表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/64

第五十五話:安心してから、ずれる


 朝。


 澪は

 安心している。


 理由は

 無い。


 理由が

 無いのに

 安心している。


 それは

 とても

 良い状態だと

 教えられてきた。


 起きる。


 身体は

 軽い。


 軽いという

 感覚が

 先に来る。


 その後で、

 少しだけ

 遅れて

 疑問が来る。


 ――どうして

 軽いんだろう。


 疑問は

 浮かぶ。


 だが、

 沈む。


 沈んだ疑問は

 拾い上げなくていい。


 拾わないことで

 一日が

 始まる。


 洗面所。


 鏡。


 表情は

 穏やか。


 穏やかであることを

 確認する前に

 納得している。


 納得が

 先。


 確認が

 後。


 順番が

 逆でも

 困らない。


 困らないなら

 正しい。


 キッチン。


 恒一。


「今日、

 顔色いいね」


「そう?」


「うん。

 安心する」


 安心する。


 その言葉が

 澪の中に

 入ってくる。


 抵抗は

 無い。


 抵抗が

 無いことに

 違和感が

 生まれる。


 でも、

 違和感は

 後回し。


 今は

 安心が

 優先。


 朝食。


 味は

 ある。


 あると

 判断できる。


 だから

 問題は

 無い。


 仕事。


 ログイン。


 画面が

 立ち上がる。


 立ち上がった瞬間、

 「出来る」という

 感覚が

 先に来る。


 出来る、

 と思ってから

 作業を

 始める。


 手が

 迷わない。


 迷わないことが

 少し

 怖い。


 怖さは

 認識する。


 だが、

 ラベルを

 貼らない。


 貼らなければ

 感情では

 なくなる。


 昼。


 メッセージ。


「最近、

 本当安定してるよね」


 既読。


 返信。


「ありがとうございます」


 定型。


 定型は

 安全。


 安全な言葉は

 自分を

 守る。


 守られている

 感覚が

 また

 先に来る。


 午後。


 ふと、

 手が

 止まる。


 理由は

 無い。


 理由を

 探さない。


 探さなければ

 再開できる。


 再開できた。


 だから

 問題では

 無かった。


 夕方。


 帰路。


 街は

 いつも通り。


 信号。


 音。


 人。


 すべてが

 配置されている。


 配置されている世界は

 安定している。


 安定している世界に

 自分を

 合わせる。


 合わせられた。


 それで

 安心。


 帰宅。


「おかえり」


「ただいま」


 声の

 高さ。


 今日は

 同じくらい。


 同じなら

 調和。


 調和なら

 問題は

 無い。


 夕食。


「最近さ、

 心配すること

 減ったよ」


 恒一。


「澪が

 平気そうだから」


 平気そう。


 また

 その言葉。


 今度は

 胸に

 残らない。


 滑って

 通り過ぎる。


 通り過ぎたものは

 引き留めなくていい。


「よかった」


 そう

 答える。


 自分の声が

 少し

 遅れて

 聞こえる。


 遅れは

 小さい。


 小さいなら

 誤差。


 誤差は

 無視していい。


 夜。


 風呂。


 湯。


 温度。


 ちょうどいい。


 ちょうどいい、

 と判断した後で

 気づく。


 ――前は、

 こんなに

 判断が早かっただろうか。


 疑問。


 今度は

 少し

 浮く。


 でも、

 湯気に

 溶ける。


 溶けた疑問は

 輪郭を

 持たない。


 輪郭を

 持たないものは

 扱えない。


 布団。


 恒一の

 寝息。


 規則的。


 安心。


 先に

 安心。


 その後で、

 ほんの

 わずかに

 遅れて

 思う。


 ――私は、

 いつから

 こんなに

 平気だった?


 問いは

 立つ。


 だが、

 答えの

 席は

 もう無い。


 席が

 無いなら

 問は

 独り言になる。


 独り言は

 問題にならない。


 だから、

 澪は

 安心したまま

 眠る。


 違和感を

 連れたまま。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ