日本內戰錄 第六十六號記錄 ー 遠方ノ墜落 ー
九月二十五日。
補給所で物資の仕分けをしていると、
空がやけに騒がしかった。
普段よりも高い位置を、
何機ものジェット音が通り過ぎていく。
昼過ぎ、無線係が慌ただしく走り回り、
基地の整備班もそわそわしていた。
前線で何か起きたのは分かったが、
ここは後方だ。
詳細は落ちてこない。
午後になってようやく断片的な情報が来た。
「帝国側の戦闘機編隊と交戦したらしい」
「敵八機のうち、数機が落ちた」
「味方の損失は……今のところ報告なし」
数字は曖昧なままだった。
敵が何機落ちたか、
こちらがどれだけ撃墜したか、
はっきりしない。
ただひとつ、
“遠くの空で何かが落ちた”
という事実だけが残った。
整備兵が工具を片づけながら言った。
「帝国側の空軍は最近、新兵を飛ばしてるらしい。
操縦が安定しない機体が多いんだと」
敵の未熟さを笑う兵もいたが、
大半は黙っていた。
誰も声を上げて喜ばなかった。
空で燃えて落ちるのは、
敵兵であっても、誰かの“人間”だ。
それを知っているだけの年月が、
皆の背中に沈んでいた。
夕方、補給名簿の確認をしながらふと思った。
敵が減れば戦争は少しは楽になるのだろうか。
だが、その“減る”には
必ず死がついて回る。
地上で死んだ者も、
空で落ちた者も、
同じように名簿の線一本で終わる。
今日の空は、やけに静かだった。
―― 黒田 翔




