表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日本內戰錄 ― 彼等ハ 如何ニ戰ヒ、如何ニ散リシカ ―  作者: イグアナ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

65/77

日本內戰錄 第六十五號記錄 ー 空ニ消エタ影 ー

九月二十五日。

前線の陣地で武器点検をしていると、

遠くの空で重い音がした。

地面を震わせるような、

爆撃とも違う、

空気が裂けるような音。


その直後、上空を何かが通り過ぎた。

姿は見えなかったが、

ジェット機の通過音だった。

機数は多い。

味方か敵か判別できないまま、

兵たちは空を見上げていた。


しばらくして、

本部の無線が途切れ途切れに入った。


「味方攻撃隊、帰投中に敵編隊と交戦……

 詳細不明……

 一機、消息を失う……」


一機。

その言葉だけが妙に耳に残った。


午後、補給線沿いで警戒任務に移動すると、

背後の山の向こうで黒煙が上がった。

風のせいで煙は細く伸び、

場所も距離もはっきりしなかった。


同行していた伍長が

「空の連中がまたやられたかもな」

と呟いた。


日比谷の名が頭をよぎった。

数日前、病院で見たあの若い顔。

復帰したばかりで、

まだ戦争の重さを身体に染み込ませきれていないような目をしていた。


夕方、陣地に戻ると、

空軍との連絡将校が短く言った。


「八機編隊が敵戦闘機と遭遇。

 五機撃墜、三機は離脱成功。

 一機、帰還せず。

 たぶん……落ちた」


誰が落ちたかまでは言わなかった。

聞く者もいなかった。


空の戦いは、地上より早い。

そして、残酷だ。

高く飛ぶほど、落ちれば死ぬ。


夜、照明の下で整備兵が煙草を吸っていた。

火だけが小さく揺れた。


戦友が死んだわけではない。

顔見知りがいなくなったわけでもない。

だが、胸の奥が急に重くなる瞬間があった。


空に消えた影は、

名簿の一本の線で片付けられる。


それでも、

どこかでまだ飛んでいる気がしてならない。


―― 大淵 貞男


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ