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日本內戰錄 第五十二號記錄 ― 命令書の下に置かれた紙 ―
九月十日。
復帰命令が出る前、
中隊本部に呼ばれた。
机の上には、
復帰後の配置図と、
一枚の白い紙が伏せて置かれていた。
将校がそれを指で押し、
顔を上げずに言った。
「中原の件だ。……昨夜、死亡が確認された」
短い言葉だった。
言い方にも抑揚はなく、
誰の死でも同じように扱う口調だった。
紙を表に返すと、
淡い墨色の文字で状況が記されていた。
――本部病院にて、腹部損傷悪化。
止血処置に反応せず、意識回復なく死亡。
時間、九日二二時一〇分。
読んだ瞬間、何も思わなかった。
それが一番近い。
戦場では
人が死ぬという事実と感情が
同時には来ない。
光太の顔を思い出すまでに
少し時間がかかった。
初めて会った日の、
やけに元気な敬礼。
前線に出て二日目で
敵三名を撃った時の荒い息。
撤退中に泥だらけになりながら
「まだ走れます」と言った声。
鼻の奥が痛くなったが、
涙にはならなかった。
将校は最後にこう言った。
「……遺体は野戦の状況上、すぐには戻せん。
記録に署名していけ」
俺は署名し、
紙が束の中に紛れていくのを見た。
戻ってきた兵舎は静かで、
ベッドの数だけ余白があるように感じた。
光太の分の余白も、
今日からそこに含まれる。
記録は以上。
―― 大淵 貞男




