日本內戰錄 第九號記錄 ― 七月十五日・戦線に漂う違和 ―
七月十五日。
前線の空気が昨日と違う。
銃声は少ないのに、
兵の表情がどこか乾いて見える。
今日は三名で谷沿いの巡察。
小規模な移動の予定だったが、
どの斜面も泥が深く、
歩くたびに靴が吸い込まれるようだった。
午前、遠くで単発の銃声が響いた。
距離がある。
昨日のような接触ではない。
だが、音に“重さ”があった。
誰かが焦って撃った音だ。
黒田は補給で別の場所を動いている。
あいつの足取りが重くなる頃だろう。
補給兵は前線以上に危険だ。
だから“無事に戻ってきた”という事実だけで十分だ。
廃屋の近くで足跡を見つけた。
帝国側の靴跡だ。
深さが不規則で、
疲れていたか、急いでいたかのどちらか。
追う必要はない。
任務は巡察であって狩りではない。
夕方、霧が薄くなった瞬間、
遠くの尾根で小さな煙が立っていた。
砲撃ではなく、処理ミスか、
あるいは誰かが物資を焼いた痕。
“戦線が崩れる前に出る匂い”を感じた。
銃の手入れを済ませて記録を残す。
今日は静かだった。
だが静けさが“安堵”ではなく“予兆”に近い。
明日も余計な動きが増えそうだ。
―― 河合 慎
七月十五日。
補給路に入った瞬間、
“今日は長い日になる”と感じた。
弾薬箱と食糧袋を背負って第三補給点へ。
昨日より明らかに道が荒れている。
ぬかるみの深さが増していて、
足を抜くたびに筋肉が痛む。
途中で、前日の廃車両が新しく焼け焦げていた。
誰かが処分しようとしたのか、
帝国側の残党が放火したのか。
理由は分からない。
だが、現場に残った匂いは、
戦線が“落ち着いていない”証拠だった。
補給点の隊長は疲れ切った顔で言った。
「今日から要求量が二倍だ。
帝国側の補給が止まりつつあるらしい」
つまり、その穴埋めを俺たちがやる。
帰り道、谷の向こうで黒い煙が細く上がっていた。
音はない。
誰かが燃料を落としたのかもしれないし、
負傷兵が熱で物資を焼いたのかもしれない。
補給兵は戦況を知らされない。
だが、道の状態と兵の顔を見るだけで
何が起きているか大体分かる。
今日は“前の戦線よりも道が重かった”。
それだけで十分だ。
―― 黒田 翔




