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日本內戰錄 第三十九號記錄 ― 前線の空気は変わっていた ―
八月二十六日。
退院許可が出た。
胸の傷はまだ痛むが、
前線は負傷兵の余裕を待ってくれる場所ではないらしい。
中隊に戻ると、
俺の装備置き場だけがそのまま残されていた。
埃だけが積もっていて、誰も触れていないのが分かった。
中隊長は短く言った。
「戻ってきてくれて助かる。
人手が足りていない」
その一言だけで、
この数日の損耗がどれほど大きかったかを理解した。
中隊を見回すと、
知っている顔の数が減っていた。
補充兵が多く、
俺より若い者も目立つ。
「……あんたが河合二等兵か」
と言われた。
どうやら、
“撃たれても戻ってきた兵”として噂が広まっているらしい。
英雄扱いでもなく、尊敬でもなく、
ただの“戦場の運の良さ”を纏った存在として。
昼、塹壕の巡視に出た。
土は新しく掘り返された跡が増え、
通路の端には血の跡が砂で雑に隠されていた。
担架が二つ、医療所へ運ばれていく。
顔は見えなかったが、
呻き声だけは耳に残った。
黒田の行方はまだ分からない。
捕虜になったという報告だけで、
生きているのか、
どう扱われているのか、
その先は誰にも分からない。
だが――
考えないようにしても、
胸の奥が重く沈む。
俺が離れる前と同じ前線ではない。
それだけは確かだ。
―― 河合 慎




