日本內戰錄 第四十五號記錄 ― もう一つ手が欲しい日 ―
八月三十日。
今日も負傷者が途切れない。
数だけでなく、傷の種類が揃わず、
優先順位の判断が異様に難しかった。
午前だけで五名。
午後にはさらに八名。
この規模が三日目に入る。
処置台は三つ。
使える手は、私を含めて二人分しかない。
それ以上は望めない。
一人目、胸部裂創。
浅いと思われたが、処置の途中で血が再度噴き出した。
圧迫しながら縫合する手が少し震えた。
二人目、腹部刺入。
深さの判定に時間を奪われる。
本当はこんなときこそ迷ってはいけないのに、
早く・正確に、の両立はいつも難しい。
三人目、爆風による鼓膜破損。
「聞こえない」と何度も繰り返す声が、
逆にこちらの耳にははっきり届いた。
四人目、太腿貫通。
泥が多く混じり、洗浄だけで長時間を要した。
痛みに耐える兵の歯の音が、小刻みに鳴っていた。
五人目は「歩けます」と言って来たが、
処置台の前で崩れ落ちた。
内部出血。
気づけたのは、本当に偶然。
午後組のうち二名は、
今ここでどれだけ処置しても救命が難しい状態だった。
一人は台に、もう一人は毛布の上で応急処置。
手足の温度がゆっくり下がっていくのが、
触れただけで分かった。
血の匂いには慣れたと思っていたのに、
今日は胸の奥まで刺すように感じた。
原因は分かっている。
補給が滞り、
包帯も麻酔薬も底が見えてきた。
「坂井さん、どうします!?
この二人、どっちを先に運ぶべきですか!」
若い班員の声が揺れていた。
私は短く答えた。
「出血の多い方を先に。
もう一人は……できる限り支える」
それ以外の言葉は持っていなかった。
夕方、
河合が二名の負傷者を担いで来た。
私の顔を見て一瞬だけため息をついたが、
すぐに表情を戻して言った。
「もっと来るぞ。覚悟してくれ」
言われなくても分かっている。
夜までに処置した兵は十三名。
こんな数字、医療所の限界をとうに超えている。
明日、
もっとひどくなるかもしれない。
記録は以上。
―― 坂井 苑




