奈は同期や上司に少しずつ自分の現状についての話をした。


 もちろん、知っている人もいただろうが、今まで周りに助けを求めることがなかっただけに、なんとなく大丈夫だろうと思われていたと思うが、改めて声を上げたことで無視できない状況になった。


 そして、同期の女子たちにも「ストーカー被害に遭ってるの」と、これまでのことを全て話すと、彼女たちは驚き、「一緒に人事に言おうよ」とサポートしてくれた。


 それから少しずつ噂が広がり、周りからの目が増えた。


 優秀ではあったものの、元々社交的ではない上に社長の親戚という立場を利用して、散々やってきたこともあり、すぐに風当たりは強くなりそのおかげで紙風の行動は控えめになっていた。


 視線はまだあるけど、セクハラまがいの行為はできなくなったとのことだった。


 それでも、油断はできないと俺の迎えは続けており、何なら車で一緒に帰る時間が、2人の絆を深めている気がした。


 車内で「今日もありがとう」という彼女の言葉を聞くたびに俺は嬉しかった。


 当たり前になりかけていることでもこうして毎日感謝の言葉を述べてくれているのが嬉しかった。


 それから家に着き、ドアを閉め、ホッとする。


 このまま、あいつが会社を辞めて、脅威がさっていくのを待つつもり…だったのだが。



 ◇


 その日、俺は会社でいつも通りコードを叩いていた。


 午後のミーティングが終わり、デスクに戻ると、スマホに梨央奈からメッセージが入っていた。


「今日、少し遅くなるかも。先帰っててもいいよ」 俺は「了解。大丈夫。迎えに行くよ」と返信する。


 彼女の会社は俺のオフィスから車で20分ほど。


 定時で仕事を切り上げ、車を走らせる。

渋滞の道を抜け、彼女の会社の前に着く。


 いつものように、入口で待つ。

夕陽がビルを赤く染め、行き交うサラリーマンたちが家路を急ぐ。


 彼女が出てくるのを、車内から見守る。

こうして、今日も平凡な1日の終わり、と思っていた。


 彼女が出てきた。

仕事着のスーツ姿で、バッグを肩にかけ、俺の車を探す。

そして、こちらに気づくと笑顔で近づいてくる。


 俺は窓を開け、手を振る。

彼女が車に近づいた瞬間、異変を感じた。


 後ろの路地から、黒いワゴン車が急に飛び出してきた。


 エンジンの音が低く唸り、タイヤがアスファルトを擦る音が響く。


 車は梨央奈のすぐ横に停まり、ドアが勢いよく開く。


 中からマスクをかけた男が数人飛び出し、梨央奈の腕を掴む。


「えっ……!?」


 梨央奈の驚きの声が、俺の耳に届く。

俺は車から飛び出し、叫ぶ。


「梨央奈!」


 男は梨央奈をワゴン車に引きずり込み、ドアを閉める。


 梨央奈の抵抗する姿が、窓から見える。

彼女の目が恐怖で歪み、バッグが地面に落ちる。


 俺は走り寄り、ワゴン車のドアに手をかけようとするが、車は急発進し、俺を振り切る。


 車体が俺の体をかすめ、転びそうになる。

車は角を曲がり、消える。


 タイヤの煙が上がり、排気ガスの臭いが鼻を突く。


 俺の心臓が止まりそうになる。

梨央奈の叫び声が、遠ざかる車内に消える。


「くそっ!」


 俺は地面に落ちたバッグを拾い、車に戻る。エンジンをかけ、ワゴン車を追う。


 心の中で、パニックが広がる。

あの男——紙風の狂気が、ついに爆発したのか。


 弁護士の証拠集めが、彼を刺激した?

車を飛ばし、クラクションを鳴らす。


 渋滞の道を抜け、ワゴン車を追うが、車は高速道路に入り、他の車のせいで離される。


 アプリの位置共有を開く。

それから警察に電話。


「誘拐です!妻が…黒いワゴン車に!ナンバーは……」


 俺の声が震える。

梨央奈の恐怖を想像し、胸が痛む。


 あの男の過去の行為が、頭にフラッシュバックする。


 ストーカー、盗撮、侵入……。

今度は誘拐か。


 ヤバい、梨央奈を助けなければ。車を走らせ、位置を追う。夜の道が、暗く伸びる。


 決着の時が、近づいていた。

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