日本內戰錄 第七十七號記錄 ー 記錄ハ此処デ終ワル ー
十月二十六日。
終戦から五日が経った。
銃声のない朝は、思っていたほど安らかではない。
静けさが深すぎて、かえって耳が痛い。
前線の塹壕は風だけが通り抜け、
泥水も、焦げ跡も、倒れた木々もそのままだ。
戦争が終わったからといって、
この土地が昨日より平和になったわけではない。
ただ、音が消えただけだ。
補給所跡を歩く。
黒田がよく荷を運び、文句を言い、
それでも仲間を笑わせていた場所。
彼の足跡はもう残っていない。
けれど、そこにいた気配だけは消えない。
仲間の多くは戻らなかった。
戦果報告も、勲章も、誰かの慰労も関係ない。
彼らが確かに生きていた時間だけが事実で、
その事実を覚えている者は少しずつ減っていく。
夕方、部隊に指示が届いた。
「本部へ移動準備。再編成の可能性あり」
戦争は終わったが、
これから何が始まるかは誰にも分からない。
夜、崩れた塹壕に腰を下ろし、
湿った土を指で握った。
暖かさも冷たさもない、ただの泥。
けれど、この泥の上であまりにも多くの声が消えた。
記録は今日で終わりにする。
終戦の日付を書いた時点で、本来は十分だろう。
それでも少しだけ書き続けたのは、
誰かの名がどこかに一つでも残れば、それで良いと思ったからだ。
明日、俺たちは撤収する。
銃を握るかどうかも分からない。
この国がどんな形で続いていくのかも分からない。
だが――
ここに書かれた日々が、
誰かの記憶のどこかで生きていくことを願う。
これで終わる。
―― 河合 慎




