日本內戰錄 第四十七號記錄 ― 壊れた滑走路 ―
八月二十五日。
本日の出撃は予定どおり――のはずだった。
暖気運転を終え、出力を少しずつ上げて滑走路に入る。
まだ体は新兵の感覚が抜けきっておらず、
スロットルを押し込む右手が少し震えていた。
「日比谷、離陸よし。行け」
塔台からの声に従い、速度を上げる。
滑走路の白線が伸び、機体の振動が細かくなる。
ここまでは訓練で何度も繰り返してきた動きだ。
だが、前方の空に黒い影が走った。
敵の攻撃機。
高度は低い。
こちらが離陸を始めたのを狙ってきたのは明らかだった。
「爆弾だ、散れ!」
塔台の叫びが無線に割り込んだ。
敵機の腹から灰色の塊が落ちる。
落下の軌道は、ちょうど滑走路中央。
逃げ場は無かった。
次の瞬間、味方の対空砲が火を噴いた。
着弾が早い。
敵機は火花を散らしながら空中で割れ、
翼をもがれたまま横倒しに墜ちた。
助かった――と思ったのは一瞬だけだった。
爆弾は、敵機が死ぬ直前にすでに投下していた。
それが滑走路に触れた瞬間、
白い閃光と黒煙が同時に視界を覆った。
揺れた。
身体ごと前へ投げ出されるような衝撃。
エンジンは全開のまま、機体は爆風に押されて右へ跳ねた。
離陸速度に達していたため、止まれない。
コンクリートが割れた溝に主輪が落ち、
機体が横転しながら地面を削った。
視界が回転し、機体が潰れる音が耳の奥で響いた。
そこで記憶が切れる。
⸻
気がつくと、白い天井があった。
動かそうとした腕は包帯で固められ、
足は重く痺れている。
「起きたか」
声のする方を見ると、
帝国陸軍の軍服の男が椅子に座っていた。
年は三十前後。
腕に包帯。
顔に薄い切り傷。
名乗らずともすぐ分かった。
ニュースや部隊報告で見たことがある。
大淵 貞男。
前線の生き残りとして名が知られている兵だ。
「……すみません。離陸できませんでした」
情けない声になった。
大淵は、少しだけ笑った。
「お前の責任じゃない。
敵が卑怯なだけだ。
俺も似たようなもんだ。ここに来たのはつい最近だ」
そう言って天井を見上げた。
「戦争は、思ってるよりずっと雑だ。
死ぬ時も、生きる時も、理由なんてない」
新兵の胸に刺さる言葉だった。
俺は返す言葉が見つからず、
ただ息を整えるしかなかった。
記録は以上。
―― 日比谷 守




