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日本內戰錄 ―第五十八號記錄 ―
九月十八日。
朝から湿気が強く、包帯の乾きが悪い。
野戦治療所の布天井は時々きしみ、
器具棚の金具が微かに鳴っていた。
落ち着かない空気だった。
午前、後方警戒中の班から二名搬送。
一人は足首の捻挫、もう一人は裂傷。
どちらも命に関わらないが、
動けるようになるまで数日はかかる。
処置中、南の空で爆撃音。
金属板を叩くような低い衝撃が、地面越しに伝わった。
誰かが「航空隊が動いたらしい」と囁いた。
表情が固まっている兵が多い。
空の音は、怪我より精神を削る。
午後、近隣の監視小隊から一名搬送。
木の枝で腕を切っただけだったが、
本人はやけに落ち着きがなく、
手が震えていた。
戦闘ではなくとも、
“何かが起きた音”が近くにあるだけで、兵は不安定になる。
包帯を巻き替えながら、
兵が「敵の姿は見なかった」と言った。
その言葉だけが、逆に落ち着かなかった。
夕方、医療所の記録をまとめていると、
外で誰かが笑った。
理由は分からないが、
笑い声が少し高くて、軽く震えていた。
緊張が抜けない日の特徴だ。
今日の負傷者は三名。
重傷はゼロ。
だが、全員の顔が疲れている。
戦闘が無い日でも、
治療所は静かにならない。
―― 坂井 苑




