舞台設定詳細
――境界市
■ 概要
境界市は、日本国内に存在する特別行政区分都市である。
表向きには「先進的福祉・感情ケアモデル都市」として紹介されている。
•人口:約40万人
•都市規模:中核市相当
•表向きの特徴:
•感情医療・心理補助技術の実証運用
•ナノマシン医療の一般化
•行政判断の高度自動化
だが、
この都市の本質は治療でも未来でもない。
「判断を人間から奪うための実験場」
それが、境界市である。
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■ 境界市という名前の意味
「境界」とは、
善と悪の境ではない。
正解と不正解の境でもない。
ここでの境界は、
「問題として扱われるか否か」
その線引きのことを指す。
•問題になる前
•問題にならなかった後
•誰も責任を負わない状態
それらがすべて、
この都市では日常として溶け込んでいる。
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■ 社会システムの特徴
1. 判断支援システムの常態化
境界市では、あらゆる場面に
**「判断補助AI」**が介在する。
•医療
•福祉
•労務
•家庭相談
•通報・申告処理
だが重要なのは、
AIが「決定」しない点だ。
AIはこう言う。
「現時点では、問題は検出されていません」
最終判断は常に人間に委ねられる。
――委ねられるが、背中は押されない。
その結果、
人間は判断しないことを選ぶ。
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2. 感情は「個人資産」であるという前提
境界市の基本思想:
•感情は主観
•主観は証明不能
•証明不能なものは制度化できない
よって、
•苦しみは「本人の問題」
•違和感は「解釈の違い」
•沈黙は「同意」
として処理される。
雨宮澪の職業
**「感情整形オペレーター」**は、
この思想の象徴だ。
感情は壊れてもいい。
形を整えれば、問題は無い。
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■ 生活空間としての境界市
重要なのは、
この都市がディストピアに見えないこと。
•街は清潔
•治安は良好
•人々は礼儀正しい
•暴力事件は少ない
スーパーもある。
カフェもある。
住宅街も、静かだ。
だからこそ、
読者は違和感を否定してしまう。
「この程度なら、普通だ」
それが、この街の完成形。
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■ 主人公たちが“特別でない”理由
篠宮恒一も、雨宮澪も、
境界市では平均値に近い。
•仕事をして
•生活をして
•大きな不満は口にせず
•波風を立てない
彼らは被験者ではない。
模範例である。
この都市が欲しかったのは、
異常な人間ではない。
読者そのものだ。
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■ 《ピース》の立ち位置
《ピース》は都市の管理者ではない。
裁定者でもない。
神でもない。
ただの通過者であり、
記録者であり、
学習装置だ。
境界市は、
《ピース》にとっての「教材」。
そして、
読者は次の観測対象になる。
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■ なぜ、この舞台でなければならないか
この物語は、
暴力を描かない。
悪意も、明確な犯罪も描かない。
描くのは、
**「正しさが積み重なった結果」**だけだ。
だから舞台は、
•現代日本
•技術が進みすぎていない
•だが、十分に便利
•十分に優しい
でなければならない。
境界市は、
読者が「住めそうだ」と思える場所でなければならない。
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■ 最後に
この舞台は、
作中世界の話ではない。
「ここではない」と言い切れない場所。
それが、境界市だ。
もしこの設定を読んで、
「特に問題は無い」と感じたなら――
あなたはもう、
この都市の住人である。
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