表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日本內戰錄 ― 彼等ハ 如何ニ戰ヒ、如何ニ散リシカ ―  作者: イグアナ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/77

日本內戰錄 第五十五號記錄 ― 静かな再会 ―

九月十五日。

捕虜交換から戻り、ようやく味方の土と空気の匂いを吸った。

本部の医療棟は、相変わらず消毒液の臭いと湿った木材の香りが混じっている。


坂井に案内され、

「彼なら……起きてるよ」と言われた。


カーテンを開けると、河合がベッドにもたれていた。

包帯の巻かれた足が痛々しいが、表情はいつもの無愛想だった。


「……帰ってきたか、黒田」


その声を聞いた瞬間、何かが胸に落ちた。

安堵よりも、「やっと繋がった」と思った。


「悪い。心配かけた」


河合は眉をひそめ、不器用に笑った。


「……捕虜交換の名簿でお前の名前を見た時な。

 安心したが……同時に腹も立った。

 置いていかれた気がした」


「……悪かった」


そう返すと、河合は首を振った。


「生きて戻ったならそれでいい。

 死んだ奴は何も言えんからな」


病室の外で担架の金属音が響く。

どこもかしこも、まだ戦争の真ん中だ。


「退院したらまた補給、頼むぞ。

 ……できれば、二度と撃たれるな」


「善処する」


それだけで、十分だった。

戦友の間に戻るには、言葉はいらない。


―― 黒田 翔



九月十五日。

黒田が戻ってきた。

捕虜交換で帰還した兵の一人として名簿にあったが、

実際に本人を見るまでは安心できなかった。


廊下で彼を見つけた時、

顔色は悪いが、目だけはいつもの黒田だった。


「河合のところまで案内しようか」


黒田は小さく頷いただけだ。

病院に戻ってきた兵は、皆だいたい同じ顔をする。

どこか他人事のようで、どこか現実をつかみきれないような表情。


カーテンをめくると、

河合がこちらを見た。

二人が視線を合わせた瞬間、

言葉よりも先に“沈黙”が落ちた。


それは医療者には作れない、

戦友同士にしかできない静けさだった。


私は部屋から離れようとしたが、

河合が小さく言った。


「……坂井。黒田の足の状態、どうだ」


「捕虜時の拘束で筋が固くなっているだけ。

 動けば戻る。問題はない」


河合は目を閉じて息を吐いた。

黒田は何も言わず、ただそのやり取りを聞いていた。


二人がどれほど積み重ねてきたか、

私は知らない。

けれど、

“生きて再び会う”という事実は、

戦場では奇跡に近い。


数分後、私は記録のため病室を離れた。


背後で、二人が小さく話す声がした。

内容までは聞こえない。

だが、あの声の質だけで十分だった。


―― 坂井 苑


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ