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日本內戰錄 第六十號記錄 ー 静穏ノ日の不安 ー
九月二十日。
本日は「前線静穏」の通達があった。
だが、戦場で“静か”という言葉ほど信用の置けないものはない。
午前は陣地外周の見回りだけで終わった。
風が強く、砂が舞い、木々の揺れが索敵の邪魔をする。
地面の振動もない。
爆煙もなく、銃声もない。
それがかえって落ち着かない。
昼、配給の飯を食べながら伍長が呟いた。
「今日は空が騒がしくないな」
昨夜までF-86Fが上空を頻繁に通過していた。
今日はそれすら無い。
空が静かな日は、どこか別の場所が忙しい日だ。
午後は休養扱いとなったが、
身体は休まる気を見せない。
銃を近くに置く癖だけが抜けない。
気を抜けば死ぬ──
それを身体が覚えたのか、ただの習慣か、もう分からない。
夕方、陣地の影でタバコを吸った。
火をつける指がわずかに震えた。
戦闘があっても震えるし、
なくても震える。
それだけのことだ。
今日は撃たず、追わず、
ただ時間が流れた。
しかし静かな一日というのは、
明日の激戦の予兆であることが多い。
―― 大淵 貞男




