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第五十四話:平気そう、という完成形


 朝。


 澪は

 起きた。


 目覚ましより

 少し

 早い。


 ――たぶん。


 正確な時刻を

 確認しない。


 確認しなくても

 支障は

 無い。


 身体は

 ちゃんと

 動く。


 動くなら

 起きている。


 それで

 十分。


 洗面所。


 鏡。


 顔色は

 悪くない。


 悪くない、

 という判断が

 即座に

 出る。


 疲労の有無を

 精査しない。


 精査は

 問題がある時に

 するもの。


 今日は

 問題が無い。


 歯磨き。


 泡が

 口の端に

 少し残る。


 以前なら

 気になった。


 今は

 流せば

 終わる。


 流せた。


 それで

 済む。


 キッチン。


 恒一は

 もう

 起きている。


「早いね」


「うん」


 理由を

 聞かれない。


 理由が

 無いから

 助かる。


 朝食。


 今日も

 普通。


 味も

 量も

 会話も。


 普通は

 完成形だ。


 仕事。


 オンライン。


 画面の向こう。


「最近、

 安定してますね」


 同僚の声。


 数値。


 グラフ。


 どれも

 綺麗。


「ありがとうございます」


 自然に

 返す。


 自然に

 返せたことを

 評価する。


 評価できるなら

 問題ない。


「無理してない?」


 一応の

 確認。


「大丈夫です」


 即答。


 即答できた。


 迷わなかった。


 迷わないということは

 確信がある

 ということ。


 確信があるなら

 疑わなくていい。


 昼。


 画面を見ながら

 食べる。


 噛む回数を

 数えない。


 満腹を

 確認しない。


 食べ終わった。


 それだけ。


 午後。


 軽い

 頭痛。


 軽い、

 と判断できる

 程度。


 薬は

 飲まない。


 飲まなくても

 仕事は

 進む。


 進むなら

 対処は

 不要。


 夕方。


 帰り道。


 信号待ち。


 赤。


 待つ。


 青。


 渡る。


 横断歩道の

 白線を

 踏む。


 自分が

 今ここにいる

 という感覚。


 少し

 薄い。


 でも、

 景色は

 連続している。


 連続しているなら

 現実だ。


 現実なら

 安心していい。


 帰宅。


「おかえり」


「ただいま」


 声が

 重ならない。


 でも、

 ズレても

 問題にならない。


 ズレは

 日常。


 夕食。


「最近、

 澪

 落ち着いてるよね」


 恒一。


「そう?」


「うん。

 なんか、

 平気そう」


 平気そう。


 その言葉が

 胸に

 落ちる。


 ――平気そう。


 否定できない。


 否定する理由も

 無い。


「そっか」


 それで

 会話は

 終わる。


 終わっても

 空気は

 壊れない。


 壊れないなら

 正解。


 夜。


 風呂。


 湯船に

 沈む。


 浮力。


 身体が

 軽くなる。


 軽くなるのは

 良いこと。


 軽くなりすぎて

 境界が

 曖昧。


 でも、

 溺れてはいない。


 溺れていないなら

 大丈夫。


 布団。


 恒一の

 背中。


 距離。


 今日は

 測らない。


 測らなくても

 隣にいる。


 隣にいるなら

 関係は

 成立している。


 〇・五秒。


 ズレは

 もう

 誰にも

 分からない。


 自分にも

 分からない。


 分からないものは

 説明できない。


 説明できないものは

 存在しない。


 存在しないなら

 心配も

 不要。


 ――平気そう。


 その評価は

 外から

 完成する。


 完成した評価は

 書き換えられない。


 だから今日も、

 澪は

 問題の無い

 一日を

 終える。


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