嫉妬
「お届け物でーす」
私は急いで玄関に荷物を受け取る。
「何頼んだの?」と、秀太くんに聞かれて適当にはぐらかす。
「えっと…その…化粧品」
「そうなんだ。通販で頼むタイプなんだねー」と、なんとか誤魔化しに成功する。
それから部屋に行き、私は少し緊張しながらデスクに箱を置いた。
丁寧にラッピングした紙は淡い青色で、リボンは銀色のものを選んだ。
お返しとして、秀太くんの喜ぶ顔が見たくて、ネットのアドバイスを参考に選んだゲームソフト——「失われた遺産の冒険者」。
最近出たゲームらしく、PS5で遊べるとか。
事前にPS5も購入して、準備万端だった。
どうやらこのゲームはストーリーが深く、戦略要素が多いらしい。
普段ゲームをやらない私でも楽しめそうだなと思い、一緒にやるために購入したのだが…。
正直、心臓がバクバクしていた。
人にプレゼントする時ここまでドキドキしたことは一度もない。
それから夕食を食べてリビングは、柔らかな照明が灯り、コーヒーの残り香が漂う。
秀太くんはソファに座り、テレビのリモコンを弄っている。
私は部屋の中でPS5とゲームソフトを手に緊張をほぐしていた。
それから、部屋を出る。
テレビに夢中になっている秀太くんの横に座ると、クッションが少し沈み、体温が近く感じる。
心臓の鼓動が、少し速くなる。
「秀太君、これ……お返しよ。いつもありがとう」
そこで私が大きな箱と小さな箱を持っていることに気づき、「え?なにこれ?」と目を丸くする。
そして、プレゼントを渡すと指先が軽く触れ合い、温かさが伝わる。
彼はリボンを解き、紙を剥がす。
箱を開け、中身を見て、笑顔になる。
目が輝き、まるでクリスマスの子供のような純粋な笑みを浮かべる。
「え?PS5じゃん。マジ?え?いいの?」
私は微笑み、頷く。
喜んでもらえるかと不安だった気持ちはなくなり、私も嬉しくなる。
「これ……『失われた遺産の冒険者』じゃん。 マジで? ありがとう!これやってみたかったんだよなー!」
彼の声は興奮気味で、目が輝く。
「ほら、いつも負担かけてるお返しに……。私、ゲーム初心者だけど、私でもできそうだし…」
「負担なんかないって。けど、ありがとう。よし、さっそくやろう!」
秀太くんは即座に頷き、ゲーム機をセットする。
テレビの画面にロゴが映り、冒険の世界が広がる。
BGMが流れ、幻想的な音楽が部屋を満たす。
俺たちはソファに並び、プレイする。
最初、操作に戸惑ったが、すぐに感覚を掴み、ゲームの面白さにのめり込む。
これまでの人生、あまりゲームなどはやってこなかったが、こんなに面白いものなのかと関心する。
「あっ、ここ、トラップがあるわ。左に回って、アイテムを取って」
私が指示したとき、「ん?ここ?」と呟いたからな横顔を見て、心臓が跳ね上がる。
そして、肩が触れた感触が、温かく、ドキッとする。
…やばい…すごく幸せ。
けど、だからこそ…心に棘が刺さる。
あの写真…。
◇
次の日、俺は会社で川島に相談した。
「おい、相談という名の惚気話か?」
「違うっての。お前が休みの日に何してたか聞いてきたんだろ」
「お前、本気で惚れてるだろ? ストーカー対策も大事だけど、それとついでに奥さんの心を掴めよ」
その言葉に、俺は考える。
梨央奈への気持ちが、偽装を超え始めている。けど、これがバレたらきっとこの関係は終わりだ。
すると、「今日も迎えに来てくれる?」と、連絡が来る。
俺は「もちろん」と返信する。
「そんで?どうするんだ?対策は」
「それが分からないからネットに強いお前に相談してるんだろ」
「…最低限はやってるわけだろ?あとは警察に頼るしかないだろうな。あーでも…そうだな。一個あるかも」
その話に驚愕しながらもその話に乗るのだった。
帰り、いつものように彼女の会社前で待つ。
彼女が出てきて、笑顔で近づく。
そのまま手をつなぎ、家に帰る。
道中、彼女が「ゲームの続きやりましょう」
その言葉が、嬉しい。
家で夕食を食べ、ゲームを再開する。
画面の冒険が、俺たちの関係を象徴するようだ。彼女の笑顔が、嬉しい。
◇数日前
親友のアドバイスが参考にならないので、私はさらに考えた。
秀太くんへのお返しとして、何かもっと喜ぶものを探したい。
それとなく欲しいものを聞いてみたりしたものの、あまり具体的な回答がもらえなかった。
なので、秀太くんがまだ寝ている間に、またこっそり彼の部屋に侵入する。
寝室を抜け出し、隣の部屋のドアを静かに開ける。
何かヒントでもあれば…と、奥の窪みに目をやる。
そこに、小さなフレームの写真が置かれていた。
悪いと思いながらも、気になって覗く。
それは…高校時代の写真——秀太くんと、宮野さんが笑っている、微笑ましい写真だった。
前に聞いた時、もう宮野さんとは連絡は取っていないと言っていた。
けど……この家に持ち込んだということは、まだ未練があるのか。
本当は、私との関係を嫌々続けているのでは?
私の胸がちくりと痛んだ。
今までに感じたことのないタイプの痛み。
すぐに襲う嫌悪感と、沸々と湧き出す感情。
嫉妬?
それは、心の奥底から這い上がってくるような、よじれる感覚だった。
宮野さんの笑顔が、私の視界に焼きついて離れない。
秀太くんの表情は本当に幸せそう。
今の彼はどうなのだろうか?
私といて…少しは楽しいのだろうか。
心が、締め付けられる。
なぜこんなに苦しい?
私たちは偽装の関係なのに、なぜ彼女に嫉妬するの?
今まであれば過去は過去と切り捨てられていたのに…それでは消化できない。
胸の奥が熱く、息が浅くなる。
彼女の方が、彼にふさわしいんじゃないか?
私のような、合理的なだけのつまらない女より、温かみのある女性が。
少し涙がにじみそうになり、慌てて目を拭う。
非合理的、非効率的。
この感情は、私の計算された世界を乱す。
宮野さんの存在が、これまで積み上げてきた私の自信を削ぐ。
秀太くんが未練を持っているなら、この偽装はただの負担?
「…嫌」
私はその写真をそのまま戻して部屋を後にした。心の中で、ざわつきが止まらかった。




