日本內戰錄 第五十六號記錄 ― 再び空へ ―
九月十八日。
本部病院を退院して三日。
担当士官から復帰の許可が出た。
本心では、まだ脚の鈍い痛みが残っているが——
前線の飛行隊は、俺みたいな半端者を気遣う余裕はないらしい。
滑走路の補修は完全ではない。
アスファルトの焦げ跡と、破片を拾った跡がまだ生々しい。
それでもF-86F改修型は、俺を乗せれば跳ねるように前へ進んだ。
操縦桿が手の中に戻ってくる感覚。
あぁ、これが今の俺の居場所なのだと、体の奥が思い出した。
任務は“前線北側の敵小規模戦車隊の無力化”。
偵察の報告では五両。
歩兵も随伴しているらしい。
高度一千。
雲を噛むような軽い振動の中、目標地点に入った。
地上には、森の切れ目に並んだ鋼鉄の箱。
土埃、動き、光の反射。
あれは確かに戦車だ。
「日比谷、攻撃開始してよし」
無線が短く割れた瞬間、
俺は機体を傾けて急降下に移った。
爆弾が落ちる。
次の瞬間、戦車列の中央が火柱を上げた。
衝撃で機体が揺れ、
腹の底で浮遊感と恐怖が混ざる。
残りの戦車が散開しようとしたが遅い。
二度目の爆撃で側面を破壊。
三度目で歩兵が吹き飛び、
自分でも見たくないほどの赤い点々が地面に散った。
無線が言う。
「……全滅を確認。任務完了だ」
だが、喜びなどなかった。
地上の炎が揺れ、焦げた鉄がねじれ、
黒い煙がまっすぐ空に昇っていく。
生き残った者は一人もいない。
俺が殺したのだ。
滑走路に戻る頃には、胸の奥が重く沈んでいた。
復帰したからと言って、
誰も俺を祝ったりしない。
それが当然だ。
戦場に戻っただけなのだから。
ただ、着陸した瞬間だけは、
“生きて帰った”という事実だけが
飛行機の振動と共に手のひらに残った。
―― 日比谷 守




