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日本內戰錄 第七十四號記錄 ー 主力線崩壊ノ報 ー
十月二十二日。
足の再検査を終えて医療所へ戻る途中、
通信兵が勢いよく駆け込んできた。
その顔は、良い知らせか悪い知らせか判断しづらいほど強張っていた。
「帝国軍北部主力拠点、陥落!
防衛線は全面崩壊!
敵は大規模撤退、再編は不可能との見通し!」
廊下にいた兵も医官も動きを止めた。
誰も大声を上げない。
ただ、全員がその言葉の重さを理解していた。
帝国側が最後の“本気の防衛線”を失ったということ。
それは戦争がもう形を保てなくなりつつある、決定的な証だ。
窓の外を見ると、曇り空が低く垂れていた。
戦場の煙はここまで届かないが、
胸の奥に沈んでいた重しが少しだけ揺れた気がする。
黒田の顔が浮かんだ。
明後日伝えたいことがあったと言い残して、
その翌日に撃たれて帰らなかった男。
あいつが生きていたら、この報せをどう聞いたのだろうか。
喜びではない。
かといって悲しみでもない。
ただ、長く続いた戦争が「終わり」という言葉に手を伸ばし始めた、
その気配だけが静かに胸に落ちてきた。
―― 河合 慎




