表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/64

第二十二話:処理済み


 朝。


 澪は、

 目覚ましが鳴る前に目を開けた。


 理由は無い。


 最近、

 そういうことが増えた。


 天井を見る。


 光。


 カーテンの隙間。


 今日は晴れ。


 たぶん。


 身体を起こす。


 一瞬、

 何かを考えかけて――

 やめる。


 考える必要は無い。


 起きる。


 洗面所。


 歯を磨く。


 鏡の中の自分を見る。


 表情は、

 問題ない。


 少なくとも、

 そう判断できる。


 キッチン。


 コーヒーを淹れる。


 音を立てないように。


 これは、

 気遣いではない。


 癖だ。


 癖は、

 理由を必要としない。


 恒一が来る。


 「おはよう」


 澪は、

 一拍。


 「……おはよう」


 遅れた理由は、

 無い。


 言葉が、

 少し遠かっただけだ。


 でも、

 返した。


 だから、

 問題は無い。


 恒一が出かける。


 「いってらっしゃい」


 声を出す。


 少し遅れる。


 でも、

 届いた。


 たぶん。


 ドアが閉まる。


 静かになる。


 澪は、

 立ったまま数秒止まる。


 何をしていたか――

 思い出す必要は無い。


 在宅。


 仕事用端末を起動する。


 感情整形オペレーター。


 他人の感情ログ。


 歪み。


 ノイズ。


 過剰な痛み。


 澪は、

 淡々と処理する。


 不要な感情を削る。


 強すぎる自己否定を薄める。


 悲鳴にならない声を、

 滑らかに整える。


 作業は正確だ。


 ミスは無い。


 自分の感情は、

 対象外。


 昼。


 食事を摂る。


 味は、

 分かる。


 でも、

 評価はしない。


 美味しいかどうかは、

 重要じゃない。


 栄養は足りている。


 問題は無い。


 午後。


 仕事再開。


 ログの中に、

 妙な空白がある。


 感情が、

 記録されていない。


 澪は、

 少しだけ指を止める。


 でも――

 空白はエラーじゃない。


 「判断不能」と記されているだけだ。


 それは、

 問題じゃない。


 処理を続ける。


 夕方。


 恒一からメッセージ。


 「今日は遅くなる」


 澪は、

 すぐ返さない。


 数秒。


 「了解」


 短い。


 十分だ。


 夜。


 恒一が帰ってくる。


 「ただいま」


 澪は、

 少し遅れて顔を上げる。


 「おかえり」


 恒一は、

 安心した顔をする。


 澪は、

 それを見て、

 安心していると思う。


 食事。


 会話。


 少ない。


 でも、

 問題は起きない。


 恒一は、

 優しい。


 澪は、

 それを疑わない。


 疑う必要が、

 無い。


 夜。


 布団に入る。


 恒一の呼吸。


 近い。


 澪は、

 目を閉じる。


 胸の奥に、

 何かが溜まっている。


 名前は、

 付けない。


 付けなければ、

 問題にならない。


 処理は、

 既に終わっている。


 澪は、

 そう判断する。


 暗闇。


 静か。


 世界は、

 今日も正常だ。


 だから――

 明日も、

 同じでいい。


 何も起きていないと

 記録されるまま。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ