日本內戰錄 第五十號記錄 ― 交換地点にて ―
九月四日。
本日は革命軍七名、帝国軍六名の捕虜交換が行われた。
交換地点までは河川沿いの開けた地形。
双方の警戒線がはっきり引かれ、
兵士同士は決められた距離を保って進んでいた。
革命軍側の七名は、
歩行可能ではあるが疲労が濃い。
中には脱水と栄養不足の兆候がある者もいたため、
交換後の応急処置の準備を整えておいた。
交換が始まると、
空気が張りつめる。
敵味方の捕虜が互いの横を通り過ぎるとき、
数人が無意識に視線を交わしていた。
その中に──
見覚えのある顔があった。
黒田 翔。
倒れたあの日から消息が途絶えた彼が、
列の最後尾で静かに歩いていた。
頬は少し痩せているが、
目はしっかりこちらを認識していた。
私は声を出しそうになったが、
規定どおり捕虜交換中は呼びかけてはならない。
ただ一歩前に出て、
終わるのを待った。
交換が完了すると、
黒田は歩みを止め、
少しふらついた。
「黒田……?」
声が自然に漏れた。
彼はわずかに頷いたが、
返事の声は出なかった。
すぐに腕を支え、医療所へ搬送した。
外傷は軽い。
だが、表情の奥に沈んだ何かが抜けていない。
処置を続けながら思った。
帰ってきたという事実だけで、
今日は十分だ。
記録は以上。
―― 坂井 苑
九月四日。
交換地点へ歩かされている間、
足が地面を踏んでいる感覚が薄かった。
帝国側の兵は、
必要以上の暴力は振るわなかったが、
常に“監視されている”という空気があった。
あれが続けば、
誰でも喋らなくなるし、
何も考えなくなる。
交換地点の空気は、
敵味方関係なく張りつめていた。
革命軍の列が近づいて来た時、
白い布の袖が目に入った。
坂井だ。
自分の名前を呼ばれる前に、
体が勝手にそちらを向いた。
声を返したつもりだったが、
喉は音を作れなかった。
交換が終わり、
革命軍側へ渡された瞬間、
足から力が抜けそうになった。
坂井に支えられたとき、
初めて「帰れた」と思った。
記録は以上。
―― 黒田 翔




