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後書き
この物語は、誰かを断罪するために書かれていない。
そして、誰かを救うために書かれてもいない。
読み終えたとき、
「胸糞が悪い」「何も起きていないのに気持ちが悪い」
そう感じたなら、それは正常だ。
この物語に登場する恒一は、
特別に冷酷な人間ではない。
澪を愛しているし、傷つける意図もない。
社会的にも、道徳的にも、彼は“問題のない側”にいる。
だからこそ、この話は成立する。
澪が壊れていく過程に、
明確な事件は存在しない。
暴力も、恫喝も、明白な悪意もない。
あるのは、
「判断しなかった」という判断の連続だけだ。
そしてそれは、
日常を生きる多くの人間が、
ほぼ無意識に選び続けている行動でもある。
この物語が問いかけているのは、
「君は悪いか?」ではない。
「君は、どこにいたか?」
ただ、それだけだ。
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