表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日本內戰錄 ― 彼等ハ 如何ニ戰ヒ、如何ニ散リシカ ―  作者: イグアナ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/77

日本內戰錄 第七十三號記錄 ー 前線復帰一日目 ー

十月十三日。

復帰初日。

前線に戻った瞬間、空気の重さが肌にまとわりついた。

ここ数日の戦況悪化は噂で聞いていたが、実際に陣地の様子を見ると噂以上だ。塹壕は急造の補強材で固められ、休憩所には見慣れない顔が増えていた。入れ替わりが激しすぎて、名前を覚える暇すらない。


任務は稜線沿いの監視。

前線が後退しているため、敵の動きが読みづらくなっているらしい。

隊長は短く言った。


「敵偵察隊が近くまで来ている可能性がある。

 静かに、慎重に動け」


山道は落ち葉を踏むと乾いた音が鳴り、風が吹くたびに砂埃が舞う。

空は晴れているが、どこか色が薄い。

本部爆撃の煙が届いているわけではないが、目に見えない不穏さが空気に混ざっている。


監視地点に着き、岩陰から谷を見下ろす。

双眼鏡を覗く手にまだ力が入らない。

傷は動けるほどには塞がっているが、完全ではない。

それでも銃の重さだけは自然に馴染んだ。


しばらく静寂が続いた。

遠くの砲声だけが一定の間隔で響く。

その音がやけに低く聞こえるのは、俺の勘が鈍ったのか、

それとも戦況が実際に沈んでいるからなのか、判断がつかない。


昼過ぎ、無線が小さく鳴った。

「北東の谷に不審な動き。影三つ確認」


隊長が手で合図し、小隊が散開する。

俺も岩陰から銃を構えた。

視界の端に黒い動き――

敵の斥候だ。


引き金を引くと、腹の傷がわずかに疼いた。

だが感覚はまだ鈍っていない。

一人が倒れ、二人が散開して逃げる。

追撃はしない。

いまの戦力では深追いは自殺行為だ。


任務終了後、陣地へ戻る途中、若い兵がぽつりと呟いた。


「……本当に、終わりが近いんじゃないですか」


誰も否定しなかった。

今日の空の色は、戦争の終わりを告げる色に見えた。


復帰初日は、静かだが確実に“崩れゆく音”が響く一日だった。


―― 大淵 貞男


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ