日本內戰錄 第五十三號記錄 ― 崩れる陣形の中で ―
九月十一日。
今日は“戦闘”というより、
“崩壊の記録”に近い。
午前の巡視中、
西側の倉庫街で突然の集中射撃を受けた。
先頭を歩いていた五名は、
反応する間もなく倒れた。
銃声より先に、
肉が裂ける音が聞こえたような気がした。
部隊の三分の一が、
最初の十秒で消えた。
「伏せろ!」と叫ぶ声が、
自分のものなのか他人のものなのか分からなかった。
敵は建物の三方向から撃ってきていた。
数は三十前後。
こちらは混乱し、
弾を撃ち返すまでに数秒遅れた。
その数秒が、
死人を増やした。
反撃が整ったのは一分後。
そこからは流れ作業のような戦闘だった。
窓に影が見えたら撃ち、
瓦礫の向こうに動きがあれば撃った。
敵が何人倒れたか、
戦闘中には数える余裕はなかった。
終わった後、
生き残った兵が確認した数は二十九。
最後の一人は東の路地へ逃げたが、
追う価値はなかった。
銃撃が止んだ直後、
足に力が入らなくなった。
右脛の横に深くえぐれた傷があり、
血でズボンが貼りついていた。
撃たれた瞬間には気づかなかった。
戦闘中は痛みを感じる余裕がなかったのだろう。
「副長、立てますか!」
誰かが肩を支えた。
立てなかった。
地面の冷たさだけがはっきり分かった。
担架で後方へ運ばれたが、
途中で二度意識が途切れた。
坂井の医療所に着いた時には、
白衣の影がぼやけて見えた。
坂井は状況だけ短く聞き、
すぐに傷を確認した。
「骨は無事。……ただし深い。
縫っても、歩けるようになるまでは時間が要る」
その声を聞いたとき、
戦場から一歩だけ外れた気がした。
外に置いてきた“二十九の死体”が、
急に重くのしかかる。
記録は以上。
―― 河合 慎




