日本內戰錄 第五十一號記錄 ― 戻る場所のない前線 ―
九月五日。
光太が撃たれた。
午前の交戦で、
敵弾が石壁を跳ねて光太の腹部に入った。
すぐに担架で運び、
野戦病院へ預けた。
医療班は「本部へ送る可能性が高い」とだけ言った。
光太が運ばれる背中を見送り、
俺はすぐ部隊へ戻った。
人員が減れば、残った者で戦線を埋めるしかない。
午後、丘の手前で敵六名と接触。
初撃を遅れたため、
相手の弾が胸の横をかすめて布と皮膚を裂いた。
息が詰まったが、骨までは届いていない。
「撃て!」
声と同時に、体が勝手に動いた。
狙って三射、狙って二射。
乱射ではなく、確実に当てる意識だけを残した。
五名が倒れ、
一名は斜面へ転がるように逃げていった。
深追いすればこちらが狙われるため追わなかった。
負傷者は俺を含め二名。
もう一人は足を撃たれ、歩行不可能。
担架で野戦病院へ向かうことになった。
歩くたびに胸が痛んだが、
それより光太の状態が気になった。
野戦病院のテントが見えた瞬間、
少しだけ安心した。
光太の顔を見るまでは帰れないと思っていた。
だが、受付の兵士は首を振った。
「中原は──先ほど本部病院へ移送されました。
腹部損傷が深く、野戦では限界だと判断されて」
胸の痛みより、
その言葉のほうが重かった。
追いかけても追いつける距離ではない。
戦線はすぐ後ろにあり、
俺は再び戻らねばならなかった。
戦場では、
誰かを見送るたびに
一人分の影が薄くなる。
記録は以上。
―― 大淵 貞男




