日本內戰錄 第四十九號記錄 ― 崩れた建物の影 ―
九月三日。
復帰して三日目の巡視だった。
前線に戻ると、
街の匂いが以前より濃く感じた。
煙、埃、焦げた木材。
病院の白い天井に慣れかけていたせいか、
空気のざらつきがやけに肌に刺さる。
本日の任務は北区の廃ビル群の見回り。
敵が潜伏するには十分な廃墟だらけだが、
最近は散発的な撃ち合いが増えている。
どちらが先に崩れるかの我慢比べだ。
ビルの角を曲がった瞬間、
砂埃の舞い方に不自然さを感じた。
「止まれ」
小声で制止した直後、
正面の建物の窓がひとつ揺れた。
銃口がこちらを向いていた。
反応がわずかに遅れた。
病院生活で鈍った“間”がまだ戻りきっていない。
敵が撃つより先にこちらが引き金を絞ったが、
袖に焦げ跡がつくほどの近距離で弾がかすめた。
砕けるガラス。
倒れる影。
すぐさま反撃の銃声が返ってきた。
後衛の兵が肩を押さえて倒れ込む。
「退け! 建物の影へ!」
二名負傷。
一名は歩行困難。
もう一名は応急処置で後退可能。
敵の人数は少なく、
こちらを深追いする気配はなかった。
偵察か、潜伏狙いか。
いずれにせよ、廃墟の静けさが逆に不気味だった。
負傷者を担いで坂井の医療所へ向かう道中、
割れた窓がこちらを睨んでいる気がした。
医療所に着くと、
坂井は既に複数の担架を処置していた。
戦線の荒れ方が目に見えてわかる。
「二名負傷、銃創一つと貫通一つ」
「分かった。置いていって」
短いやりとりだけで、
すぐ別の負傷兵へ移っていった。
彼女の疲れは隠しきれていなかった。
帰り道、
黒田のことが頭に浮かんだが、
消息はまだ届かない。
生死も分からず待つのは、
撃ち合いより堪える。
記録は以上。
―― 河合 慎




