日本內戰錄 第七十六號記錄 ー 静寂ノ中ニ残ル声 ー
十月二十六日。
終戦から三日。
前線だった場所は、まるで嘘のように静まり返っている。
銃声のない朝がこれほど落ち着かないものだとは知らなかった。
部隊は一時的に待機命令となり、
塹壕の補修も、巡視も、
ほとんど“形だけ”の業務になった。
誰も敵の姿を探していない。
もう、そこに敵はいないのだから。
しかし、心は戦争をすぐにはやめられないらしい。
物音がすると身体が硬直し、
遠くのエンジン音に手が銃を探す。
医官には「反応は普通だ、全員そうだ」と言われた。
昼過ぎ、補給所の跡地を歩いた。
黒田がよく文句を言いながら荷を担いでいた場所だ。
焼け跡や泥はそのままで、
戦争が終わったという実感はそこにはない。
黒田の死も、まだ現実として定まっていない気がする。
「明後日話がある」と言った声が残ったまま、
空白だけが静かに積もっていく。
夕方、部隊に新しい指示が届いた。
「近日中に本部へ移動、再編成の可能性あり」
勝ったとはいえ、この国がどうなるのか分からない。
復興なのか、粛清なのか、
それとも別の何かなのか。
兵たちの顔は、勝利のあととは思えないほど疲れていた。
だが、疲れの奥に小さな安堵があるのも見えた。
この静けさが、もうしばらく続くことを祈るしかなかった。
今夜は珍しく風が弱い。
その分だけ、遠くの記憶がよく聞こえる。
―― 河合 慎




