日本內戰錄 第八號記錄 ― 七月十二日・北側高地観測点 ―
七月十二日。
朝から風が強い。
高地では風向きが一定しないため、
狙撃には向かない一日だ。
観測任務で北側の高地に入った。
この位置は戦線の端で、直接の交戦はほとんど無い。
だが、この場所ほど全体の動きが見える場所はない。
午前、帝国側の陣地から煙が上がった。
砲撃の跡ではない。
規模が小さく、
恐らく装備か燃料が自然発火したのだろう。
あるいは、焦りからくる処理ミスか。
午後、谷を挟んだ反対側で小規模な銃声が続いた。
距離があるため詳細は見えない。
谷底の霧で音が散って、方向も曖昧だ。
近いようで遠い、
遠いようで近い。
嫌な響きだ。
本部からは「特筆なし」と報告が来たが、
現場の空気は明らかに変わっている。
敵味方どちらも、消耗が表に出始めている。
戦線の端に立つとそれがよく分かる。
観測を続けていると、
一瞬だけ、遠くを走る兵影が見えた。
帝国側か、革命側かは判断できない。
ただ、動きが重い。
既に複数の戦闘を抜けてきた者の走りだ。
夕方、前線の補給隊から支援要請が来た。
物資が足りず、斜面で動けない部隊が出ているらしい。
黒田の担当範囲かは知らないが、
補給の乱れは戦線崩壊の前触れだ。
帰投中、
ふと、南側で“鉄を擦るような音”が聞こえた。
銃の整備か、車両の移動か、
あるいは誰かが武器を投げ捨てた音かもしれない。
戦場では、同じ音でも意味が変わる。
銃の手入れをして、
今日の記録をここに残す。
戦線は静かだが、
“静けさの質”が変わってきている。
それだけは確かだ。
―― 榊原 明良




