日本內戰錄 第五十九號記錄 ― 久しぶりの休み―
九月二十日。
休養日と呼ばれたが、
実際は“銃を握らずに済む日”というだけだ。
夕方、第八中隊の詰所に戻ると、
缶ビールが数本だけ並んでいた。
補給のどさくさで混じったものらしい。
誰が持ってきたのかは分からないが、
黙って置かれている缶は、
それだけで贅沢に見える。
黒田が先に腰を下ろしていた。
足の怪我はまだ重いはずなのに、
酒の前では妙に姿勢が良かった。
「久しぶりですね、中隊で飲むの」
と言うと、
黒田は缶を開けながら
「こういう日が無いと、身体より頭が先に壊れる」
と笑った。
誰かが小さなラジオを持ち出したが、
雑音ばかりで、すぐ音を切った。
音が無いほうが落ち着く。
数人で缶を回しながら飲んでいると、
誰かが「最近、味が分からなくなってきた」と言った。
笑った者もいたが、
そのあとに続く言葉はなかった。
外は風が強く、
照明の影が布壁に揺れ続けていた。
黒田は、飲み終えた缶を机に置いてから
「……戻れて、よかったです」
とだけ言った。
その“戻れた”の中に、
失った者が何人いるのかは考えたくなかった。
今日はそれで終わりだ。
明日はまた銃を持つ。
―― 河合 慎
九月二十日。
休養日。
足は歩くたびに重いが、
もう痛みには慣れた。
夕方、第八中隊に戻ると、
机の上にビールが数本置かれていた。
前線では滅多にない光景だ。
河合が入ってきて、
「飲むのは久しぶりだな」
と言った。
その通りだった。
捕虜交換のあと、
まともに酒を口にしていなかった。
缶を開けると、
炭酸の弾ける音が大きく響いた。
静かな日の音は、余計に耳に残る。
中隊の数人が集まり、
作戦の話以外の雑談を続けた。
内容は薄いが、
それで良かった。
外の風で照明の影が揺れた瞬間、
銃声の記憶がよぎった。
だが、酒のおかげか、
深くは引きずらなかった。
河合が
「戻れてよかったな」
と言った。
返事をするまで少し間が空いた。
“生き残った”のか
“たまたま立っているだけ”なのか、
判断がつかない日がある。
それでも、今日の酒は悪くなかった。
―― 黒田 翔




