日本內戰錄 第六號記錄 ― 七月八日・谷沿い接触戦 ―
七月八日。
朝から霧が出ていた。
視界が悪いまま、谷沿いの哨戒に出された。
昨日よりも森の匂いが濃い。
湿気で服が重い。
隊は三名。
歩幅の合わない斜面を、ゆっくりと降りていたときだ。
前方で枝が折れた。
鳥ではない。
重さのある折れ方だった。
上官が合図を出す。
俺たちは散開し、木の影に身を隠した。
霧で距離が掴みにくい。
だが、確かに“気配”があった。
次の瞬間、乾いた破裂音。
耳が跳ねた。
弾が近くの幹に刺さった。
敵に見つかったと理解した。
返すように上官が数発撃つ。
俺も撃った。
狙いはつけたつもりだが、
霧のせいで着弾は見えない。
さらに一発。
左腕に強い衝撃が走り、
視界が一瞬白くなった。
撃たれた。
痛みは遅れてきたが、
それよりも腕が動かないことが分かった。
上官が叫んだ。撤退の合図だった。
俺は肩を押されるようにして斜面を上がった。
霧の向こうで誰かの足音が近づいた気がする。
追っているのか、別人なのかは分からない。
斜面の中ほどで転んだ。
土の匂いが鼻に刺さる。
それでも立った。
死ぬわけにはいかない。
上に戻る頃には、銃声は止んでいた。
敵が追ってこなかったのか、
それとも十分な距離ができたのか。
どちらでもいい。
生き残れた。
包帯を巻かれながら、上官が言った。
「敵は二、三名。動きが早かった」
俺は頷くしかなかった。
撃った相手の顔も影も見ていない。
ただ、こちらを“確実に狙っていた”ことだけは覚えている。
もう少し遅れていたら多分、死んでいた。
今日生きているのは運だ。
それ以外の理由はない。
―― 中原 光太




